離婚後共同親権は、なぜダメなのか

日本維新の会が、離婚後共同親権を参議院議員選挙の公約に掲げています。

日本維新の会 参院選マニフェストより

実はこれは、子育て支援関係者・DV被害者支援関係者を、悪い意味で戦慄させています。
本件について、10年以上ひとり親支援に携わった身として、解説を行いたいと思います。

親権とは何か

まず、親権とは何か。これは大別2種類で規定されます。

(1)子どもと同居し保護する監護権(民法820条)

(2)教育・居所・職業選択・財産管理等の重要事項決定権(同820条〜824条)

現行法では、両親が法律婚をしている場合は、親権を共同行使することになっています。
それ以外の、事実婚や離婚した後は、どちらかの親が単独で親権を保持します。

とはいえ当たり前ですが、親権を持っていないからといって、子どもの重要事項決定に関わることを禁じられているわけではなく、事実婚カップル等は日々の話し合いを通じて、子どもの進学先や手術を受けるかどうか等、決めているのが普通です。

離婚後共同親権とは何か

この、通常であれば離婚後はどちらかの親、通常であれば子ども一緒に住む親(以下、同居親)のみが持つ親権を、離婚後も持てるようにしよう、という制度です。

離婚した後も、子どもがどこに住むか、どの中学校に進学するか、どの会社に勤めるのか、定期預金を解約するかどうか等、離れて暮らす親(以下、別居親)も重要事項決定権を持つため、意思決定が共同でなされます。

別れた後も関係性が非常に良好な場合は、穏やかな話し合いに基づいて、両者が子どもの重要事項の決定に参画できるので、子どもの重要事項の決定に関わりたい別居親にとっては、より満足度の高い仕組みと言えるでしょう。

離婚後共同親権の弊害

しかし、離婚後に関係性の良いカップルばかりではありません。
むしろ関係性が悪化して離婚するのが一般的なので、通常は離婚後カップルの間は、相当な緊張感があると言って良いでしょう。

ですが、離婚後共同親権においては、必ずしも関係性の良くない別居親も重要事項決定権を持ちます。
そうすると、子どもがどこに住むか、どの中学に行くのか、手術を受けるか否か等について、拒否権を発動できるようになります。

「俺は引っ越すなんて認めないよ。俺の近くに住んでほしい」

「私はあの子を特別支援学校に行かせるのは嫌よ。普通の小学校に行かせて」

「まだ手術なんて早い。俺はそんな医者の言うこと、認めんよ」

と言うように、同居親が必要と感じている意思決定が阻害し、子育てに支障をきたす可能性が高くなります。そして、そうしたことによって、元夫婦間でさらにトラブルが激化し、子どもにとっても悪影響を及ぼします。

離婚後共同親権によって、DVが継続する

現行法であれば、物理的DVや精神的DVを受けた同居親は、DV加害者の別居親から逃げ、無関係に暮らすことができます。

しかし、離婚後共同親権によって、こうした別居親にも、重要事項決定権が与えられることによって、常に同居親の子育てに別居親が口出しできる可能性が高まります。

「DVケースは除外すれば良い」という主張もあり得ますが、DVの立証は、殴られた跡のあざや傷等の証拠を必要とします。

僕が相談対応したケースでは、刃物を持って「殺すぞ」と夫に脅された事案でしたが、証拠が無かったため、DVとは認められませんでした。

そうだとすると、精神的DV・経済的DVについては立証が難しく、裁判所は「DVが無いので」離婚後共同親権は可能だ、と判断する可能性が出てきます。

だとすると、子どもを育て続ける限り、精神的DVは継続する可能性があり、DV被害者は怯え続けなくてはならなくなります。

まとめ

離婚後共同親権は、このように非常に問題のある制度です。慎重に議論を重ねる必要があるでしょう。

にも関わらず、日本維新の会が、こうした制度を公約に掲げたことは、由々しき事態です。
しかも、我々のようなひとり親支援団体、DV被害者支援団体に何らのヒアリングもせずに、公約化してしまいました。

野党といえども、「ゆ党」と呼ばれるくらい与党とは距離が近く、また改憲勢力として政権と連携する立ち位置です。

まかり間違って離婚後共同親権が実現しようものなら、その影響は100万世帯を超えるすべてのひとり親、そしてDV・精神的DVに苦しむ全ての親たちに及びます。

こうした弱い立場の人々を苦しめる制度が政治的アジェンダとならないよう、多くの人々に関心を持って頂きたいと思います。

※参考文献

離婚後共同親権の問題性について、非常によく分かる一冊。
当稿は、本書の中の木村草太先生の論考を大いに参考にしました。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年7月16日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。