米中貿易戦争の背後にあるテクノロジーと宗教弾圧(特別寄稿)

2019年07月28日 06:05

ファーウェイを始めとした中国ハイテク企業に対する米国の制裁は「ハイテク覇権」などの文脈から語られることが多い。特に5Gを巡る争いは日本人から見ても分かりやすい問題であるため、その文脈からの報道は一時期盛んなものがあった。

ただし、米国の対中政策を理解するためには、そのような視点だけでは不十分である。トランプ政権の意図を把握するためには、その強力な支持基盤である宗教勢力の動向に目配せをすることが重要だ。そして、それは情報技術分野に関する制裁の背景を知る上でも必要なセンスと言えるだろう。

トランプ政権は昨年から世界中の信仰の自由を守る活動を実践する人々を集めたイベントを実施している。このイベントはMinisterial to Advance Religious Freedom(MARF)と名付けられており、130か国以上から1000人を超える世界最大規模のフォーラムとなっている。

MARFに登壇したペンス副大統領(右)とポンペオ国務長官(国務省サイトより:編集部)

ペンス副大統領やポンペオ国務長官らも登壇し、全世界の信仰の自由を守る米国の決意を示す場として活用されており、この場での閣僚級高官の発言は同国の外交政策の展開にも強い影響を与えている。

本年7月中旬に行われた同イベントでは、ポンペオ国務長官は信仰の自由を求める同盟を創設することに言及し、ペンス副大統領もニカラグア、ベネズエラ、イラン、ミャンマー、そして中国などを中心に名指しで批判し、米国の宗教問題に関する外交上の優先順位を明確にした。

昨年、同会議でペンス演説の冒頭で触れられたトルコの牧師拘束事件については、同演説後に対トルコ制裁の実施に繋がっており、宗教問題に関するトランプ政権の強固な意志を示すことになった。

近年、米国では宗教弾圧の象徴的事例として、中国共産党によるウイグルにおける再教育キャンプの弾圧行為が注目されている。同イベントにおいても、イスラム教徒への弾圧行為への関心としては米国では例外的なレベルにまで高まっていると言える状況だ。

そのような中で、今回のMARFでは、同会議に関連して非常に興味深いセッションがワシントンD.Cで開催されていたので紹介したい。

企業側への書簡を発表したチャイナエイドのボブ・フー会長(ChinaAid公式サイトより:編集部)

そのセッションとは、同会議に付随するセッションで行われた1つの議論である。The Coalition to Advance Religious Freedom in Chinaという中国での宗教弾圧を問題とするグループが「COALITION TO ADVANCE RELIGIOUS FREEDOM IN CHINA」という中国と取引がある企業のCEO宛の書簡を発表するイベントを開催した。

この書簡の内容は中国のウイグルなどで中国共産党による監視活動に使用されているテクノロジーに関連する企業などが宗教弾圧行為に加担しないように働きかける内容がまとめられている。この団体は米国政府が肝入りで支援している団体でもあり、団体構成メンバーは米国議会に対しても積極的な働きかけを行っている。

ファーウェイに対する制裁発表がなされた当時、追加制裁対象の企業群の事例として、監視カメラやドローン関連の企業が注目されたことは、上記の宗教者らの動きの影響を受けたものと考えることが妥当だろう。

つまり、米国の中国系企業の制裁は単純なハイテク覇権争いだけではなく、中国における宗教弾圧に抵抗する動きとも連動していると想定するべきだ。

現在ではハイテク企業以外にも徐々に宗教弾圧に関連すると看做される企業の動きが欧米メディアでも報道されつつあり、これらの宗教者が政府・メディアに働きかけている状況についても米中関係に関心がある人は敏感になったほうが良いだろう。

現在、米中関係は一旦クールダウンした形となっているが、来年は台湾総統選や米国大統領選挙が待っている。その際、共和党は支持母体であるキリスト教右派の意向を強く受けた行動をとる必要が増してくることは容易に想像がつく。米中関係を捉えるには、経済、安全保障、そして宗教の3つの視点を持つことが重要だ。

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
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渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員

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