韓国への輸出規制は真に安全保障上の理由なのか

2019年07月04日 16:00

日本政府による「韓国への輸出管理体制見直し」が反響を呼んでいる。このアゴラにも「ガチの貿易戦争で韓国が悲鳴」と題して編集部より韓国の報道やネットの反響などが紹介されていた。色々な意見があると思うが、今までの経緯や国民感情を考えると、(国政選挙も近づいている時期に)政府もただ手をこまねいているという訳には行かなくなったのであろう。

官邸サイト、韓国大統領府Facebookより:編集部

今回の日本政府の対応について、アゴラ編集部の記事でも触れられていたが、一部懸念されているようなわが国企業などへの悪影響がそれほどではないのならば、この対抗措置は極めて有効な切り札であったと言えるであろう。しかし、このような刃(やいば)を抜いた以上、これが思わぬところに飛び火する可能性というのも考えておかなければならないであろう。

筆者が気にしているのは、この「半導体材料などの韓国向け輸出手続きの厳格化」の理由である。今回の輸出規制がわが国による「韓国の強制徴用判決による日本企業の資産差し押さえなどに対する報復」であることは自明のことだが、韓国が世界貿易機関(WTO)への提訴に踏み切る可能性などを考慮して、政府はこの決断に至った根拠を「安全保障上の理由」と説明した。

具体的には、世耕経済産業相が2日の閣議後の記者会見で「軍事転用が可能なフッ化ポリイミドなど3品目について、韓国の輸出管理をめぐる不適切な事案が発生した」と指摘し、「韓国側の安全保障上の不備が手続きの厳格化につながった」と説明した。細部は明らかにしなかったものの、実際に第三国への転売など何らかの不適切な事案があったのであろう。

ANNニュースより:編集部

つまり、このような理由を付与して事実上の制裁措置を実施したということは、わが国は韓国を安全保障上「グレーな国」と位置付けたということになる。今回、戦略物資の輸出手続きを簡素化する、いわゆる「ホワイト国」のリストから韓国を外したのも、これを裏付ける結果となっている。

以上のことは、今までのわが国の北朝鮮問題における基本スタンスである「日米韓同盟から日本は身を引く」と受け止められる可能性があるということである。

具体的には、「日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIYA:General Security of Military Infomation Agreement)」について、韓国軍艦のレーダー照射問題の際にも韓国政権内の対日強硬派によってこの破棄が取りざたされていたが、再びこの気運が高まることが予想される。

韓国にしてみれば、「こちらがグレーな存在というならば、そのような国とかかる協定を維持しておくべきではないだろう」という理屈が成り立つ。もし、この協定が破棄されれば、北朝鮮の核・ミサイル関連情報などについて、日米韓による情報共有に少なからず支障をきたすことになるであろう。

このようなことを承知の上で、(これまでの韓国側の行いによって)日米韓同盟は事実上崩壊しているとの認識のもとに、今回の行動を「安全保障上の理由」で決断したならば、それはもう何も言うことはない。この協定は一年ごと(毎年8月)に自動更新されることになっており、破棄する場合は相手側に更新される90日前に文書で通知しなければならないと定められているので、韓国が破棄を決心したとしても来年5月まではこの協定は効力を持つ。

わが国の政府が、これを見越してこの時期まで「韓国への輸出規制」の発表を遅らせていたのだとしたら、十分に戦略を練った上での措置だったのだろうから、今後の北朝鮮に対応する日米韓関係のスタンスも新たに考えた上でのことなのであろう。

ただ、このような事態になれば、韓国の対日強硬派だけではなく、日米韓の同盟にくさびを打ち込もうと狙っていた中国や北朝鮮には好機を与えることになるだろう。また、このような懸念を背景に韓国が日米韓同盟の重要性を盾にとって米国を巻き込み、日本による「安全保障上の規制の取り下げ」を求めてくるかも知れない。これに対して、わが国はどのように応じるつもりなのだろう。

韓国がこのまま引き下がって、徴用工問題などで日本側に譲歩するとはとても思えない。かといって、このままでは経済的な打撃を回避するのは困難であろう。となると、やはりこのような安全保障面から韓国が何らかの対抗措置を仕掛けてくることを予期しなければならないのではないか。筆者が言うまでもなく、政府は当然このようなことは織り込み済みで今回の措置に踏み切ったのだとは思うが。

鈴木 衛士(すずき えいじ)
1960年京都府京都市生まれ。83年に大学を卒業後、陸上自衛隊に2等陸士として入隊する。2年後に離隊するも85年に幹部候補生として航空自衛隊に再入隊。3等空尉に任官後は約30年にわたり情報幹部として航空自衛隊の各部隊や防衛省航空幕僚監部、防衛省情報本部などで勤務。防衛のみならず大規模災害や国際平和協力活動等に関わる情報の収集や分析にあたる。北朝鮮の弾道ミサイル発射事案や東日本大震災、自衛隊のイラク派遣など数々の重大事案において第一線で活躍。2015年に空将補で退官。著書に『北朝鮮は「悪」じゃない』(幻冬舎ルネッサンス)。

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