ポスト安倍:読売は菅官房長官推し、朝日は山本太郎推し!?

新田 哲史

参院選の投開票日から1週間が過ぎた。自民党総裁に再登板してから国政選挙6連勝となった安倍首相は、きょう29日まで束の間の夏休みを過ごして英気を養うようだが、この間、「ポスト安倍」を巡る観測的な報道もいくつかあった。

二階幹事長は選挙当夜のラジオ番組で、安倍首相の4選支持を言明したそうだが、安倍首相本人は翌日の記者会見で「4選」については「全く考えていない」と否定した。参院選を乗り切り、2021年9月の3期目の任期の間、このまま無風で勇退となるのか、途中、どこかのタイミングで解散総選挙を断行し、レームダック化を防ぐのか、あるいは前言を翻して4期目に突入するのか、いまの段階では神のみぞ知るところ。

自民党サイトより:編集部

とはいえ、この参院選で「ポスト安倍」のレースで動いた局面はあった。宏池会会長の岸田政調会長が脱落したとの評価は避けられなくなりつつある。

凡百の政治報道の通り、山形、秋田、滋賀の各1人区でも自派の現職が野党統一候補に軒並み敗戦。そして極め付けは、派閥の開祖・池田勇人時代からの「宏池会王国」である地元・広島(2人区)で、派閥最高顧問でもある現職の溝手顕正氏を再選させられなかった。野党系の現職だけでなく、官邸主導で擁立した2人目の河井案里氏に破れる波乱だった。

溝手氏の決起会で挨拶した岸田氏(Facebookより)

広島で岸田氏が敗れた裏舞台について光ったレポートがNHK政治マガジンの「“仁義なき戦い” 敗者は誰か」。当初トップ当選も予想されていた溝手陣営が固めていたはずの業界団体票が、官邸の意を受けて東京から河井陣営に派遣された党職員や秘書たちによって次々と切り崩される様を生々しく綴る。

そして決定打となったのが公明票の離反。公明現職が苦戦中の兵庫で自民党本部が支援する「バーター」で、学会票が河合支援に回るという、自民党広島県連はそっちのけ、中央の力学で決まる展開だった。

NHKの記事には触れてないが、政治に詳しい人ならわかるはずだ。そうした高度なディールができてしまうのも、菅官房長官と、創価学会の佐藤浩副会長の強固な関係を築き上げてきたからと言える。広島の「仁義なき戦い」は明らかに官邸 VS 岸田氏の権力闘争の側面はあったわけだが、当然のことながら勝利した菅氏は「令和おじさん」の大衆的な人気に加えて、票を動かせる選挙、政局の強さも遺憾無く発揮している。

内閣広報室撮影:編集部

そして、きのう28日の読売新聞政治面にこんな記事が載った。“アナログ鎖国”の読売はこの記事をネットに会員限定でしか出しておらず、SNSでは全く話題になっていないが、タイトルとリードだけ引こう(太字は筆者)。

菅氏の株上昇、参院選で支援候補勝利…ポスト安倍待望論も

参院選を受け、菅官房長官の株が上昇している。新元号・令和を発表して上がった知名度で安倍首相に続く「選挙の顔」となり、支援候補の勝利に貢献したためだ。「ポスト安倍」候補の岸田政調会長や石破茂・元幹事長が精彩を欠いたため、菅氏の待望論が高まる可能性もある。

紙面の扱いは写真の通り(記事部分は加工)。日曜の読売は政治面と経済面を統合した紙面編成で、トップ記事は経済部の財務省改革の連載だったから、政治面としては事実上トップの扱いだ。

編集部撮影

世間の人が想像するように、渡辺恒雄会長の命令一下でこういう記事を書いたとは思わないが、少なくとも読売政治部が会長の意に反するような“推しメン”記事を出すことはあるまい。

渡辺会長は無類のポピュリズム嫌いで知られる。安倍政権の原発政策と財政再建には強い不満を持っているのは間違いないが、菅氏は、秋田からの集団就職から大学は法政の夜間で学び、秘書、市議、国会議員と上り詰めた苦労人。今や政権運営の要として安定感を誇る、その実直な性格と手腕には、最有力の宰相候補としての評価になりつつあるのかもしれない。

一方、読売のライバル、朝日新聞からもポスト安倍に関する言及があった。といっても政治部の記事や社説のような本流ではない。特報部デスク時代に起こした吉田調書誤報問題の戦犯とされ、反原発のトンデモ連載「プロメテウス」で物議を醸した鮫島浩氏という「傍流」スター記者が「20年政界を見てきた政治記者として確信」する宰相候補はこの人らしい。

れいわ新選組FBより

鮫島氏は参院選前から山本太郎礼賛は止まらなかった。選挙後のツイートでも「今の野党共闘の枠組みはもう見切り、消費税減税と山本太郎を軸とした野党再編へ動いた方がよい」(ツイート)「山本太郎はたった一回の選挙でたった二議席を得ただけで国会を大きく変え」(ツイート)などとご執心らしい。そして山本太郎氏と橋下徹氏、小泉進次郎氏を3人を「ポスト安倍時代の政界の主役」だと断言している。

その3人がキーマンになる可能性は筆者も否定はしないが、しかし、全体として、週刊誌のちょっとした世相記事で取り上げられてしまうのではないかと思うほどの珍言の数々に、ある種の「達観」すら感じる。

さすがに本流の政治部記者たちは鮫島氏に同意はしないだろうが、ファクトに忠実な報道より、朝日新聞好みの「角度をつけた」報道の大家とも言える鮫島氏の言動を見ていると、ポスト安倍の推しメン選びもやはり実直さより大衆迎合、劇場型政治好み。この国の構造問題に実直に取り組むことなどは眼中にないのが「朝日らしい」と改めて思うところだ。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」