病理学的画像解析でがんの遺伝子不安定性がピタリとわかる?

2019年07月19日 14:00

今月号のNature Medicine誌に「Deep learning can predict microsatellite instability directly from histology in gastrointestinal cancer」という論文が掲載されている。このmicrosatellite instabilityMSI=マイクロサテライト不安定性)は免疫チェックポイント抗体治療を受けるための一つの指標とされている。 

がん患者さんの中にはMSI検査を受けた方がおられるはずです。日本でもこの検査が陽性であれば、保険診療で免疫チェックポイント抗体治療を受けることができるからです。検査としては広く使われていますが、医師でも、この検査の意味や何を調べているのかを分かっていない人が少なくありません。 

このマイクロサテライト不安定性は、DNAミスマッチ修復遺伝子の異常が起こっているがんで認められます。遺伝的に、このミスマッチ修復遺伝子に異常があると遺伝性非ポリポーシス性大腸がん(Hereditary nonpolyposis colorectal cancer=HNPCC)症候群と呼ばれる若年性にがんを引き起こす遺伝性がん疾患につながります。このHNPCCは、Lynch症候群とも呼ばれますが、大腸がんだけではなく、子宮体がん、そしてアジアでは胃がんなども多く認められます。

このがんの特徴として見つかったのが、MSI=マイクロサテライト不安定性です。マイクロサテライトはわれわれのゲノムで十万か所程度存在していることがわかっているCACACACACACACACACAなどの繰り返し配列のことです。ミスマッチ修復がうまくできないと、DNAの複製(細胞分裂の時に自分と同じDNAをもう1コピー作ること)の途中で、図のように同じような繰り返しがある部分で滑る(ずれる)現象が起こります。

DNA修復遺伝子が正常に働いているとずれを起こさないように修復していますが、DNA修復が正常に働かないとずれたままになってしまい、10回繰り返していたCA8回に縮んだり、14回に延びたりします。これをMSIと呼び、このマイクロサテライト部位を何か所か調べて正常とがん細胞での違いが多ければMSI-HMSIハイ)と判定します。 

MSIHはミスマッチ修復遺伝子の異常があることを意味します。それではMSI-Hだとどうして免疫チェックポイント抗体を使っていいことになるのでしょうか?それはMSI-Hのがんではアミノ酸変化を引き起こす遺伝子異常が桁外れに多いからです。遺伝子異常が桁外れに多いケースでは、たくさんのネオアンチゲンが作られ、こレベルあを目標にがんを攻撃するリンパ球が一般的にがん組織に多く見られ、それゆえ、免疫チェックポイント抗体の有効率が60-70%と高いからです。

ほとんどが前置きになってしまいましたが、MSIは現実的には遺伝子検査をしないとわかりません。しかし、必ずしもすべての症例で遺伝子検査をするような状況にはなっていないので、研究者たちは顕微鏡によるがん組織の病理学的特徴でMSIの異常予測を人工知能に試みさせたのです。

病理学的画像データとMSIの結果を人工知能に入力して、人工知能が深層学習((Deep Learning)した結果、なんと84%程度の精度で遺伝子を調べなくてもがん組織の形態から、MSIの予測が可能だったと結論付けています。まさに、八卦ではありませんが、「一目見るとピタリと当たる」の世界です。

これが本当であればすごいことだと思いますが、正直なところ、半信半疑どころか、ほんまかいなという感想です。しかし、顕微鏡で最大限に拡大した画像を8Kの解像度で取り込み、人工知能が解析すれば、われわれが今見えていない微妙な違いを人工知能が識別する。そんな時代がすぐ来るような気がします。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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