「将来、東京のマンションがスラム化する」って本当?

高幡 和也

人口減少や高齢化の進行によって、大都市や人気リゾート地を除くたくさんの地域では引き取り手(買い手や相続人等)のいない不動産が頻出している。

管理や維持費の負担が増えるだけで、使い道がなく、売るに売れない、貸すに貸せない不動産は「負動産」と揶揄され、一部では社会問題化しつつある。

写真AC:編集部

「近い将来、人口減少と高齢化によって空き家が増加し続ければ、東京でもマンションがスラム化する」などと主張する声も聞こえ始めた。

本当に東京のマンションがスラム化することなどあるのだろうか? その主張の基になっているものをいくつか挙げてみよう。

高齢化した住民がこれまでの住宅から介護施設に移り住んだ後、空いた家の引き取り手がない。

空き家が増えすぎて売りたくても売れない。住宅の需要がない。

建物の老朽化とともに住民も高齢化し、管理・修繕が困難になる

上記はいずれも全国の各地で実際に起きている現象だ。不動産に「引き取り手がない」状況とは、そのエリアの「不動産マーケットが機能していない」ことを表している。

「不動産マーケットが機能していない」とは、需要がゼロか限りなくゼロに近いために取引が成立せず相場が存在しないことであるが、いまのところ東京にはそのようなエリアは見当たらない。

現在、東京都心まで60分~90分程度で移動(ドアツードア)が可能なエリアなら、最寄駅からバス便の築30年以上の団地型分譲マンションでも十分に需要があり、「相場」であれば売買も当然可能だ。

築古マンションの場合、老朽化と住民の高齢化によって修繕費などの負担が過大となり、引き取り手(買い手や相続人等)がいなくなると主張する人もいるが、換金が可能なマンションなら引き取り手がいないことはあり得ない(債務超過の場合は除く)。

明確にしておくが、区分所有マンションの所有者が高齢化したり建物が老朽化して、維持管理などの負担が増加し、高齢化した住民が「その住戸を保有し続けることが困難になってしまう」ことと、その区分所有マンションの「経済的価値がなくなってしまう」ことは別物だ。

例えば、管理が行き届いていない住宅でも、自死などの心理的瑕疵がある住宅でも、管理費や修繕積立金が割高な住宅でも、「不動産マーケットが機能」していれば、それを加味した適正な価値が価格に反映され市場に流通する。つまり市場原理が働くのだ。個人が購入するには抵抗があるような住宅は、不動産業者が購入して加工し、問題点をクリアにしてきちんと「商品化」して再販売する場合もある。

今、東京都内で買い手がつかない住宅があるとすれば、そのような住宅は「適正価格で売り出されていない」か、その住宅がきちんと「商品化されていない」かのどちらかである。

では将来はどうだろう。仮に東京で本当に売るに売れない、引き取り手がない区分所有マンションが多く出現したとき、それは東京で「不動産マーケットが機能しない」時代が到来したことを意味している。

だが東京は、一般財団法人森記念財団 都市戦略研究所(東京都港区)が毎年公表している「世界の都市総合力ランキング」では、ロンドン、ニューヨークに続き、3年連続(2016~2018)で3位にランクされている「世界都市」だ。世界中から「人、物、金(資本)、情報」が集まる都市力3位の東京で不動産のマーケットが崩壊するとは考えにくい。

ただし、筆者は実しやかに論じられているような「人口減少、高齢化、空き家増加が直接的な原因となる東京のマンションスラム化」を否定的に考えているだけで、東京でスラム化するマンションが増えていく可能性を否定しているわけではない。

東京都内にある膨大な数の分譲マンションの中には、中長期の修繕計画が十分に検討されていなかったり、管理方式が自主管理の場合などでは適正な管理体制が整っていないものも少なくない。この様なマンションは、管理方法や修繕計画のあり方を抜本的に見直さなければ老朽化するにつれ、その価値が急激に低下する可能性がある。管理や修繕の不全が常態化すれば、実際に「スラム化」するものもあるだろう。

この様なスラム化は、本来すべきだった計画的な維持管理体制の構築を「所有者や管理者が怠ったこと」に起因するもので、人口減少、高齢化、空き家増加などとは関係なく発生するのである。

東京のマンションがスラム化することを、人口減少、高齢化、空き家増加などと「過度」に関連付けてしまうと、現在の区分所有マンションが抱える管理・修繕・費用負担などに対する諸懸案への問題意識が希薄になってしまう気がしてならない。


高幡 和也 宅地建物取引士
1990年より不動産業に従事。本業の不動産業界に関する問題のほか、地域経済、少子高齢化に直面する地域社会の動向に関心を寄せる。