トランプ大統領の北朝鮮と中国への融和策はいつまで続くか

2019年07月02日 06:01

トランプ大統領がアメリカの大統領として史上初めて北朝鮮に足を踏み入れたことや金正恩労働党委員長と三度目の会談をしたことがメディアで大きく報じられている。

DMZで出会ったトランプ大統領と金正恩委員長(CNNより:編集部)

数週間のうちに実務者協議を再開するとのことだ。またその1日前、大阪のG20サミットの際にトランプ大統領は中国の習近平国家主席と会談した結果、中国への追加関税の見送りと貿易交渉の再開を合意した。

世界はこれらの事態の急展開に驚きつつも歓迎し、金融市場はリスク・オンの状態に戻って株価は上昇、為替も円安ドル高になった。

これらのトランプ大統領の動きは、世界の予想を超えるものだけに、世界では様々な解釈がなされ、これは大統領が来年の大統領選挙を視野に、国内向けのアピールとしてとられたものだという見方もされている。

確かに、トランプ大統領にとって来年の大統領選挙で勝つことは最優先課題となっている。そうした中で、アメリカの貿易赤字を削減するという目的の米中貿易戦争は、アメリカ第一を掲げるトランプ支持層に歓迎される一方で、中国と関係が深いアメリカの企業や農産物の輸出農家にとって大きなマイナスとなっている。また、民主党からはトランプ大統領の好戦的で孤立主義的な姿勢が批判されたりしている。

しかし、こうした批判をかわすために、急遽このタイミングで中国、北朝鮮と雪解けを演じる必要があるのだろうか。

北朝鮮の金委員長との会談は中身のあるものではなかったとメディアが報じているし、世間の受け止め方もそうだろう。やはり、北朝鮮が非核化への取り組みに真摯な姿勢を見せるまでは、アメリカは経済制裁を解除しないだろう。

中国についてもそうだ。中国人技術者による国防に関わる技術の持ち出し事件や中国系ハッカー集団による企業の重要技術の流出はかねてより報じられているが、さらに数日前のブルームバーグの報道では、かなり前からファーウェイの従業員が中国の軍関係者とAIから無線通信技術まで幅広く共同研究を行っていたことが明らかにされている。

G20大阪での米中首脳会談(ホワイトハウスFBより:編集部)

中国政府はもちろんこれを否定しているが、アメリカにとってはこうした中国が官民一体となってアメリカの知的産権、特に国防に関わる技術を盗み取ることは、とうてい許せるものではないはずだ。

仮に、米中貿易戦争が終わりを迎えるときが来るとしたら、それは以前中国のZTE社が米国企業からの部品調達を禁じられたときに、多額の制裁金に加えて、アメリカの監視チームをZTE社に置くことを認めるという条件をのんで、制裁を解除してもらったのと同等の条件をファーウェイと中国政府が呑んだ時しかない。しかしそれは中国政府としても、おいそれとは同意できないだろう。

それなのになぜこのタイミングで、トランプ大統領は中国や北朝鮮への圧力を緩めるのかと言えば、それはアメリカがイランとの対決を中国や北朝鮮問題より現在は優先しているからだろう。トランプ大統領は、大統領選でのユダヤ票のことが気にかかっているはずだ。

日本のメディアではホルムズ海峡での日本のタンカー攻撃のときこそ大きな話題として取り上げたが、その後は半ば忘れているように思える。しかし欧州のメディアはアメリカとイラン問題を常に注視して報道している。

トランプ大統領としては、今はイランとの対決に集中する必要があるからこそ、中国と北朝鮮に対しては一時的に打ち解けた雰囲気を作っているのだと思う。

今後どういう形であれアメリカとイランの問題が片付けば、中国と北朝鮮にはいずれまたトランプ大統領から矢玉が飛んでくるだろう。今のアメリカと北朝鮮及び中国との関係は、ちょうど台風の目の中に入った状態といえるだろう。いずれまた暴風が吹き荒れることになると思う。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト

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