景気後退の見出しに怯える市場

最近のブルームバーグを見ていると景気後退の記事が派手に並びます。悪いニュースを次々並べ、投資家、専門家が先行きの不安感を指摘し、専門家向けアンケートでは高い確率でリセッションになると報じています。

(写真AC:編集部)

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世界経済は微妙な歯車の上で成り立っています。ちょっとした軋みが思わぬところで大きなクラックになることは歴史が物語ります。このところのNYの株式市場はボラティリティが高くなり、数百ドル単位で上下する日が多くなってきました。また、場中でもちょっとしたニュースで数百ドル単位で動くのはプログラム売買がそれを後押ししているからであります。

株式の売買プログラムは順行性であって逆行性に強く対応するわけではない点はあまり語られません。ある悪い材料が出た場合、アルゴリズムが売りを展開します。皆同じようなプログラムですから売りが売りを呼ぶ展開になり、歯止めが利かなくなります。よって、ブルームバーグのような経済専門メディアが悪いニュースを次々拾い上げるとこれだけでプログラムは反応し、イールドカーブは逆転し、景気悪化の赤ランプが点灯するというごく単純な仕組みとなっています。

では、投資家のメンタルを弱気にさせているものは何か、といえばひとつにはトランプ大統領のツィッターではないかと考えています。ある瞬間、突然、非常に大事なことをつぶやく、それが瞬時に世界を駆け巡るという点に於いてトランプ氏は地球上の支配者のごとく振る舞い、その呼吸の加減をツィッターという言語表示器に乗せて拡声させる、ということであります。

分かりやすさの反面、ルールも制御もあったもんじゃない、ということでしょう。

もう一点、メンタル的に堪えているのは案外、香港の問題ではないかという気がしています。中国側も香港の若者たちも一歩も引かない状態が生み出す緊張感の行方であります。香港がなくてもシンガポールなど代替のアジアの金融センターはあるし、もともとは中国国内の問題だ、と割り切れるものではありません。

仮に人民解放軍がデモの制圧をする事態になれば、(そしてそれはあり得るケースですが)極めて衝撃的なメンタルショックを引き起こす可能性はあります。それは香港経済を長期にわたり、危機的影響を与えるかもしれません。

習近平氏が少し、ポジションを変え、アメリカと早々に手打ちをすればどうにかなる可能性はあります。ですが、習氏がどこを向いているのかといえば国内向けの保身にあるように見えるのです。その点は金正恩氏と同じでトップとしてのステータスを維持するためには民に我慢をしてもらうことをいとわないわけです。不満分子は潰せ、であり、その分子は泡沫であるうちに処理すべし、というのが鉄則でありましょう。

この強権を打ち出した時、マネーというもっとも逃げ足が速く、保身的で数字だけが全ての世界ではあっという間に市場から霧散霧消してもおかしくないのです。

これはいくら国内景気の足腰が好調な日本にも影響がないとは言えません。そして、もっと困るのは経済的体力が劣っている国が衝撃的影響を受けることであります。最近ではアルゼンチンの大統領予備選挙で左派候補が大勝したことで株式市場は一日にして一時4割以上、ペソも3割下がりました。こういう瞬間蒸発が今後もあり得るのです。アジア地区では韓国の足元がかなりぐらつく可能性はあります。

今回、気がかりな点はリーマンショックの時のように主要国の首脳が夜を徹して解決に向けた対策を講じる状況にない点でしょう。あの時、中国は57兆円も景気刺激策を打ち出した協調があったことは大きな助けとなったことを忘れてはいけません。今回は対話ができない国際関係に於いてトランプ氏の首を賭ける、ということになってしまいます。

私はアメリカの国内景気はある程度の水準を維持できるレベルであり、中国との落としどころを決めてくれさえすれば深刻な景気後退はないと考えていたのですが、最近の動向を見ると実態より心理面での影響が支配しており、少し見方を検討する必要があるかもしれません。

目先は8月22-24日のジャクソンホールでパウエルFRB議長が何というか、が注目点になってくるかと思います。9月の金利引き下げ幅に注目が集まっていますのでジャクソンホールでの発言でどれだけ「弱気か」がポイントになってくるかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年8月16日の記事より転載させていただきました。