降下する中国経済の行方

岡本 裕明

中国の4-6月GDPが発表になりました。6.2%成長で1992年以降の四半期GDPとしては最低を記録しました。最低と言うとその言葉が独り歩きするのですが、個人的にはこの経済環境でよく踏ん張っているとみています。もっともこの統計の信憑性がどれぐらいあるのか、恣意性があるのか、そのあたりを考え始めると何も分析する価値がなくなってしまうので一応、発表されたがままの数字を見て考えてみます。

新華社サイトより:編集部

1-3月が6.4%成長で今回の6.2%を合わせると1-6月の成長率は6.3%で習近平体制として2020年の目標である2010年GDP比倍増にはギリギリですが、まだ到達可能な数字となっています。

では私が踏ん張ったとみた理由は4-6月を月ごとに見ると6月に消費と工業生産がぐっと伸びているのです。特に消費は2018年3月以来の水準に戻しています。これは4月から始まった4兆元規模の企業、及び個人向けの減税や手数料割引などで消費や企業経済を喚起しているためで統計上は4月をボトムに急速に盛り返しています。

工業生産も6月が6.3%増で過去5-6年の平均的水準に戻しています。仮に近いうちに米国との通商問題に決着を見るようならばもう少し息を吹き返すとみています。日経は今回のGDPについてかなりネガトーンですが、北米の報道はむしろポジティブで年後半への期待が高まっている点が明白な違いになっています。

中国の経済については一言で申し上げるほど簡単なものではありませんが、基本的な流れとしては2000年に6%台という低い成長率で一旦底打ちした後、急回復し2007年に15%という驚異的成長率をつけピークとなります。その後、リーマンショック下落とその反騰を経ながら、じわっと成長率が下がり、今に至る流れです。

これを見ると中国の成長率は基本的には現時点の実力からすれば6-7%程度の水準が妥当で2007年かけての超高度成長はオリンピックと万博という二つのイベント、WTOへの加盟、世界の工場としての認知といった特殊要因を踏まえ、国内外での不動産ブームと政府主導のインフラ整備、はたまた海外企業をM&Aで買収したバブルが後押しした、と言ってよいかと思います。

言い換えるなら今の中国はバブルで積み上がった実質的負債を十分に精算すること、その間に国内産業の基盤の再生を行うこと、都市層と農民層の仕切りを改善し、国家規模の経済力を生み出すこと、世界で認知され、協業したいと思わせる政府の実現をめざすなどの対策をしないと6%台の成長の維持すら難しくなるとみています。

「街は西に動く、国家の成長も西に移動する」という中で見れば経済の中心は中国からベトナム、タイを経由し、いよいよインドに向かうような気配があります。あと10年後には人口ボーナスもあるインドは一人っ子政策を取った中国に比し、圧倒的有利な立場になるとみています。

となれば中国は今後、守勢に回らざるを得ないのではないでしょうか。その中で中国の弱点とは仕事ではなくてお金に対する執着が人々の判断のベースにある点でしょうか?私の感じる中国は共産主義にもかかわらず、一部の指導者層(政治でもビジネスでも同じです。)と使われる層の格差がありすぎる点でしょうか?

それがあたかも使用者と労働者の関係となり、経済成長の割に労働生産性が上がらない原因の一つかもしれません。2000年頃の名目一人当たり労働生産性は日本の10分の1、2017年でも3分の1ぐらいに留まっています。

中国は共産党の一党体制ながら実質的には党内の派閥争いによる足の引っ張り合いになり、フレキシビリティが少ない体制が変化対応についていけていないように感じます。経済が好調な時は共産党も力を発揮しますが、守勢に回った時は内部での権力闘争を含め、混とんとすることもあり得るかもしれません。

GDPという3か月ごとの指標は上下があると思いますが、長期的なトレンドとなると「構造改革」が必須になるかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月16日の記事より転載させていただきました。