戦略特区報道で露見:毎日新聞の既得権益側につく企図

田村 和広

6月11日から始まった毎日新聞による戦略特区報道からおよそ一ケ月が経つ。一月もの間他社がほとんど追随しないという、キャンペーンとしては誠に寂しい状態を維持している。報道直後から当事者である原英史氏(戦略特区ワーキンググループ座長代理)により言論サイトやSNSを中心に反論がなされ、毎日への疑問の声はインターネットテレビや一般雑誌まで徐々に広がっている。

毎日新聞東京本社(Wikipediaより:編集部)

毎日新聞自身による戦略特区報道の総集編

毎日新聞は7月7日、特区報道の総集編とも言えるまとめ記事を「特区に疑義再燃」という見出しで朝刊3面に掲載した。「原作・演出・主演」の全て、つまり字義通りの「自作自演」が際立つ報道である。この記事に対する反論も、「毎日新聞の7月7日記事への反論」としてアゴラ他の言論サイトで7月8日に原英史氏本人により完了しているので、別の観点から一連の報道への補足をしたい。

6.11記事にあって7.7記事にない「3つの言葉」

キャンペーン開始となる6月11日の毎日新聞一面は、不適切な取材で強引に作り込んだストーリーをもとに、巨大な見出しと図表で大々的に「スクープ」報道をしている。報道全体を検証する初手として「6月11日の記事にあって7月7日の記事にはない言葉は何か」という時系列の差異分析をしてみたい。その際、鍵となるのは3つの言葉だ。

差異1:「200万円」と「会食」

6月11日の記事では、

「特区提案者から指導料 WG委員支援会社200万円、会食も」

という巨大な見出しが一面トップに踊る。更に、図において「学校法人」から「特区ビズ社」に、「特区ビズ社」から「原英史氏」に矢印が記されている(学校法人→特区ビズ社→原英史氏、図では全て縦方向矢印)。この図では、学校法人から特区ビズ社に「約200万円」が支払われたこと、特区ビズ社から原英史氏へは「代理提案」がなされたことを表す単語が矢印に添付されている。

ここで、シンプルに「200万円」が原氏に移動したとは書いていないことに注目したい。これは、一面を眺めた読者が「結局お金や便宜が学校法人から原氏に渡ったということだ」という意味に勝手に補足して誤解するよう仕向ける「騙しのテクニック」である。

更に同日の毎日新聞紙面では、「料理屋で会食し法人が負担した」、「大皿が並ぶカウンター席」、「かっぽう料理屋でふぐ」といった高額の饗応を連想する具体的記述もなされている。これらも原氏によって、当日のスケジュールという証拠付きで明確に否定されている。そのため取材の過程で登場した無関係な単語を混ぜた創作と見られるが、これも信憑性を高めるための「騙しのテクニック」である。

これらの記述についてジャーナリスト岩瀬達哉氏は

「普通の読者の注意力と読み方をすれば、原氏はカネだけでなく、饗応など甘い汁を貪欲に吸っていたと受け取れる内容だ。」

と週刊現代のコラム「ジャーナリストの目」(7月13・20日号、7月8日発売)で評論している。納得の評論である。

これらの刺激的な表現は、一か月後となる7月7日の紙面からは殆ど消滅した。紙面では「原座長代理と協力関係にあった会社が(中略)コンサル料を受け取っていたことが判明」、「原氏は(中略)指導をしたり会食をしたりしていた。原氏は会食を否定している」とのみ記載されている。毎日側が「事実」と見なしている事柄の表現に留められ、トーンダウンが著しい。

この大きな後退は、明らかに原氏からの訴え提起を受けて、今後の法廷における論戦で事実として維持できないことを、毎日新聞自身が自覚していることの傍証である。

差異2:「収賄罪」

6月11日の毎日の報道では、恒川隆生・静岡大名誉教授(行政法)の話として次のコメントが掲載されている。

「…原英史氏が公務員なら収賄罪に問われる可能性もある。」

実際には原氏は公務員ではない。その上「収賄罪」相当の行為も全く認められない。それでも識者の言葉を借りる形で、毎日側がここまで名誉を毀損する表現をするならば、信頼できる証拠の添付や追加は必須であろう。

この「収賄罪」に相当するという表現も、7月7日の紙面には全く登場しない。これもまた法廷における論戦に耐えられない記述の一つということである。

「誤りを訂正しない」ことが悪意の存在を証明

上記2つの報道内容の誤りは未だに訂正されていない。原氏は訴え提起に先立って、訂正記事を掲載するための十分な猶予期間を毎日に与えていたが、それも毎日は無視した。

この「毎日側は訂正をしない」という事実は、「それらは誤報ではなく虚報である」ということの証拠である可能性が高い。つまり、間違えたのではなく、読者を欺く企図をもって敢えて記述した捏造記事である可能性が高いのだ。意図的な捏造であるなら、訂正しないことは当然であり、逆に間違えたのであれば、訂正するのが報道機関であるからだ。そうであるならこれは悪質な印象操作だ。

ここから浮き彫りになるのは、「何らかの意図をもち、その意図を実現するために事実を曲げて捏造記事を掲載した」という構図である。その意図とは何か。

まとめ

確かに100%正義の人間は実在しない。しかし原氏ほどの勇気と知恵と人脈がある人物が、小さなお金や食事で「買収」されるとは考えにくい。本気でお金を追求するなら、既得権益との戦いでなくて、権益側の味方になる方が利得の期待値は桁違いに大きい。なぜなら既得権益側にこそ大きなお金と旨味があるのである。しかし、原氏は200万円が仮に200億円であっても心を動かさないだろう。

要するに、これも利権・既得権益陣営との戦いの一支戦である。戦略特区を舞台の一つとして、官僚の天下りを阻止するような法案作りにも参画した原氏を恨む勢力は小さくない。毎日は既得権益側についたということである。

報道機関は反安倍政権活動に注力するあまり、攻撃方向を間違えている。既得権を持つ巨大で不可視な権力の側に立ち、一個人を不当に執拗に糾弾する組織がジャーナリストを名乗れるのだろうか。

田村 和広 算数数学の個別指導塾「アルファ算数教室」主宰
1968年生まれ。1992年東京大学卒。証券会社勤務の後、上場企業広報部長、CFOを経て独立。