連載MMT① MMTを基盤とする経済政策の問題点について

2019年07月17日 06:01

参院選を前に各党の公約などが発表されています。中でもきわめてユニークな経済政策を掲げているのが山本太郎氏率いるれいわ新選組です。大胆に政府支出を増やすというその経済政策は今アメリカの政界・経済界でも話題のMMT(現代貨幣理論)というマクロ経済学の考え方に基づいていると思われます。

れいわ新選組Facebookより:編集部

この理論は一見すると有権者受けしやすい「増税せずに財政支出を増やすことができる」というものですので、選挙対策として政党が興味を持つのも当然です。しかし本場のアメリカでも多くの批判を浴びており、日本においても成功裏にその経済政策を実践するのはおそらく難しいと思われます。

アベノミクスが成功し、好景気もバブル期を超えるほどの長期にわたってもなお、経済成長を国民の多くが実感できないなど、長期にわたる潜在成長率の鈍化を受けて、なんとか正しい経済政策で日本経済の成長率を上昇させることはできないかというのは、政治家のみならず多くの経済学者にとっても大きな課題です。

MMTの理論もマクロ経済学も一般の人には非常に難解であり、正直煙に巻かれたような印象になります。一方で魅力的な公約を掲げる政党に自分の一票を投じたくなるのも人情です。一部の評論家などにはMMTに基づく経済政策を高く評価する向きもあります。

今後MMTを理論的支柱とする政策を打ち出す党が他にも出てくることも考えられます。MMTの考えを単純に異端扱いして批判をするのではなく、有権者の判断に資するようにMMTの掲げる政策の問題点をなるべく分かり易く説明してみようと思います。

MMTってなに?

MMTは Modern Monetary Theory (現代貨幣理論)は「マクロ経済学」の考え方の一つで、国の財政赤字が累積しても中央銀行が国債を購入することにより「財政破綻」は起きないという考えを持っています。現在のマクロ経済学の主流は「ニューケインジアン」と呼ばれる学派で、日本政府が2016年の国際金融経済分析会合に招聘したジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授、ポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大学教授などがいます。MMTはポストケインジアンという非主流派学派の影響を大きく受けており、アメリカ民主党の一部がMMTを基盤とした政策を打ち出し始め注目され始めました。

金融危機以降欧米でも日本のような低金利環境が続き、金融緩和の効果が無効化する「流動性の罠」の問題が発生してきました。そんな中でMMTは「財政ファインス」(財政赤字を補填するための国債を中央銀行が買取り支えること)を肯定し、財政赤字の拡大を問題視しないことで、財政拡大策を正当化します。一方で「財政ファイナンス」は財政秩序を崩し、政府が好きなだけ支出を増やし、インフレを誘発することから多くの国で禁断の手法とされてきました。

MMTベースの政策・選挙公約の問題点

MMTの経済理論を完全に理解することは容易ではありません。経済理論としての整合性などの議論は経済学者にまかせておいて、もっと喫緊の問題である「MMT理論に準じた経済政策を選挙公約にする場合の問題点」を整理していきましょう。

①なんでも実現可能かのような誤解を招く公約は避けるべきである。

MMTの理論に基づけば財政出動の財源は実質的な財政ファイナンスであるため、増税が必要ありません。このため今まで歳入の制限で実行できなかった政策が実行できるはず、という夢のような理論です。

しかし物価上昇率が高くなりすぎる危険性があるため、インフレ率が目標値に達成した場合、新たな財政出動をストップしなければなりません。

例えば「れいわ新選組」の政策には様々な財政出動が列挙されています(※1)。これらは全て通常であれば「新たな支出」であり「財源」を必要とします。しかしMMT理論に基づいているので、財源は国債の発行で賄い、インフレが2%に到達するまで続ける、という方針です。

これらの政策を実行していくと、どの程度のスピードで2%のリミットに到達するでしょうか?実はMMT論者でも正確な答えは持っていません。そもそもインフレの発生過程、加速過程にはまだまだ解らない部分が多いのです。

