事態を履き違えた反日攻勢の激化:破滅に向かう文在寅の時代認識

2019年08月07日 06:00

外国特派員協会で7月24日に行われた「ホワイト国除外」に関する記者会見をYouTubeで拝聴した。登壇者は韓国側が恵泉女学園大学の李泳采教授、日本側が元外交官で自民党参議院議員の松川るい女史だ。加えて、共に外国人と思われる司会者男性と極めて優秀な通訳女性がいた。

初めに李教授が「文在寅政権の現状における韓国の時代認識と日韓における葛藤の原因」について話したいと口を開いた。続いた松川議員が「今般の輸出管理変更に係る日韓対立の現状とその解決という議題、と紙に書かれていた」と冒頭に発言したことからも分かるように、韓国側が外国特派員協会の趣旨を曲げ、この場を韓国近現代史における日本の不当性と韓国の正当性を訴える機会としたようだ。

李教授の発言要旨を以下にまとめ、後に筆者の考察を述べる。

文政権は、日本の植民地からの独立運動の解釈を王政復古でなく国民主権運動の嚆矢に変えた。今年は3.1独立運動と上海政権樹立100年目の韓国の時代認識にとって重要な年だ。国民主権回復運動は60年4月に李承晩を打倒した学生革命、80年5月の光州事件、97年6月の民主化運動、そして2107年12月に朴政権を倒したロウソク革命と戦後も続いている。

文大統領は就任演説でこの政権は1700万のロウソク革命で出来たと述べたが、実はそれは100年前に始まっていた。韓国は今、市民一人一人が主権意識に基づいて国家暴力に抵抗し、軍事政権に対する過去清算問題を解決しようとしている。このような運動は100年前に日本の植民地政策に抵抗していた3.1独立運動が始まりで、今それが時代精神として生きているという解釈される。

現在の韓国の課題は二つ。一つは社会正義の立て直しだ。独立運動に加担した者が貧しい一方、日本統治の協力者が戦後支配層入りをしたが、それは李承晩政権が日本帝国主義の統治機構をそのまま維持したからだ。韓国には独立運動すると三代で滅亡し、親日は三代栄えるという言葉がある。

文政権は、このように国家や民族や社会のために犠牲になった者が差別されるという、社会正義が逆になっている韓国社会の歴史を立て直し、犠牲者を正しく再評価している。このことは反日抗日を目指す訳ではないが、日本に対して厳しい認識が台頭する時代であることは確かだ。

また、国内問題と同じように対外政策にも正義を求めるようになったことで、日本との間の慰安婦合意、徴用工問題、そして遡って65年の日韓基本条約の本質までを問う韓国社会の現状があることは否定できない。

二つ目は、朝鮮戦争の終結と恒久的平和体制の構築だ。金大中と廬武鉉が金正日との会談を果たしたのになぜ平和が作れなかったか。この問題を文大統領は政権の運命として位置付け解決に注力している。これら南北・米朝問題と国内経済問題への対応のため、日本外交が後回しになり対応が遅れたことは否めない。それに対して日本の保守政権が北への傾斜として韓国を格下げしていることが日韓の葛藤を深めている。

現在の韓国は独立運動を再評価する民主化世代が社会の主流である一方、日本は戦争(朝鮮戦争?)の経験がなく、戦前の帝国主義を美化し、九条改正して軍隊を持つことが普通の国だとする保守社会が主流だ。そのギャップとベトナム戦争のさなか米国の圧力で結ばされた65年体制の限界、そして南北和解による分断体制の限界に対する日韓の異なるアプローチが日韓の危機をもたらしている原因と考える。

以上、金大中、廬武鉉そして文在寅と続く韓国左派政権の系譜を代弁して余すところない李教授の発言だ。思い起こせば2003年2月に発足した廬武鉉政権も「右派守旧政治と既得権益層の打破」を掲げた。中でも過去史清算には威信をかけて取り組み、05年5月に「過去史基本法」、同年12月に「親日反民族行為者財産の国家帰属特別法」を成立させた。

後者を受けて06年3月には、検察当局が親日派子孫の不動産売買禁止を求める仮処分を裁判所に申請し財産没収作業を始めた。が、皮肉なことに今月3日の朝鮮日報は「先月26日に行われた検事長クラス人事の前後に辞職した幹部14人まで含めると、辞表を提出した検事は65人に達する。前例のない事態だ」と報じた。「積弊捜査」に注力した検事が要職を独占し、現政権の気に入らない捜査を行った検事は左遷されたので、多くの検事が露骨な人事に不満を表明し辞表を提出したそうだ。

