「子供のない政治家」は政治に不適?オーストリア野党党首の炎上

2019年07月28日 11:30

オーストリアで9月29日、国民議会選挙(定数183)が行われる。中道右派「国民党」と極右政党自由党から成るクルツ連立政権が自由党党首のスキャンダルが原因で崩壊し、議会で野党の不信任案が通ったため早期議会選の実施となった。

オーストリアの野党「ネオス」ベアテ・マインル=ライジンガー党首(「ネオス」公式サイトから)

ところで、ここでは次期総選挙の見通しを書くつもりはない。欧州で今、政治家も夏季休暇中で、正式な選挙戦はまだ始まっていない。次期選挙の予想記事は選挙戦がスタートした後にする。ここでは野党のリベラル派政党「ネオス」のベアテ・マインル=ライジンガ―党首の問題発言を取り上げたい。

同党首(41)はクローネTVでのインタビューの中で「子供のいない政治家に統治されたくはない。子供への責任を担うということを知っている政治家に政治を委ねたい」と述べたのだ。同党首は3人の娘さんをもつ。

この「子供のいない政治家」に政治を担当してほしくない、子供への責任を知っている政治家が願わしい、という発言が報じられると、予想されたことだが、賛否両論が飛び出している。客観的にいえば、批判の声の方が圧倒的に多い。

オーストリア代表紙プレッセに著名な著作家、クリスチャン・オルトナー氏が、「政治を統治するのに子供が不可欠ということはない」と指摘し、欧州の政界で子供を持たない政治家が政権を統治しているケースが多いといった趣旨のコラム(7月26日付)を寄稿している。

欧州で「子供のいない政治家」の代表といえば、ドイツのメルケル首相だろう。メルケル首相は14年間あまりドイツの政界ばかりか、欧州の顔として活躍してきた女性首相だが、子供はいない。マクロン仏大統領もしかり。辞職したばかりの英国のメイ前首相も子供がいない。欧州連合(EU)のユンカー欧州委員会委員長も子供がいない。オランダのルッテ首相もそうだ。欧州の政界で最先端で活躍している政治家には「子供のいない政治家」が不思議と少なくないのだ。

例えば、3年間、EU離脱交渉に明け暮れた英国のメイ前首相の場合、野党から「子供もいない政治家が……」と陰でいわれ続けてきた。メイ前首相は後日、「自分は子供が欲しいができない体だ」と吐露したことが伝わると、「子供のいない政治家」といった批判の声は流石に消えていった。メイ女史のように、産みたくても子供が産めない女性は少なくない。

同じことがメルケル首相の場合もいえる。欧州の顔といわれてきたメルケル首相だが、メディアや野党勢力から「子供もいない彼女がどうして家族問題を理解できるか」といわれ続けてきた。政治家だけではない。子供のいない女性一般に対しては、「自分のキャリアを重視する女性」というレッテルを張られるケースが多い。

オルトナー氏は、「政治を進めるのに子供の有無は関係がない」と指摘している。正論だろう。子供が多くいれば、立派な政治ができるということはない。EU欧州委員会委員長に選出されたフォンデアライエン女史は医者であり、夫との間に7人に子供を持つ母親だ。ネオス党首の論理でいけば、フォンデアライエン女史はEU史上最高の委員長になれる可能性を有していることになる。

しかし、実際はそうともいえない。フォンデアライエン女史はメルケル政権下で家庭相や国防相を務めてきたが、特に国防相時代にはかなり厳しい批判を受けてきた。国防相という任務が合わなかったこともあるが、国防省内ではフォンデアライエン女史には強い反発があった。

子供の数でいけば、フォンデアライエン女史がダントツだが、英国のボリス・ジョンソン新首相も子沢山だ。ただし、フォンデアライエン女史と違う点は、1人の女性からの子供ではなく、複数の女性からの子供だということだ。いずれにしても、子供の数ではジョンソン新首相は潜在的可能性を秘めた政治家といえる。

参考までに、日本の安倍晋三首相夫妻にも子供がいないが、安倍政権は最長政権を目指して進行中で、選挙は連戦連勝だ。「子供のいない政治家」云々の論理はここでも破綻している。

「子供のいない政治家」は統治できないという主張は問題の焦点をずらしている。政治家には国家、国民に対する責任感の有無が重要だ。子供の有無ではない。同時に、政治家として、子供を産める生活環境を確立する政策、出産奨励策を推進していくべきだろう。

日本を含め先進諸国は少子化が深刻だ。人口を維持するためには合計特殊出生率は2.0以上が必要だが、先進諸国ではその目標値に近いのはフランスぐらいで、他の国は程遠い。現代人は子供を産まなくなってきた。なぜだろうか。ネオス党首の問題発言をメディアの夏枯れ対策用のテーマに終わらせず、「家庭とは」、「子供とは」を真剣に考える機会となれば、ネオス党首の発言にも意味が出てくる。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年7月28日の記事に一部加筆。

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