例えば人々が「インフレが発生する」と予測すればそれが消費・投資行動に影響を及ぼし、予想が自己実現するという考え方もあります。この考え方よれば、大幅な公共事業と政府支出の増加は予測インフレをたちまち増加させ、インフレ率自体もそれにともない上昇するでしょう。極端な話、政策を実行する前に物価上昇率が上限の2%を超えてしまうかもしれない。

これは極端な予想かもしれませんが、少なくともれいわ新選組が掲げる政策を全部実行することは難しいでしょう。

しかし、そうなると、選挙公約としては非常に問題が大きいものです。給付金などの政府の支出増に伴い収入が増えることを期待して投票しても、インフレ率次第ではバラマキ政策は実行されず、インフレ退治のために緊縮財政にシフトするかもしれない。「反緊縮」と思って投票したのに、あっというまに緊縮財政になってしまうリスクがあるのです。

政権交代時の民主党政権の目玉政策もいくつかのバラマキ政策でした。そして「財源」は「無駄の削減」という曖昧なもので、実際どれくらいの「削減」が可能かやってみないと解らない。政権交代後に「仕分け作業」と称して支出の見直し作業をおこないましたが、削減幅が思ったように伸びずに「財源」として機能しませんでした。結果一部の政策は実行されず、消費税の増税も必要となり実質的にマニフェストの撤回に追いやられました。

民主党政権時の日本経済の停滞は世界的金融不況の煽りや震災の影響を受けた部分も多く、政権担当経験の無い民主党には随分と難しい環境でした。しかし、バラマキ政策の財源を「無駄の削減」などという曖昧なもので公約してしまったことは、結局多くの人の失望を買ってしまいました。

MMTも同じ問題をはらんでいます。インフレ率次第で一部(場合によっては全ての)政策が実行されない可能性があるならば、あまり具体的な新たな支出項目を列挙して有権者の期待を煽るのは誠実ではなく、野党勢力および政治全般への信頼を無くす原因となるでしょう。

②インフレの問題点を説明していない

前述のようにインフレが2%に達するとすぐに新規の財政出動をストップするのは多くの批判を浴びるでしょう。そうなると上限を2%でなく3%、4%に上げるという議論が出てくるでしょう。そもそも、財政政策で物価をコントロールするのは金融政策に比べて機動的では無いので、少し余裕を持ってインフレ率を3~4%くらいまで許容するほうが現実的です。

しかし、日本社会は3〜5%のインフレ率というのを長く経験していなく、このような物価上昇率が長く続くことは大きな社会的影響を及ぼします。

MMT的な政策に限らずですが、現在のターゲットである2%を超えるような3〜5%程度まで物価上昇を許容するような場合、必ず事前にインフレが引き起こす各種の所得移転について国民がある程度理解する必要があります。特に実質的に預金の価値が下がることや、場合によっては実質賃金が低下することに対してある程度の国民的コンセンサスは必要だと思います。

※1  れいわ新選組公式サイトの政策ページにおいて消費税廃止から給付金までさまざまな財政性出動策が列挙されている。

※本寄稿の内容は執筆者個人の見解であり、所属する政党や団体の見解・主張ではありません。

与謝野 信 ロスジェネ支援団体「パラダイムシフト」代表

1975年東京生まれ。英国ケンブリッジ大学経済学部卒業後、外資系証券会社に入社し、東京・香港・パリでの勤務を経験。2016年、自民党東京都連の政経塾で学び、2017年の千代田区長選出馬(次点)から政治活動を本格化。財務相、官房長官を歴任した故・与謝野馨氏は伯父にあたる。2019年4月、氷河期世代支援の政策形成をめざすロビー団体「パラダイムシフト」を発足した。与謝野信 Official WebsiteTwitter「@Makoto_Yosano」Facebook

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ロスジェネ支援団体「パラダイムシフト」代表

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