仮想通貨に対する税務当局の取り締まりが厳しくなってきた

2019年08月14日 06:00

アメリカの内国歳入庁(IRS)が先月後半から、ここ数年間に仮想通貨(暗号資産)で儲けたにもかかわらずちゃんと税金の申告をしていない納税者1万人以上に宛てて警告書を発送している。

Marco Verch/flickr(編集部)

日本では8月13日の国税庁の発表によれば、仮想通貨の価格が暴騰した2017年ほどではないが、2018年分の所得の確定申告で仮想通貨を含む雑所得の収入金額が1億円を超えた「億り人」が271人いたそうだから、アメリカでも多数の仮想通貨長者が現れていておかしくない。

IRSは、警告書を受け取った後に申告ないし修正申告した者の申告内容を、金融機関などの情報と照合してチェックするとのことだ。警告書を受け取った仮想通貨長者は今頃冷や汗を流しているに違いない。

Amazonより:編集部

20年ほど前の映画で、ブラッド・ピットが人間の男の姿を借りた死神の役を演じた「ジョー・ブラックをよろしく」という作品があった。

その中の一場面をごくごく手短に紹介すると、死神が恋をした女性の父親が経営する会社が部下の裏切りでライバル会社に乗っ取られようとしたときに、死神は自分が恐るべき存在であることをその部下に告げて乗っ取りを阻止しようとする。

男が死神であることを知っている女性の父親は死神が正体を現すのを止めようとするが、死神はかまわずに自分が何者であるか名乗る。ただし、「死神」という代わりに「IRSの調査官」で乗っ取りに絡んだ脱税の内偵中だというと、ライバル会社と結託していた部下は尻尾を巻いて退散していくというストーリーだった。

その時最後にブラッドピットが「死と税金」というセリフを口にするが、アメリカのIRSは脱税者にとっては死神と並ぶ恐怖の対象のようだ。なにしろIRSは、FBIも捕まえあぐねたアルカポネを所得税法違反で捕まえて牢屋にぶち込んだことでも知られている。

アメリカで2017年度に脱税で有罪となった者は584人で、その内の約6割が実刑となって刑務所行きとなっている。また、これらの脱税額の中間値(最高額から最低額までを順番に並べた真ん中の値)は277,576ドル(約3,000万円)だそうだ(米国判決委員会資料による)。

日本の場合、アメリカとは人口、経済規模、法制度等が違うので一概に比較はできないが、国税庁の発表によれば、2018年度に査察を受けて検察庁に告発され有罪となった者は121人で、1件当たりの脱税額は9,200万円、実刑になった者は7人となっている。全体としてみればアメリカの方がかなりの少額でも有罪となり、実刑で刑務所入りする割合も高い。確かにIRSは“死神並み”の怖さだ。

IRSはこれまで仮想通貨取引が急拡大する中で適正な課税の確保への対応が遅れ気味だったが、ここに来て正面から取り組み始めた感がある。8月2日のブルームバーグの報道によれば、IRSの刑事捜査責任者は、デジタル資産や仮想通貨は徴税に対する「重大な脅威」だと述べ、仮想通貨が関わる課税逃れの刑事事件を近く発表するそうだ。

また、アメリカだけでなく先進諸国の税務当局は仮想通貨による脱税の防止のための協力体制を強めつつあり、昨年半ばにはアメリカ、イギリス、オランダ、カナダ、オーストラリアの5か国の税務取締機関が集まって国際税務総監(Joint Chiefs of Global Tax Enforcement, 略称J5)という、仮想通貨、サイバー犯罪、国際的脱税などの取り締まりに焦点を当てて活動する組織を立ち上げた。この組織はこれまでの1年間に国際的な金融機関が絡む巧妙な脱税事案を50件以上摘発し、それ以外のマネーロンダリングや脱税事案でも連携調査や情報共有を多数行っている。

この組織は日本も加盟している先進国の集まりであるOECD(経済協力開発機構)が、加盟各国に国際的な脱税対策を取るように呼びかけたのに対応して作られたものなので、日本の国税庁もいずれ何らかの形でJ5と連携を図っていくこととなるだろう。

仮想通貨に対する各国の締め付けが、税金の面でも強まって来つつある。ゆめゆめ仮想通貨で脱税をしようなどと思わないことだ。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト

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