二階発言にあぜん:令和の選挙は予算獲得競争からの脱却を

西村 健

「政治とは、流血をともわない戦争である」

と毛沢東さんはかって言った(そうな)。

7月21日に参議院議員選挙を迎える。野党がうまく争点を吹っ掛けられていないため、与党の優勢が伝えられている。その与党の超大物が6月29日の会合で発した言葉に心底驚いた。

自民党の二階俊博幹事長は、土地改良の関係者を前に「選挙を一生懸命がんばったところに予算をつけるのは当たり前。そういうことをしないと自民党の存在価値がない」と発言。それなりに批判を受けたが、この「選挙がんばったら→予算つける」発言はあまりに問題にはならなかった。

自民党サイトより:編集部

有力なキングメーカーとされる政治家が本音を言ってくださったという意味で、ぶっちゃけていて、良いのではないかと思う。選挙に関わる方々はそれなりの利害を持って、影響を及ぼしたい、何かを得たいと関わってくるもの。いい悪いは別として、ある程度、それが現実である。恩の貸し借りにもとづく、利益集団と代理人間の単純な構造である。二階さんも必死に激を入れるのは、その立場からすると自然な行為だろう。

しかし、今は昭和ではない。令和という新しい時代の最初の国政選挙なのだ。

民主主義の価値を棄損する?!

価値観を掲げる中国の電光掲示板(大)、筆者撮影

この発言の問題は、3つ。令和になっても閉そく感漂う日本社会においては、かなり根深いものである。

第一に、事業が政策目的や想定効果や必要性よりも、特定の利益集団の特定の利益によって予算付けがされるということを認めてしまった形になったことだ。一部の業界のふんだんな利益は、結局、それ以外の層が幅広く、薄く負担することになる、

実際、利益集団が政治にかかわることは、美味しい投資の場合もなくはないだろう。

【投資】選挙での少しの手伝い・献金
【享受できる利益】事業、補助金、規制保護

ということになるからだ。目の前に美味しそうなパイをぶら下げられて、こうしたゲームに参加しないという選択はないだろう。個人的に見てきた経験では、政治献金は特段メリットはなく、大した効果もないことも多いものだが…。

第二に、今回は増税が争点のはず。この膨大な財政赤字で増税せざるを得ないのが日本の財政である。いわば、みんなで小さくなったパイを食べるのを我慢しないといけないという時である。そんな中、分け前を得るための競争に参加して、頑張って、勝利して、パイを独占し、その配分を自分の仲間たちに優先的に分けるで…と発言するのはどうなのか。

税が政権政党を支える利益集団に配分されてしまうのなら、まずそっちを正すのが先ではと多くの国民は思うだろう。これは、倫理的な面である。政権の正統性を棄損してしまう。

第三に、民主主義制度の価値を棄損する可能性がある。民主主義の要件は

  • 民主主義の定義:現代の自由な間接民主主義(選挙で選ばれた国民の代表が国民の利益にもとづいて判断を下す形態)
  • 民主主義のあるべき姿:多数派の意思を尊重する一方で、個人および少数派集団の基本的な権利を熱心に擁護
  • 民主主義の重視する価値:寛容と協力と譲歩

という点である。一部の利益に配分するというのは「国民の利益」に基づいていないし、民主主義的な価値を棄損する可能性がある。

価値観を掲げる中国の電光掲示板(小)、筆者撮影

「EBPM」という安倍政権の大事な成果にもマイナス

安倍政権は政策のあり方を変える改革を進めている。EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)といい、証拠に基づく政策立案。つまり、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものという考え方である。筆者も政策立案の専門家として大変評価をしている取り組みである。

しかし、自民党の有力者がこうした発言をしてしまうと、EBPMとはなんだったのか…と思ってむなしくなってしまうのだ。

おそらく、参議院議員選挙の当選が確定した後、やった~!万歳!している人たちの顔に(ほぼ)書いてある「自分だけよければええねん」という感情がテレビ画面が溢れ出る。

そんな選挙を見れば、普通の感覚の持ち主はばかばかしいと思う。「なんかおかしい」という問題意識を持たない人たちがそのメンタリティに基づいて行動した場合、政治は権力や利権配分の色が濃くなる。外野では、顔をしかめる人が増えるに決まっている(興醒め)。

あれだけの予算をかけて選挙啓発をしても投票率が上がらない現実。これが令和の時代も続くのか・・・と絶望的な気持ちになる。

可視化が進む令和の時代に向けて

ただ、先日、構想日本があるサイトをスタートさせた。税金の使い方がすべて見える 国の予算や事業の検索サイト「JUDGIT!」

税金の使い方がすべて見える 国の予算や事業の検索サイト「JUDGIT!」より

政府の事業を検索できるとてもよくできたサイトである。こういう「可視化」が進めば、どういうことになるのか。チェック機能が発揮される機会が増え、議論が誘発されるだろう。

土地改良というキーワードを入れてみたが…その結果は書かないことにする。

二階さんは過去、自民党を一度飛び出した時、政治制度改革に燃えていたはず。「日本の明日を切り拓く」ために必要なのは「デジタルレーニズム」(ビッグデータが可能にし、情報技術に支えられた権威主義)ではないですよね???

和歌山県田辺・白浜地区にかかわりがあり、政治家としての力量や中国との友好についてこれまでずっと評価してきた人間として、二階さんには、この発言を撤回するような行動を期待したい。

西村 健   日本公共利益研究所 代表・主席研究員