重度障がい者の訪問介護に経済活動は可能か --- 池田 まゆみ

寄稿

8月5日にれいわ新選組の当選議員、木村英子さんと舩後靖彦さんから、質問主意書が参議院で提出されたが、このお二人の議員活動における訪問介護について、賛否両論が百出している。

れいわ新選組の船後氏(左)と木村氏(公式YouTubeより:編集部)

維新代表の方々の意見には、そもそも障がい者支援法や介護保険法、障がい者の権利条約などをご存じなのか疑問符がつくところもあり、これは今後、国会で話し合われることで誤解も解けていくことを期待したい。

差別主義者と思える人物へのまっとうな批判は、既にたくさん出回っている。一方、賛成している方々の中には、医療や介護業界人ではないためか、「法」と「省令」と「告示」それぞれの拘束力の違いまで考えが及んでないので、それも踏まえた上で、以下に問題点を言及したい。

「省令」とは、立法府を通さず、大臣が法を根拠に施行命令を出すものなので、極端な話、大臣が変われば、省令も変わることはあり得るような、ゆるい拘束力しか持たない。

更に、「告示」は補充規定のようなもので、法的拘束力はないものである。今回のお二人が提議した、重度訪問介護の経済活動への制限は、「告示」である。つまり、厳密にいえば法的拘束力はないものなのだ。

ここで多かった意見は「告示で法的拘束力はないのだから、厚生労働省大臣が告示すれば済むこと」という論調である。

上記に表した通り、現政権では、「告示」であれば、あっさりいつでも覆されることもある。政権の性質によって右往左往させられる利用者本人や、サービス提供事業所の苦労は相当なものである。

私も高齢者福祉に携わっていたので、皆と同様、介護保険法改正のたびに悩まされた。詳細は割愛するが、IT機器の作業と契約書類の再作成はかなり大変であった。ソフト会社もその度に講習会まで開くのが常であったから。

事業所よりも利用者本人は、更に深刻だ。大幅な負担増は死活問題である。それだけに、簡単に変えられない確固としたものである「法」の拘束力が望まれる。

また、雇用促進のために政府より出される補助金についても、もっと活用されるべきだし、金額も増額したり、規定を変えれば良いと思われる。

例えば、「障碍者等介助助成金」である。対象は、2級以上の視覚障碍者や両上下肢障がい者などで、木村さんも舩後さんも、この括りに含まれる。厚生労働省が「職場負担」と言ったのは、障がい者雇用促進法の観点から条件を提示したと思われる。(国会と企業を同列に語ること自体疑問符はつくが)

なお、これに規定してある「職場介助者」は重度四肢機能障がい者に対する介助業務として、判断指示による文書の作成及びその補助業務、機械操作の補助業務など4つの業務が挙げられている。

着目すべきは、
「支給対象障がい者の業務上外の付き添い」や「介助業務に付随する業務」とあるのだ。
この補助金、10年から20年という長期にわたり支給されるものなので、事業主側には殆ど不利にならないものなのだ。

ここで考えてほしいのは、「業務外の付き添い」が省令によって狭められていることだ。排泄や服薬・食事・通勤は常に必要不可欠だから「業務外の付き添い」も含め定義づけるべきである。人間生きていれば、これらの生理的現象は当然なのだから。

そう考えれば、企業に補助金を出して、なぜ、本人には出せないのか。整合性が取れないのではないのか、という考えは、決して矛盾してない。それならば、本人に支給する「経済活動」も当然行われてしかるべきである。

また、福祉の現場で支援を行ってきた身としては、企業に払われるより、本人や支援を行う事業主へ支払われる方が、利用者本位の就労支援であり、企業側は利用者の労働対価のみに着目できる。施設設備の整備などは別に補助金が出ており、決して企業側だけが負担増だということにもならない。

ある程度の負担は「ダイバーシティ」企業として、イメージアップになり得る。生産性だけで人を切り捨てない、人に対して本当に優しい企業へと変革できることは果たして、損害だろうか。

要は、行政側が真に利用者本位の目線でこれまで施策を立案してきたか、という問題になる。
それが行き届かず、生産性一辺倒で人権無視の結果が障がい者を閉じ込めてきた。これらの利用者負担も応分負担で、経済的困窮者であっても勤労は可能となり、自立度はより進む。貧困対策にもなる。

この観点は、就労しながら応分負担で経済的自立の就労支援を進めることが出来るので、生活保護法も改正して適用可能になる。差別主義者と言える人たちが、わずか0.1%しかない不正受給をことさら大げさに煽り立ててバッシングする事が無意味になる。就労の機会を得て、本人の健康状態に合わせながらの社会参加が可能となるからだ。

国会は、企業目線のみで行ってきた立法を改め、当事者目線を持つべきだ。
それは、3割しか利用しておらず、介護離職を招いている介護保険もそうであり、児童福祉もそうである。弱者を助ける温かい国への生まれ変わりの一歩として、再考を望みたい。

池田  まゆみ ソーシャルワーカー
西南学院大学卒業後、都市銀行系列リース会社や大手損保系列会社、社団法人人事部勤務等を経て、東日本大震災を切っ掛けに、福祉業界へ転身。特養、老健、通所介護、通所リハビリテーション、訪問介護などの各種事業所にて相談員として勤務。現在に至る。