対米証券投資、G20前に米国債保有高を積み増したのは日本と…

5月対米証券投資は、329億ドルの買い越しだった。前月の90億ドルの売り越しを含め、6ヵ月ぶりに流入している。海外の資金動向をみると、民間が101億ドル買い越し、前月の534億ドルに続き2ヵ月連続で流入した。ただし、海外中銀を含む公的機関は157億ドル売り越し、少なくとも7ヵ月連続の流出となる。海外投資家の米国債投資は157億ドルの買い越しと、前月の125億ドルの売り越しから反転。米国債の内訳をみると、民間が118億ドル売り越し、前月の流入から反転。一方で、海外中銀を含む公的機関は220憶ドルの売り越しと、流出トレンドを保った。

5月の金融市場は、5月の米中通商協議が物別れに終わり、トランプ大統領が約2,000億ドルの中国輸入品への関税を10%から25%への引き上げを決定。また、残り約3,000億ドル相当の中国輸入品にも関税賦課で検討に入った。ファーウェイへの禁輸措置も発動、米中間での貿易摩擦が激化した。さらに、不法移民対策不備を理由に、メキシコ制裁関税発動の可能性を点灯させ(後に見送りで合意)、金融市場に激震が走った。ダウ平均は一時1月末以来の安値へ下落、米10年債利回りは2%割れが迫り、2017年9月以来の水準まで低下した。

国別での米国債保有高トップ5動向は、2018年8月~19年4月と同じ顔触れとなった。ただし、中国の米国債保有高は3ヵ月連続で減少するなかで、2位の日本に迫る水準まで落ち込んだ。米中通商協議の決裂が影響した可能性があり、中国は足元で金の保有高を積み上げつつある。中国の金保有高、6ヵ月連続で増加。ロシアの増加も顕著に。

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作成:My Big Apple NY

顔ぶれは変わらなかったものの、順位は1~4月から変動した。英国が3位に浮上し、代わりにブラジルが4位に転落した。アイルランドは税制改革法案が成立直後の2018年前半こそ3位だったが、2018年8月にはブラジルに抜かれ4位へ、19年1月には英国に抜かれ5位となった。なおアイルランドは租税回避地として知られ、米国のIT企業や製薬企業などが拠点を置き、海外留保利益を米国債として保有してきたが、レパトリ減税が税制改革法案に盛り込まれ存在感が低下しつつある。

1位 中国 1兆1,102億ドル(2017年5月以来の低水準)、28億ドルの売り越し、2ヵ月連続で流出
2位 日本 1兆1,010億ドル(2017年8月以来の高水準)、370億ドルの買い越し、流入に反転
3位 英国 3,008億ドル(2011年6月以来の高水準)、223億ドルの買い越し、前月の流出から反転
4位 ブラジル 3,067億ドル(5ヵ月ぶりの低水準)、10億ドルの売り越し、2ヵ月連続で流出
5位 アイルランド 2,697億ドル(2016年8月以来の低水準近く)、10億ドルの買い越し、2ヵ月連続で流入

トップ5の米国債保有高の推移。

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作成:My Big Apple NY

米国債保有高が300億ドル以上の主要国のうち、買い越しトップ5ヵ国は以下の通り。このうち、日本をはじめ英国、ベルギーが前月の売り越しトップ5に入っていた。

1位 日本 370億ドル増の1兆1,010億ドル(2017年8月以来の高水準)
2位 英国 223億ドル増の3,008億ドル(2011年6月以来の高水準)
3位 シンガポール 111億ドル増の1,504億ドル(過去最大)
4位 ベルギー 107億ドル増の1,905億ドル(4ヵ月ぶりの高水準)
5位 ルクセンブルク 59億ドル増の2,296億ドル

上記売り越しトップ5ヵ国は、以下の通り。このうち、ポーランドは前月に買い越しトップ5の4位だった。中国は、2ヵ月続けての売り越しトップ5入りとなる。

1位 ポーランド 31億ドル減の341億ドル
2位 中国 28億ドル減の1兆1,102億ドル(2017年5月以来の低水準)
3位 UAE 25億ドル減の532億ドル(2014年7月以来の低水準)
4位 香港 19億ドル減の2,040億ドル(3ヵ月ぶりの低水準)
5位  カナダ 16億ドル減の1,005億ドル(5カ月ぶりの低水準)

――貿易摩擦が苛烈さを増すなか、大阪でのG20ヵ国・地域首脳会談を控え、日本は米国債を大幅に買い越しました。その他、米国が7月に武器売却を承認した台湾は5月までに3ヵ月連続で流入し、インド太平洋戦略で協力が必要なインドも3ヵ月連続で増加しています。その陰で、中国と香港は歩調を合わせ、2ヵ月連続で減少し、逆にルクセンブルクやベルギーなど、中国の裏アカウントとされる国では増加していたのは、単なる偶然でしょうか?

米財務省が公表する主要保有国リスト(米国債保有高300億ドル以上)入りした国は、3~4月の32ヵ国から33ヵ国へ増加しました。3月はチリが300億ドル以下となったため2月の33ヵ国から減少したものの、今回はフィリピンが返り咲いています。フィリピンは、年初来で初めて主要保有国リストに食い込みました。

(カバー写真:Dave Hancock/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年7月18日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。