不動産は邪魔者?崩れる日本の不動産神話

このブログを何年もお読みの方はお気づきだろうと思いますが、不動産事業を生業としている者として海外から日本を見ていると、日本でマンションを購入し、重いローン負担をし、そのうえ、転勤になってもマンションは担いで持っていけるわけでもなく、否応なしの単身赴任で生活費は余計にかかるという全く間尺に合わないことをなぜ25年ものローンを組んで購入したいのか、いつも疑問に思っています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

マンションを買いたい人の理由が「退職後には住むところぐらい」という発想だと思います。仮に30代でマンションを購入した場合、30年後の60代後半にはローンこそ終わっているかもしれませんが、マンションもかなりくたびれてきています。問題は管理組合が十分な費用とノウハウをもって建物の老化を阻止できるか、ここにかかっています。

古いマンションに行くと確かに出入口のあたりは掃除する方がきれいに掃き掃除をしてぞうきんで磨き上げています。しかし、建物は表ではなく中が問題になります。そのあたりのメンテ計画は最近のタワマンなど外廊下がない建物はより管理が複雑になると同時に異様にメンテコストがかかるようになります。

その時、住民には住宅ローンがなくても高い管理費や想定外の特別の修繕費用が請求されることもあり得ます。そんな時、リタイア後に払えますか?皆払えないというでしょう。それは建物の死を意味しているのです。

昔の団地や相場が崩壊した越後湯沢のようなリゾートマンション群では管理に本当に苦労しています。住民に連絡取れない、支払い拒否などで管理費が徴収できず、「あの人が払わないなら私も払わない」になり、負のサイクルとなります。

私は正直申し上げるとマンションという仕組みは現代社会で機能しなくなりつつある不動産だと思っています。そうではなく、デベロッパーが建物の所有権を維持、住民は「居住権(ライフリース)」を取得し、建物管理はデベないし、デベの指定する管理業者が行うようにします。住民による管理組合は作らず、その代わり、居住権者がデベに対して発言権を含む一定の権利を持たせる形にすべきと思っています。

では土地はどうでしょうか?日経に「所有者不明地 国土の2割に『北海道並み』の試算も 登記義務付け、抑制期待 」とあります。所有者不明の土地が増えているという報道はすでに皆さんご存知のことと思います。なぜ、所有者不明になるのかといえば日本の「登記制度」がネックになっています。

かつて、日本の登記制度は非常に優れているとされました。それは不動産が価値あるものとして考えられていた背景が前提だからです。ところが私は不動産に対する価値観は変わり、は金銀財宝と違い、「使ってなんぼ」「収益を生んでなんぼ」の世界に変ったと思っています。使わない不動産、利益を生まない不動産は邪魔者以外の何物でもないと考えています。

例えば先祖代々の「山」「山林」あるいは「田畑」を相続してほしいといっても現代の人は「結構です」というでしょう。古いマンションでも「この不動産を子供に相続させればなにがしになる」と思うのは親の身勝手な話。子供からすれば「そんなんじゃま。すぐに売れないし、管理費や固定資産税もかかるし!」であります。上述のリゾートマンションやいわゆる分譲団地ならなおさらで「私は管理費、払いたくないから相続放棄です!」と言われるのが落ちでしょう。

不動産市場を正常に機能させるには十分な需給と同時に購入者の世代交代がどんどん進まないといけません。ところが日本の場合、住宅ローンは減価償却の関係で中古マンションや中古住宅にはローンが非常につきにくいか、無理したとしても土地だけ分しか担保価値の査定にかかりません。

一方で中古住宅の需要はお金がない人というジレンマがあります。つまり、しっかりした会社に社員としてきちんと勤めていない限り不動産は購入しにくいという官民の作り上げた昔の流儀が構造問題として立ちはだかっていると申し上げます。

だからこそ、私は日本では今後、賃貸は増えるとみています。形を変えた賃貸です。シェアハウスはその一つだし、シニアホームも新しい発想を取り入れたものが普及するはずです。

官民が不動産市場そのものを変えていかないと日本は不動産から見放される話は大げさなわけではないと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年8月9日の記事より転載させていただきました。