連載MMT② MMTとインフレの問題

2019年07月18日 06:01

>>>連載① 「MMTを基盤とする経済政策の問題点について」はこちら

来日中のMMTの提唱者、ケルトン氏(Wikipedia:編集部)

現在MMT理論は「異端の経済学」といった扱いで、特に「財政ファイナンス」に対するアレルギーが強いことから一部の政治家が考えに賛同している程度にとどまっています。財政赤字を気にすることなく政府支出を増やせるというのは政治家にとって非常に魅力的な考えですので、そこの部分だけに飛びついてしまう可能性もあります。

実際はMMTには主流派経済学と共通する考えも多くありますし、また日本が抱えるマクロ経済の問題を違う角度から見る機会も与えてくれます。特にインフレの危険性やそのコントロールなどは現在あまり議論されていません。

そもそもデフレが問題なのでインフレを心配しても仕方ないという人すらいます。しかしデフレからの脱却には金融政策のみで2%の目標達成はこんな状況で、財政政策で物価上昇を図ればコントロールが難しくオーバーシュート(インフレが目標値を超えること)もありえます。

今後財政・金融政策を見直して、物価上昇への財政政策からの支援を考えるのであれば、インフレの問題点などをあらかじめしっかり議論しておく必要があります。

インフレの問題

ハイーパーインフレという、年率100%とか1000%とかの物価上昇率は短い期間で経済を崩壊させます。そんな極端な高インフレでなくとも年率3~5%程度のインフレで社会に大きな影響をおよぼします。

「物価上昇」と一言でいっても全ての価格が同時かつ均一に変化するわけではありません。物価上昇率に賃金の上昇幅がついていかないこともあるでしょうし、一部の労働者の賃金だけ上昇する場合もあります。資産インフレ(もしくは資産バブル)だけが発生すれば、資産を保有している場合は良いのですが、そうでない場合は将来住宅などが手に入りにくくなります。

インフレとは将来のお金の価値が現在より低くなることですから、一番顕著な影響が貸手から借手に実質的に資金が再分配されることです。他にも以下のような影響が出ます。

  • 名目賃金が物価上昇に伴い引き上がらなければ、実質賃金は下落し、労働者の購買力が低下します。
  • 名目金利が物価上昇に伴い引き上がらなければ、実質金利はマイナスとなり預金・現金を保有している人の実質資産価値が低下します。
  • 年金もマクロ経済スライドが発動されると物価上昇率に追随しませんので、実質年金所得が低下し年金生活者の購買力が低下します。
  • 円安が進行すれば輸入品の価格はさらに上昇します。輸出品の価格が下落することにより輸出企業には恩恵があるでしょうが、国内の消費者は輸入品の価格上昇により購買力が低下します。

一方で、資産価格が上がっていれば、

  • 株などのリスク金融資産を有している
  • 土地もしくは住宅を有している

といった人々は物価上昇の悪影響を資産価格の上昇を通じてある程度軽減できます。

3%のインフレが発生している状況を想定しましょう。景気回復がまだ十分でなく日銀は金融緩和を継続しなければいけない、つまり名目金利が相変わらすゼロ近辺が続いているとします。現在8%から10%への消費税増税が生活者の負担になり、経済に悪影響を及ぼすことが論じられています。3%のインフレは消費税増税よりも生活者への負担となる可能性が高いです。

インフレに伴う名目賃金の上昇がなければ、消費者物価だけが3%上昇するというのは消費税が3%上がるのと同じ負担になります。インフレが怖いのは3%のインフレが続く限り、毎年価格が3%に上がることです。消費税が毎年3%ずつ上昇するようなものです。

超低金利が続けば実質的に預金の価値は毎年3%ずつ低下します。インフレ下では株などのリスク資産に投資したり、円安を見越して外貨資産に分散するなどによりある程度のリスク相殺効果があると考えられています。

しかし日本における高額預金者はほとんどが高齢者です。投資経験の余り無い高齢者がインフレリスクをヘッジするためにリスク資産の属性を理解した上で投資をすることなどは、非常に難しいです。といって金利ゼロの貯金を続けていれば実質資産が減ってしまいます。

賃金と金利という二つの大きな所得の源泉がインフレ率に追随しないケースもあり得るわけで、そのような場合、実質所得が減ってしまいます。例え3〜5%程度のマイルドなインフレでも労働者や高齢者にとって「インフレ」は増税以上に悪影響を及ぼすことも考えられるのです。

インフレの原因

そもそもインフレが発生するメカニズムというのはなかなか難しく、いろいろな説明がなされていますが、なかなか単純な解答はなさそうです。

MMTはおそらくインフレの主たる原因は需要超過、つまり景気が加熱してきて物価が上がることが想定されているようです。なので必然的に財政面で緊縮的な政策を取り景気を落ち着かせるという手段がある程度正当化されているのでしょう。

しかし物価上昇が、例えば円安による輸入品の価格上昇から発生する場合、もしくは原油高の価格上昇などによって発生する場合、それは景気の過熱とは違いますから緊縮的政策を取ってしまえばあっという間に経済はひどい不況に陥ってしまいます。

MMTおよび、MMT理論を基礎にした政策の問題の一つがこのインフレの発生過程がどのようになるかによって、物価安定がひどい不況をもたらす可能性があることです。

景気後退時にインフレが発生するケースは欧米で70~80年代にみられて、スタグフレーションと呼ばれました。このスタグフレーションが発生するとそれはそれは悲惨で、景気後退の局面にも関わらず、インフレ退治のために緊縮財政や高金利政策などを実施しなければいけない。インフレ退治の過程で失業率は上がるなど社会不安が高まるのです。

インフレのトラウマというと戦前の、それこそ中央銀行が財政ファイナンスに応じてしまい、軍事費の膨張に歯止めがかからず、社会不安を増大させ大戦発生の原因の一つになったこともあげられますが、70年代以降の物価のコントロールに苦しみ、安定した経済発展ができなくなったことも大きいのです。

※本寄稿の内容は執筆者個人の見解であり、所属する政党や団体の見解・主張ではありません。

与謝野 信 ロスジェネ支援団体「パラダイムシフト」代表

1975年東京生まれ。英国ケンブリッジ大学経済学部卒業後、外資系証券会社に入社し、東京・香港・パリでの勤務を経験。2016年、自民党東京都連の政経塾で学び、2017年の千代田区長選出馬(次点)から政治活動を本格化。財務相、官房長官を歴任した故・与謝野馨氏は伯父にあたる。2019年4月、氷河期世代支援の政策形成をめざすロビー団体「パラダイムシフト」を発足した。与謝野信 Official WebsiteTwitter「@Makoto_Yosano」Facebook

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与謝野 信
ロスジェネ支援団体「パラダイムシフト」代表

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