EU新委員長「パワフルな欧州を」

欧州連合(EU)の欧州議会のストラスブール本会議で16日、加盟国28カ国の首脳会談でユンケル欧州委員会委員長の後継者に推挙されたドイツのフォンデアライエン国防相(60)が過半数の支持を獲得して、新欧州委員長に承認された。

フォンデアライエン氏は欧州議会の第一会派「欧州人民党」(EPP)の支持の他、リベラル会派、第2会派の「社会民主進歩同盟」(S&D)からも支持を得て承認に必要な議会過半数374票を超える383票を獲得した。「緑の党」会派、左翼党会派は反対に回った。

女性の欧州委員会委員長は初めて。ドイツ人出身の欧州委員長はほぼ半世紀ぶり。

欧州議会で自身の政策を表明する新欧州委員長のフォンデアライエン氏(2019年7月16日、ドイツ民放の中継から)

フォンデアライエン氏は承認後、「私を支持してくれた議員に感謝する。非常に興奮している」と喜びを表し、強い欧州を建設するために議員に結束を呼び掛けた。同氏はドイツの与党「キリスト教民主同盟」(CDU)に所属し、第4次メルケル政権下の国防相を務めてきた。

ちなみに、同氏は15日、欧州議会での採決結果とは関係なく、17日に国防相を辞任する意向を表明し、欧州議会の承認に背水の陣を敷いて臨んだ。

EU首脳会談でフォンデアライエン氏は推挙されたが、欧州議会での承認は不確かだった。支持が確実なのは欧州人民党の182票だけで、過半数の374票まで程遠いだけに、支持を表明済みのリベラル会派(108票)だけではなく、社民党系会派(154票)や「緑の党」会派(74票)からの支持票が不可欠だった。

同氏は16日午前の演説で親欧州路線を改めて鮮明化する一方、社民党系や緑の党の支持を得るために社会の公平、最低賃金の設定、欧州共通の失業者保健の確立など、社会対策を強調する一方、地球温暖化対策ではCO2排出量を2030年前までに40%から55%減少させ、CO2税の導入、環境保護のための欧州銀行創設などのイニシアチブを提案。難民・移民対策では新難民協定の提示、国境の警備強化と共に、地中海の難民問題では「人道的な支援」の重要性を強調した。

緑の党会派は「環境対策への意欲は評価できるが、十分ではない」として、会派としては反対を表明。一方、社民党系はフォンデアライエン氏から多くの譲歩を勝ち得たとして会派として支持を示唆したが、反対に回った議員も出た。なお、投票は無記名式で、会派の票の詳細な流れは不明だ。

新欧州委員長の前には難問が山積している。フォンデアライエン氏は記者会見で、「仕事が始まった。パワフルな欧州とするためには優秀な欧州委員が選出されなければならない」と表明、11月1日の就任を迎えるまでに欧州の刷新を実施していく意向を明らかにした。

欧州議会で欧州人党会派と社民党系会派で過半数を支配してきた時代は終わった。5月の欧州議会では欧州に懐疑的な極右派・民族主義派政党が躍進し、欧州議会の運営はこれまで以上に難しくなってきた。今回の新委員長支持率は51・3%に留まった。

EUは今日 移民・難民対策から経済政策、環境問題の対策などの難問に対峙、EUの共同政策より、自国の国内政治を優先する傾向が加盟国内で高まってきた。例えば、東欧のEU加盟国でヴィシェグラード・グループ(地域協力機構)と呼ばれるポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーの4カ国ではその傾向が強まってきている。

また、英国の離脱(ブレグジット)が控えている。EU離脱は英国経済に大きな影響を与えることは必至だが、ドイツに次いでEU第2番目の経済大国・英国を失ったEUの未来にも大きな影を投じている。

トランプ米政権との関係も難問だ。EUと米国の間には貿易問題から安全保障政策まで利害の対立が表面化してきた。外交面でも対中国、対ロシアで加盟国間に相違が出てきている。ハンガリーやギリシャなど親中国派の加盟国は中国のEU市場進出を歓迎している。

ブリュッセル生まれで、「生来欧州人だ」というフォンデアライエン氏がユンケル時代に停滞してきたEUの機構改革を実施し、加盟国の結束を強化し、EUをパワフルな機構に生まれ変わらせることができるか、国際社会はEU新委員長の政治手腕に注目している。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年7月18日の記事に一部加筆。