熱中症対策のために「幽霊の話」でも

いつものようにヤフーのサイトを開けて東京の「気温」を見た。やはりかなり暑い。6日は36度、明日もその暑さが続くという予測だ。

日本の読者のことを考えた。さぞかし、酷暑を乗りきるのは大変だろう。アルプスの小国ウィーンでも7月は30度を超える暑い日々が続いた。パリでは42度という観測史上最高気温を記録した。パリほどではないが、ウィーンは今週末また30度以上の暑さになりそうだ。

▲ウィーンで最も涼しい教会ルプレヒト教会(2011年7月15日、撮影)

▲ウィーンで最も涼しい教会ルプレヒト教会(2011年7月15日、撮影)

ヤフーのサイトには「熱中症指数」という欄がある。この欄をみて、「今日は外出しない方が無難だろう」と考えるお年寄りの人も出てくるのだろう。日本はとにかく全ての分野で繊細で親切だということが「熱中症指数」という欄を見ても分かる。日本の天気予報のように詳細に国民に情報を提供してくれる国は欧州にはないだろう。

当方は毎朝、5時前には目が覚め、1日をスタートさせる。部屋の中が蒸し暑い時はベランダにPCを運んで仕事を始める。それから明日のコラムのテーマを考え出す。そういえば、ここ数日、隣国・韓国とのいがみ合いについて書いてきたので、そのコラムを読む読者を一層ホットにさせたのではないか、という思いが湧いてきた。もしそうであるならば、申し訳ない。そこで読者のために何か涼しいテーマを書こうと考えた。

そこで「幽霊の話」を思いついた。このコラム欄でも過去10本以上の幽霊の話を書いてきた。幽霊は当方の友達というわけではないが、未知の存在ではない。先日、久しぶりにぐっすりと眠っていた時の事。突然、トントンと戸を叩く音がする。直ぐに目が覚めた。それも完全に目が覚めたのだ。まだ眠りたいとか、あくびが出るといった中途半端な目覚めではない。トントンという音を聞いた瞬間、当方は100%目が覚めたのだ。

時計を見ると5時前だ。誰かが戸を叩いたことは間違いないが、誰もいない。多分、当方の知り合いの幽霊がぐっすりと眠っている当方に「朝だよ」と声をかけてくれたのだろう。目覚まし時計の役割をしてくれた幽霊は善意があり、親切だ。悪い思いで近づいてくる幽霊は直ぐに分かる。警戒心が湧くからだ。時には鳥肌が立ち、呼吸も乱れてくる。

人には歴史があるように、幽霊には必ず歴史がある。多くの幽霊は何かを伝えたいという思いがあるから、それを尊重しなければならない。幽霊が出てきたといって大騒ぎし、直ぐに悪魔祓い、というのではかわいそうだ。

幽霊は体がないから、体をまだ持っている人間で、自分と相対関係が少しでもある場合、近づくことができる。幽霊も人を選択する。日本の首相公邸に住む幽霊は安倍晋三首相には現れるが、菅直人元首相や野田佳彦前首相の前には現れなかった(「公邸の幽霊は人を選ぶ」2013年5月26日参考)。

詳細には説明できないが、悲しい歴史がある家で泊まったことがある。目を覚ますと、当方の顔に傷跡がついていた。幽霊が生きている人間を傷つける場合、その幽霊はかなり強いエネルギーをもっていることになる。生前の悲しい出来事を今なお忘れることができず、近づく人間に時には傷跡をつけるのだ。

ところで、幽霊の存在は既に市民権を有している。欧州の王室には幽霊が頻繁に出現する。スウェーデンのカール16世グスタフ国王の妻シルビア王妃は首都ストックホールム口外のローベン島にあるドロットニングホルム宮殿には「小さな友人たちがおりまして、幽霊です」と証言している。その国王の妹クリスティ―ナ王女も「古い家には幽霊がつきもの。世紀を重ねて、死んで埋葬されたとしても、そのエネルギーは残るものです」と語っている(「欧州王室に『幽霊』と『天使』が現れた!」2017年1月6日参考)。北欧の王室は幽霊にはなんと寛大なのだろうか。

ノルウェー王ハーラル5世とソニア王妃の間の長女マッタ・ルイーセ王女は天使と交信できることで有名だ。天使に関連する本も出版している天使のエキスパートだ、といった具合だ(「『天使』と交信できる王女様」2012年8月24日参考)。

このコラムを読んで下さった読者の皆さんは束の間、隣国・韓国との紛争や日々の出来事を忘れ、幽霊について考えてみてほしい。偏見がなくなり、心が広がれば、直ぐ傍まで幽霊がきていることに気が付かれるだろう。

多くの幽霊は地上にまだ体を持っている人間のとりなし、祈りを願っている。なぜならば、彼らは地上生活でその使命を完全には成就できなかったために、地上生活から離れることができないで苦悩している。仏教用語でいえば、成仏できないのだ。

守護霊、守護天使など様々な呼称で呼ばれている霊もいるが、恨み、憎しみを晴らすために地上の人間に憑く霊もある。現代、後者の霊が地上を覆ってきた感じがする。憎悪の背後には、それを鼓舞し、囁く霊が必ずいる。

憎悪の虜になれば非常に危険だ。それから解放される唯一の道は「敵を愛せよ」だろう。デンマークの哲学者セーレン・キェルケゴールは「我々は愛さなければならない」と語っている、「愛したい」のではなく、「愛さなければならない」というのだ。極限すれば、愛せないから、愛さなければならないのだ。キェルケゴールの言葉は日韓両国関係にもひょっとしたら当てはまるかもしれない。

「当方氏の言いたいことは分かるが、我々は聖人ではない。具体的にどうすればいいのだ」と賢明な読者ならば質問するだろう。残念ながら、今回はそれには答えたくない。日韓問題になれば、せっかく熱中症対策のために「幽霊」の話をしたのに、また頭の中がホットとなってくるからだ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年8月7日の記事に一部加筆。