バロンズ誌:トランプ政権、米利下げ過程で強いドル政策を放棄するのか

2019年07月29日 11:30

バロンズ誌、今週のカバーはカリフォルニア州の電力大手パシフィック・ガス・アンド・エレクトリックを取り上げる。世界中で熱波が広がるなか、米国にも猛暑が直撃し、NY州では停電に見舞われた。電力会社の問題と言えばカリフォルニア州で、2017年と2018年に前述の電力大手の送電線が火元となって大規模な山火事が発生、19万エーカーを焼き尽くし、2万件の建物が破壊され、100人以上が死亡した。同社に対する数十億ドルの賠償請求が予想され、親会社であるPG&Eは1月に破産法適用を申請したものだ。

今年も山火事発生の恐れが燻る状況下、カリフォルニア州議会は、山火事による壊滅的な被害と電力会社の債務拡大の悪循環にブレーキを掛ける法案を可決。法案によれば、電力会社の補償負担に上限を設けると同時に、州政府は電力会社に安全性認定証の取得を義務付けることで、税収でのコスト負担を可能とさせる。こうした環境の変化により、バロンズ誌は電力関連株を「買い」と推奨するが、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はFedの利下げとトランプ政権のドル安路線に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

Fedの利下げ、大失敗に終わる可能性―The Fed’s Coming Rate Cut Could Be a Blunder.

米国の人気ドラマ”セインフィールド”のジョージ・コスタンザは、これまでの自分の決断が全て間違っていたと判断し、その反対を行けば正しい行動になると気付いた。同様に、金融危機後の対応は、世界恐慌時の教訓を受けて当時と反対の選択肢を取ったと言えるだろう。銀行の破綻させるのではなく救済し、予算を均衡させるのではなく財政赤字を拡大させ、マネーサプライを縮小するのではなくFedはゼロ金利と量的緩和でバランスシートを4倍へ膨らませた。

そして今、当局者は再び1937年と反対の行動を取ろうとしている。当時、経済の回復は突然の利上げと財政引き締めにより短期化した。現状、米株市場は過去最高値を更新し、失業率は約50年ぶりの低水準で、減税など財政刺激を与えられている。その上、Fedは利下げに転じようとしている。NY連銀のウィリアムズ総裁の発言で50bpの利下げ観測が高まったが、ボストン連銀のローゼングレン総裁を始めFOMCの参加者が利下げに傾いているわけではない。25bpが妥当なラインとなるだろう。

JPモルガン・チェースのマイケル・フェローリ米国担当主席エコノミストによれば、過去にFedが50bpの利下げに踏み切った当時は、金融危機が発生していたほか、経済減速局面での出遅れた対応だったケースが多い。では今回はというと金融危機に直面しておらず、経済指標は足元で市場予想を上回る内容が優勢となっている。米4~6月期実質GDP成長率・速報値も、前期比年率2.1%増だった。GDPのうち7割を占める個人消費の寄与度が2.9%ポイントと力強い回復を遂げた。国内最終消費(貿易と在庫投資の変化を除いたもの)は同3.5%増と、1~3月期の同1.6%増を2倍上回るほどだ。上半期成長率は同2.6%増と、2019年のFedによる成長見通しを超えている。

米4~6月期の実質GDP成長率・速報値は以下の通り。

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作成;My Big Apple NY

それでも、FOMCは利下げに向かおうとしている。同時に、資産圧縮の停止も前倒しで決定するだろう。逆イールドが予防的な利下げを保証するとの見方もあるが、米国債利回りはマイナス金利に陥っている約14兆ドルもの世界中の国債に押し下げられたも同然だ。

米中貿易摩擦が懸念されるが、コーナーストーン・マクロは両国の景気が下半期に回復すると見込む。そうなれば、反対の行動が必ずしも正しいとは限らない。

財政黒字とともに、強いドル高政策というものは前世紀のものだ。

米国は2000年会計年度に2,400億ドルの財政黒字を計上し、当時は議会予算局(CBO)が向こう10年で5兆ドルの財政黒字を予想していたものだ。しかし、イディッシュの諺「人が計画し、神が笑う」の通り、景気後退や金融危機、戦争、税制改革法の成立などで財政赤字は大きく膨らんだ。政府債務上限の引き上げ妥結も、財政赤字の1兆ドル超えを示唆するものだ。

