ヤフー・アスクル紛争:社外取締役の再任反対で再燃か「子会社の少数株主保護」

2019年07月29日 11:31

両社HPより:編集部

ヤフーとアスクルの一連の紛争において、ヤフーがアスクルの社外取締役再任議案に反対票を投じていることが話題になっています。

社外監査役も含めたアスクルの「独立役員委員会」が取締役会に提出した答申書が公開されたり、また独立委員会のアドバイザーである法律専門家が記者会見に応じる、ということも、たいへん珍しく、ヤフー社の対応も含めて、企業の有事対応に関心を持つ法律家としてもたいへん興味深いところです。

アスクルがヤフーとの資本業務提携契約に基づいて株式売渡請求権を行使するかどうか、アスクル社内では審議が行われるそうですが、同契約に準物権的効力があるかどうかは微妙なので、ヤフーによる議決権行使を仮処分で止めたり、現取締役らの仮の地位を定める仮処分が認められる可能性は乏しいかもしれません(もちろん、こういった判断は独立役員会が関知するところではなく、経営執行部が検討すべきことですから、あくまでも仮定のお話です)。

ただ、少数株主保護が重要な職責とされている子会社(正確には被支配会社)の独立社外取締役について、「気に入らないから」ということで親会社(支配会社)が再任を拒絶する、ということが普通に認められてしまうと、さすがにグループガバナンスの在り方として問題が残ることは間違いないと思います。

2014年の会社法改正の中間試案では、「子会社少数株主の保護」として、「親会社等の責任」を認める条文を創設することが明記されていました。

ザックリとしたご紹介ですが、親子会社間の利益相反取引は、定型的に子会社に不利益を及ぼすおそれがあると考えられるため、そのような利益相反取引によって子会社が不利益を受けた場合には、子会社の少数株主は親会社に対して責任追及の訴えを起こすことができる、といった内容です。

当時は「大株主の信認義務を認める画期的な法制度」として大いに議論されましたが、最終的には親会社の効率経営を阻害するおそれがあるとの意見が強いために廃案になり、利益相反取引に関する開示規制でお茶を濁した形になりました。

2019年6月末に公表された経産省グループガバナンス実務指針では、「攻めのガバナンス」として親会社による適切な事業ポートフォリオの管理が要請されており、親会社による子会社経営への積極的関与が推奨されているようにも思えますが、その分、急増した「独立社外取締役」による少数株主の保護が強く要請されることになりました。

したがって、親会社による積極的な子会社経営への関与(親会社による健全なリスクテイク)は、子会社の社外取締役制度の活用によって健全性が担保されているとみることができます。おそらく、社外取締役の急増は、2014年に会社法改正が審議されていた時期(2011年頃)には想定されていなかったはずで、上記経産省実務指針は、この(急増した)社外取締役の活用を通じて大株主と子会社少数株主の利益衡量のバランスを図ったものと思います。

ヤフーとアスクルの一連の事件経過をみるかぎり、親会社が子会社の独立社外取締役の構成に力で関与するとなりますと、上記経産省実務指針が標ぼうするところのバランスを崩すことになるのではないかと。望ましい「ソフトローによる事前規制」が奏功しない事態となれば、最後の切り札である「ハードローによる事後規制」が前面に出ざるを得ないこととなり、2014年の会社法改正時の子会社少数株主保護を法制化するきっかけとなるかもしれませんね。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年7月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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