韓国大統領府インスタグラムより:編集部

一連の大法院に依る徴用工判決でも文在寅は、政治的配慮から判決を先延ばしした朴政権当時の裁判長を子飼いの地方裁判所長に差し替えてまで、かつて釜山で自らが弁護人として提起した訴訟で被告有罪の判決を出させた。挙句、前任裁判長の逮捕という前代未聞の挙に出て世界を唖然とさせた。文政権の社会正義といったところで所詮はその程度のことだ。

自身も民政首席秘書官として中枢にいた廬武鉉政権は、日本統治期に徴用された死傷者や遺族に対する慰労金支給などの救済策を決めた。2005年に公開させた日韓国交正常化交渉の外交文書(議事録)から韓国政府の自国民に対する戦後補償の不備が判明したことを受けて講じた措置だ。これについては先月29日に外務省が交渉時の資料を公開した(参照:産経新聞)。

その対日請求「8項目」については、筆者も「大法院判決はおかしい…韓国経済新聞が『徴用工問題』で正面切って批判!」で書いたように韓国紙も報じている。外務省資料が公開した議事録に依れば、1961年5月の交渉で日本側代表が「個人に対して支払ってほしいということか」と尋ねると、韓国側は「国として請求して、国内での支払いは国内措置として必要な範囲でとる」と回答したとのことだ。

「8項目」の「第5項」には「被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する」とある。韓国は「女子挺身隊=慰安婦」と見做している。女子挺身隊は「被徴用韓人」に含まれるので、「第5項」に基づけば、慰安婦の「未収金、補償金及びその他の請求権の弁済」も官民合わせた8億ドルの中から韓国政府が賄うべき、という理屈が成り立つ。

廬武鉉政権は80年代の光州事件などの民主化運動鎮圧で有罪となっていた全斗煥・盧泰愚元大統領の叙勲を剥奪し、済州島4.3事件の慰霊祭にも出席して遺族らに直接謝罪した。閣僚人事では同じ民主化運動出身の韓明淑を初の女性首相として任命もした。外交面では竹島問題や歴史問題で日本に対して強硬な大統領談話を出す一方、北朝鮮に傾斜して経済支援を拡大した。

通訳上がりらしい女性外相などを見るにつけ、如何に文在寅が廬武鉉を手本に万事進めているかが知れる。が、独立運動の100周年記念式典や文在寅が注力するがために対日外交が疎かになったとする南北・米朝問題と言ったところで、その結果は本年4月11日、それは記念すべき独立運動100周年式典の当日だった、に呼びつけられた挙句の僅か2分間だけのトランプ大統領との会談だった。

文在寅は就任演説で「帝王型権力」を分割するとも述べている。この語は金大中政権の与党「新千年民主党」のシンクタンク「新時代戦略研究所」が使い始めた(廬武鉉も新千年民主党)。同所は国会の機能低下、司法の独立性喪失などを「帝王的大統領制」の弊害として挙げ、大統領が与党総裁を兼任しないことや国会の自律性保障などを提案していた。

2012年の大統領選出馬演説でも文在寅は、「帝王的大統領」の権力を分散すると述べ、当時の李明博大統領と与党の候補朴槿恵を「帝王的大統領」と決めつけて批判した。が、縷説した通り、また6日の朝鮮日報が青瓦台は「日本のホワイトリスト除外措置を機に、公職社会を対象とした特別監察に着手した」と報じた通り、目下の文在寅の政策ややり口は、民主主義とは程遠い「帝王的大統領」のそれと映る。

韓国大統領が政権後半に早々とレームダック化し、かつ悲惨な末路を辿ることの原因が、現行の1期5年のみの制度にあるとよく言われる。文在寅は2017年4月の国会憲法改正特別委員会で大統領制度を改選ありの任期4年にするという憲法改正について述べた。それも盧武鉉の案だった。

恐らく意図的に事態を履き違えてひたすら反日攻勢を強め、自裁した先輩を見習うかの如く国を破滅に向かわせているように見える文在寅。三代栄えるのなら反日をやめて親日になれば良さそうなものだが、いつになったら韓国国民はそれに気づくのだろう。事ここに至れば筆者が心配することではないが。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。

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