「強いドルは国益」との言葉は、1995年に当時のルービン財務長官が放ち、説得力を失いつつも代々受け継がれてきたマントラである。ムニューシン財務長官は、ブルームバーグに対し「現時点で(as for now)」変更する方向にはないと発言したが、将来的に「考慮する」可能性に言及した。前週、CNBCとのインタビューでは「安定的なドルが非常に重要で、長期的に私は強い経済、強い株式市場、特に大統領の経済政策によって裏打ちされた強いドルを信じる」と述べるにとどめた。

しかし、トランプ大統領は他国の通貨安を意味するドル高を批判し続けてきた。6月には、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁がユーロ安誘導を行なっていると不満を寄せた。実際のところ、ユーロは2018年のピークから10%下落したとはいえ、トランプ大統領が就任した2017年1月からは3.7%上昇している。

トランプ大統領は、「強いドルは国益」とする為替政策を変更しドル安に持ち込めるのだろうか?答えはイエスで、過去にも例があった。当時のニクソン大統領が1971年8月15日に金とドルの交換停止を発表、コナリー財務長官は「(ドルは)我々の通貨だが、あなた方の問題だ」と発言したことは、今でも語り継がれている。ドル安に加え10%の輸入課徴金の導入、90日間の賃金・物価の凍結などを盛り込むなかで、バーンズFRB議長(当時)は1972年の大統領選をにらみ超緩和政策を展開した。

1985年9月には、米国を含むG5はドル安誘導を決定、プラザ合意が成立した。当時、レーガン1期目にあたりドルはボルカーFRB議長(当時)による積極的な利上げとレーガン政権の財政政策を受け、ドル高が進展。各国も通貨安を食い止めようと金融政策を引き締めに動いていたが、プラザ合意を経て金融緩和に転じるようになり、その後の強気相場を演出することになる。

足元でトランプ政権がドル安を好もうとも、米経済は依然として力強い。景気拡大は11年目と過去最長を更新し、最大限の雇用が実現する状況だ。しかもドイツ銀行のマクロ・ストラテジストのアラン・ラスキン氏が指摘するように、ドルはプラザ合意当時ほど割高ではない。むしろ、一部の指標では割安だ。

それでもトランプ大統領はドル安志向を隠しもせず、パウエルFRB議長に利下げ圧力を強めている。ストラテガス・リサーチ・パートナーズのダン・クリフトン氏によれば、同政権がドル安介入というカードを切ってもおかしくない。

為替の管轄は米財務省だが、FRBも無縁ではない。米財務省がドル安を目指した為替介入を行なうならば、金融政策との連携が必要となるためだ。また、米財務省が為替介入した場合、Fedは為替のオペレーションとして不胎化すれば、ドルの供給量は相殺されてしまう。そうなれば、米財務省が為替介入に踏み切っても、ドル安を望む米政権というメッセージを送るだけになってしまう。

ソシエテ・ジェネラルのグローバル・ストラテジストであるアルバート・エドワーズ氏は、米国による為替介入を予想する一人だ。同氏は円高がデフレ圧力を強めた一因と分析し、バブル崩壊後30年にわたって下降局面をたどる日本のような事態を回避する名目で実施すると考えている

極端な予想と言えるかもしれない。しかし米国は経済が拡大するなか、財政刺激策と同時進行で金融緩和に踏み切ろうとしている。もしこれが奏功しなければ、次はドル安に目をつけるのではないか。


世の中に絶対はない、決してないとは言い切れないなどとの言葉がありますが、今回のコラムはそうした諺を思い出します。トランプ政権が実際にドル安で介入するかは別として、他国の自国通貨安誘導に対策を講じているのは事実。為替報告書で為替操作国への条件を厳格化し、自国通貨安を補助金と見立てた相殺関税措置を準備しているだけに、少なくとも二国間協議の対象国が増える場合を想定しておくべきでしょう。ベトナムは、既にドンの変動レンジを変更し、対応しているようですが…。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2019年7月28日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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