不動産価格上昇の基調は続くか?

岡本 裕明

G20ですっかり影が薄かったのですが、7月1日に国税庁が今年の路線価を発表し、4年連続上昇で昨年比1.3%上昇したと発表しています。都心は平均4.9%アップで下落傾向が止まらなかった高知や秋田の一部地域でも27年ぶりに上昇と報じられています。

acworks/写真AC(編集部)

都内では北千住駅前が20.1%、江東区の門前仲町もオリンピック絡みか、14.3%上昇とあります。

NY、ロンドンなど不動産価格が高額だったところでは不動産価格が冷え込みつつある中、日本はある意味、異彩を放っているかもしれません。この上昇は本物なのでしょうか?

路線価は国税庁が発表するものでこれとは別に国交省が公示価格を毎年1月1日時点分として3月に発表します。どちらかというと不動産価格を述べる場合は公示価格がより参照しやすく、路線価はあらかた公示価格の8割程度の数字が出てきます。

今年1月の公示価格は全用途平均が1.2%アップでした。うち、住宅地は0.6%プラス、商業地が2.8%プラスで近年の商業不動産がリードする構図は変わっていません。

基本的には訪日外国人の増大、また外国人が地方に観光に向かう傾向が強まり、地方都市でもそれらの需要に合わせた不動産投資が進んできていることがあげられます。また、大阪はもともと外国人から圧倒的な人気があるうえ、万博期待もあり、しばし、良好な上昇を示すのではないかとみています。

東京など大都市は再開発が進み、その波及効果も出てきそうです。例えば渋谷の再開発は佳境になっていますが、人の動線は大きく変わりそうです。(ただし、個人的には渋谷はファンダメンタルズがない街《狭い、坂ノ下、首都高速が街を分断》だと考えていますので過度な期待はしません。)山手線新駅や東京駅八重洲口側開発への期待感もあります。これらはオフィスや商業施設を伴う大規模開発が主導する形となります。

一方、住宅ですが、奇妙な下支えがある気がしてきました。私は人口が増えない日本において住宅地の不動産は上昇しないと長年主張しています。また、若者に持ち家志向が減っていること(結婚しないから気楽な賃貸やシェアハウスでもいいという人もいます。)、住宅ローンが付きにくい人や頭金が足りない人もいます。さらにはマンションの高層化により土地そのものの需要減に伴い、価格が相対的に上昇しにくくなっている原因もあります。

半面、比較的高齢になりつつある方に住み替え需要が生まれているように見えます。これは温暖化の背景もあるのでしょうが、自然災害が多くなり、地方においてより街中に近いところに安全安心のために住み替える需要がでてきています。特に豪雨の被害が出やすい中国四国九州での街中のマンションなどへの需要は大きく高まる公算があるかもしれません。(個人的にはコンパクトシティ化の一環になるのでウェルカムです。)

もう一つは地方での古い住宅への敬遠が考えられます。親が長年住んだ古い家は子供たちなど若い人はもう住みたくないという素直な反応です。都会の人からすると古家の再生が物珍しさも手伝い、ニュースにもなりますが、ほとんどの親の住む(あるいは住んでいた)住宅は放棄に近い形となっているように感じます。つまり、自動車や衣服と同様、住宅も世代間では引き継がれず、新しいものに変わっていくのです。それを促進する一つがやらなくなった田畑に家を建てるという考えです。土地があるのだから上物だけなら2000万円もあれば十分建築できるでしょう。

ただし、これらの需要は今の世代の特例的事象だと考えています。つまり、ブーマー族が不動産など資産を子供に引き継ぐという過程で生じた需要だとみています。よってこれが永遠に続くこともないでしょう。ある意味、不動産にとっては追い風が吹くもののその風が止むときも遠くはない、とも言えそうです。

正直、今の日本は景気がいいです。私は外に住んでいて時々日本に行くからこそ感じる景気の風があります。何をもって景気が良いというのか、これはバブルの時だって一般大衆にとっては客観性よりも雰囲気に流された主観的な面もあったと思いますが、今は明らかに訪日外国人がもたらした景気があります。これが不動産価格を下支えし、新たな投資を生み出す循環を作り出していることは間違いないでしょう。

大阪弁でいう「ボチボチでんな」(=エエ感じ)ということかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月4日の記事より転載させていただきました。