ユニゾHDに対するHISの部分的公開買付:有事の社外取締役の職務執行と監査役会の役割

2019年07月18日 14:00

不動産・ホテル事業大手のユニゾHDに対して、旅行大手のHISが、大株主としての部分的公開買付(TOB)を行いましたが、当該TOBは、両社において事前協議がなされていないことが判明しています。

ユニゾホールディングス 公式サイト、HIS予約サイトより:編集部

昨日(7月16日)、ユニゾHDは「特別委員会設置のお知らせ」のリリースで、当該TOBに対する会社としての意見を、特別委員会の答申を参考にして形成することを表明しました。HISの部分的公開買付は、既に保有しているユニゾ株式と併せて45%の株式取得を上限とするもので、先日の「伊藤忠VSデサント」の敵対的買収成功事例(40%の保有株式で支配権取得)を参考にした戦術ではないかと思料されますね(あくまでも私個人の推測ですが)。

大株主による部分的公開買付の場面では「真に企業価値を向上させるのは現経営陣か、それとも大株主か」という判断について、現経営陣には一定の利益相反が生じる可能性がありますので(←敵対的買収の可能性がある場合)、買収対象会社が中立公正な特別委員会を設置して、その判断に従うことも、現経営陣の合理的な判断かと思います。

最近は企業統治改革が進んでいるので、東証1部企業のほぼすべてに複数の社外取締役が存在しますが、なんとユニゾHDには5名の独立社外取締役がいらっしゃるそうで、同社のガバナンス報告書を読みますと、元高裁長官(弁護士)、元警視総監、金融機関や不動産事業会社の経営者など、とても豪華なメンバーです。

6月末に、12年ぶりに改訂された経産省「公正なM&Aの在り方に関する指針」が公表されましたが、本指針は、本件のような大株主によって実質的な経営権取得を目的とした部分的公開買付のケースにも必要に応じて参照されたい、とあります(同指針4頁)。当該指針では、中立公正な立場で買収の是非を判定するにあたり、社外取締役を有効活用すべき、とありますので、上記ユニゾHDの委員会構成は当該指針にも沿うものと思います。

今後は、このように突然の会社の有事に、独立社外取締役が大活躍しなければならない事案が増えるはずです(大株主ヤフーの反対で、社長不再任問題に揺れるアスクルでも、社外取締役で構成される指名・報酬委員会が現経営陣を支持する判断を行いましたが、これも社外取締役にとっては有事ですね)。指針に沿って、社外取締役の方々が「特別報酬」をもらうこともあり得ますね。

ところで、特別委員会は、①TOBの価格の公正性、②HISの提案がユニゾグループの企業価値向上にとって好ましいかどうか、といったあたりを判断するそうですが、本当に中立公正な立場で5名の社外取締役の方々は判断できるのでしょうか?上記アスクルの事例では、指名・報酬委員会の判断など、ヤフーは何ら問題にしていないように思えます)。当該判断が中立公正になされたことは、どういった外観から担保されるのでしょうか?

そもそも社外取締役は、現経営陣のもとで会社から高額な報酬を受領しているわけですから、いくら「報酬は会社からもらっているわけで、経営者からもらっているわけではない!俺は中立公正に判断するに決まってるだろ!」と言われても、構造的な利益相反状況が存在することは自明です。したがって、社外取締役5名が中立公正に上記①および②について判断したことを、なんらかの形で対外的に開示する必要があると考えます。

たとえば、当該特別委員会を補佐する専門家はいたのか(もちろん会社側と同じ専門家では問題です)、判断に必要な情報は誰がどのように収集したのか、当該特別委員会が直接買付企業と交渉したのか、答申書は公開されるのか、といったところに外部からの関心が集まるはずです。もちろん、そのような情報の開示は義務ではありません。

しかし、昨今「社外取締役は機能していないのではないか」といった世評が高まる中、「独立性があるなら、普通はこうするよね」といったことをしているのか、していないのか・・・、情報の非対称性を少しでも解消しようとする会社側の姿勢は、おそらく一般投資家からの支持を得るためには必要ではないかと。

そして、もうひとつ、社外取締役の中立・公正な行動を担保するものがあります。ユニゾHDのガバナンス報告書を拝見していて、「この会社には、かなり重厚な監査役会がある」ことに気づきました。常勤監査役2名に、企業法務や企業会計に精通された弁護士、公認会計士の社外監査役3名(合計5名)がいらっしゃいます。このメンバーであれば、有事における監査役会の役割に期待がもてそうです。

社外取締役の方々が、会社の有事にどのように職務を果たすことが「善管注意義務」の履行として必要なのか、これまであまり明らかにされてきませんでした(もちろん、シャルレ事件判決のように、わずかばかりの裁判例はありますが)。

12年前に公表された経産省M&A指針などは、価格決定申立裁判でも斟酌されましたが、このたびのM&A指針に沿った行動が社外取締役の行動指針としても参考にされるとなると(とりわけ社外取締役が特別委員会委員を構成する場合)、監査役の方々も慎重な監視・検証が要請されるはずです。この重厚な監査役会を構成する監査役の方々が(独任制なので、おひとりおひとりの判断です)、矢面に立つ社外取締役おひとりおひとりの職務執行をどのように評価するのか、とても興味深いところです。

会社の情報開示の信頼性・適時性の確保のため、今年1月に改正された金融庁・開示府令では、(有報への記載ではありますが)監査役会の活動状況も詳細に開示するよう要請されています(2020年3月決算において適用)。このような会社の有事において、社外取締役がどのような行動によって善管注意義務・忠実義務を尽くしたのか、また、その判断は何を基準としたのか、今後は監査役(監査等委員である取締役)にも説明責任を果たすことが期待されるのではないでしょうか。

ちょうどタイミングよく、本日の産経ニュースにて、日本監査役協会の岡田会長が「監査役、経営者と同等の立場で意見を」と述べておられます。ホント、監査役はこういった有事にこそ経営者と同等に重大な役割を果たさねばならないですよね。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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