LIXILグループ支配権争奪戦とコーポレートガバナンス改革の限界

2019年06月27日 11:30

自分が当事者の株主総会が続き、新聞もネットニュースも確認する時間的余裕がほとんどなかったので、すっかり世間の総会ネタから取り残されておりました(*´Д`)(自身のほうは平穏無事に終了しました)。LIXILグループ、日産、スルガ銀行等、すでにメディアではタイムリーな記事をまとめた総括記事が掲載されておりますので、以下で述べる感想は、もはやライブ感の乏しいブログネタでございます💦

LIXIL本社(Wikipediaより:編集部)

LIXILグループの株主総会に関する日経ニュースでは、会社側取締役候補者6名、株主側取締役候補者8名、株主側CEO候補者の賛成票53%得票ということで、たいへん僅差で株主側勝利に終わったと報じられています。とりあえず決着がつきましたので、今後は「ワンLIXIL」として、一般株主の方々の期待に応えて、業績をぜひとも回復していただきたいと思います。

さて、株主側勝利の要因としては、機関投資家の多くが株主側の主張に賛同したことが大きいと考えますが、会社側の敗因としては、朝日新聞インタビューで新しい取締役会議長の方が述べているように「会社側候補者2名が議決権助言会社の反対推奨を受けたことが大きかった」と思います。

ちなみに否決されたお二人は(たとえばISS意見では)所属している組織がLIXILグループと取引関係にあったことから、独立性がないとして反対推奨を受けておりました(新聞に掲載されているような「関東財務局」とか「ベネッセ」ではなく、それぞれの前職である「日本政策投資銀行」「野村證券」のほうが問題とされています)。

取締役、とりわけ社外取締役の推奨方針として「独立性」を持ち出すことにはいろいろと批判もあるようです。しかし、6月21日の日本証券新聞のISS日本代表の石田氏のインタビュー記事によると、ISSの来年度の助言方針として「政策保有銘柄企業出身の社外取締役、社外監査役には独立性を認めない」ものとして、さらに独立性要件を強めるそうです(ただし、今回のLIXILグループの候補者について、独立性要件だけで賛否を決めているのではなく、その独立性への疑問がどれだけ希薄化しているか・・・といった実質まで検討したうえで判断されているので、決して「独立性」要件のみで形式的に判断されているものではないことを付言しておきます)。

企業統治の世界で「株主が取締役を信頼する(信認する)」というのは、原則としてふたつの方向性があります。ひとつは「裏切ったら厳罰が待っている」ということ。上記石田氏のインタビューでも「ガバナンス優等生に『恐怖の規律』」として、日本には「恐怖」(たとえば株主代表訴訟や金商法21条違反による損害賠償リスク)がほとんど存在しないことが指摘されています。たしかに「私は株主共同利益のために職務を全うする」と口では言いつつも、実は創業家の利益のために働く、ということを防止するための規律には、厳罰が機能しない以上は限界があると思います。

そうしますと、もうひとつの「信頼」である「人格・識見への信用」というところに依拠せざるをえません。しかし、優秀な社外取締役や社外監査役が活躍する企業というのは、「攻めの場面での優秀さ」は全て経営者の功績に包摂されるものであり、また「守りの場面での優秀さ」は有事に至らずに「何事もなかった平時」が維持されるものなので、そもそも社外役員の人格・識見への評価はかなりむずかしい。

また、社外役員さんの業務支援の経験からしますと、「A社との相性が良かったのでとことん力を発揮できたが、B社との相性が悪かったので1年で退任勧告を受けた」という経営者OBの方もときどきいらっしゃいます。そこで、「人格・識見への信用」に関する社外取締役への発露としては「独立性」というところに求めざるをえない。ここにも「取締役会の役割」に焦点をあてるコーポレートガバナンス改革には限界がありそうです。

ご承知の方も多いと思いますが、日本の株主総会の権限は米国と比較しても格段に強いものであるため(米国企業における株主総会の法的拘束力はとても弱い)、このたびの企業統治改革は取締役会改革が中心です。しかし、その取締役会改革に株主の力を借りようとするとそこに上記で述べたような限界があります。

日経ビジネス2019年6月17日号の特集記事「正しい社長の辞めさせ方」において、神田秀樹先生(東大名誉教授、学習院大学教授)が「(ガバナンス新時代には)多元的なけん制機能を」と題して、経営者を監視するためにはもっと敵対的買収や企業間訴訟を用いるべき(取締役会の監視によるけん制とのバランスを図れ)と提言されています。日本ペイントさんやデサントさんでは、敵対的買収の圧力が株主と経営陣との対話(和解?)を進めましたが、このガバナンスの限界を超えるためには、やはり厳罰の在り方を含めた法政策的なルールの活用が必要と感じました。

なお、「社外取締役として優秀な人を探したい」とお考えの企業にとって、いま一番欲しいリストは「LIXILグループの指名委員会からの要請を受けたが、諸事情により辞退した方々の名簿」ではないかと(ヘッドハンティング会社にとっては垂涎モノでしょうね)。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年6月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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