G20サミットで、何が見えてきたのか?

6月28日から29日にかけて、大阪でG20が開かれた。その最中、28日深夜放送、「朝まで生テレビ!」では、「激論!G20サミット“米中対立”と日本の覚悟」をテーマに徹底討論をした。

今回のG20は、アメリカがいかに中国を恐れているか、が鮮明になった首脳会議だと言えるだろう。そして、日本はいったいどうするのか――。森本敏さんや、金子勝さん、手嶋龍一さん、三浦瑠麗さんら、僕が信頼するパネリストたちと、徹底的に話し合ったのだ。

「すでに米中覇権戦争のフェーズに入っている」と、森本さんは言う。中国は、経済で、特にAIでアメリカを超えようとしている。「2030年までにAIの世界的リーダー」を目指し、中国はアメリカを抜こうとしていると言うのだ。

この意見に僕も大いに同意する。僕が取材してみても、リアリティがある。たとえば、IT企業の時価総額だ。2013年の世界ベスト20社は、アメリカが18社、一方の中国は2社だった。ところが2018年になると、アメリカが11社、中国は9社になっている。

その要因はいくつかある。まず中国は、「グーグル」や「フェイスブック」といったアメリカの企業を中国国内で活動させていない。だから独自に「テンセント」や「バイドゥ」といった中国企業が、育つことになった。

AIの進歩にはビッグデータが不可欠だが、速やかな収集や活用には、プライバシー保護がネックとなる。しかし、プライバシー保護の観点が中国にはないので、国民のデータは使い放題だ。そのうえ人口も多いのだから、中国にはAI進歩のための条件が揃っていると言えよう。

もちろん、人材育成にかける意欲も、日本の比ではない。多くの留学生をアメリカなどに送り、優秀な人材をどんどん育てている。さらに国が資金を出して、海外からも優秀な人材を呼ぶ。いずれにしても、中国独自のイノベーションが、アメリカにとって脅威になっていることは間違いない。

しかし、パネリストの一人である、神田外語大学教授の興梠一郎さんは、「民主主義と市場経済を信じたい」とも語っていた。僕もまったく同感だ。

言論の自由も、表現の自由もない国が、覇権を握ってよいのだろうか。そんな国が覇権を握ったら、どうなるのか。そして、このような状況で、日本はどうすべきなのか。

金子さんが、「先進国で大学の予算を減らしているのは、日本ぐらいだ」と憤っていた。イノベーションというのは、人を育てなければ起きるはずがない。そんななかで、教育にお金をケチる国は、沈んでいくだけだろう。

だが、それでも僕は、希望を持っている。日本はダメだ、ダメだと、みんな言う。しかし、ではなぜ日本は、こんなに安定しているのか。なぜ、安倍内閣の支持率は、40%を超えているのか。

日本で生活しながら、日本を客観的に見てきたアメリカ人のパックンさんは、「日本ほど治安のよい国はないし、ほんとうにいい国です。けれど危機感を持つべき」と言った。まさにその通りだ。

確かに数字だけを見れば、日本は沈みゆこうとしている。だが、「安定」という点では、誇ってもいいのではないか、と僕は思う。

その誇りは持ちつつも、現実を厳しく見ながら、政治、経営、教育の諸問題を変えていかなければならない。いま、米中の関係性が、劇的に変わろうとしている。日本にも、変革のときは来ているのだ。そのことを、改めて突き付けられたG20だった。

 


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2019年7月6日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。