オーストリア:イスラム過激派テロが最大の脅威

オーストリア国家公共安全局のフランツ・ラング事務局長と「憲法擁護・テロ対策局」(BVT)のペーター・グリドリング局長は14日、ウィーンの内務省で「2018年憲法擁護報告書」を発表した。それによると、昨年は極左過激派グループの犯罪件数は減少し、極右過激派の場合は微増に留まった一方、「イスラム過激派テロが最大の脅威」と強調し、特に、中東の戦地から帰国した外国テロリスト戦士(Foreign Terrorist Fighters)は潜在的危険要因だと指摘した。

2018年憲法擁護報告書を発表するフランツ・ラング事務局長とペーター・グリドリング局長(左)=オーストリア内務省公式サイトから 2019年8月14日

①極左過激派イデオロギーに基づく犯罪

極左過激派による犯罪件数は昨年137件で2017年比(211件)で35・1%と大幅に減少。告訴件数は237件で17年比で22・8%減少した。検挙率は改善し、18・2%(16年13・6%、17年14・2%)。

オーストリアは昨年上半期、欧州連合(EU)議長国だったこともあって、極左過激派グループはEU非公式首脳会談(2018年9月開催)に約1000人の極左過激派活動家が開催地ザルツブルクに結集し、抗議集会などを開催した。治安部隊との衝突はなかったが、物的損害が報告された。

②極右過激派イデオロギーに基づく犯罪

昨年の犯罪件数は1075件で2017年の1063件比で1・1%微増した。告訴件数は1622件で17年(1576件)比で同じように2・9%増加した。検挙率は63%で、17年58・1%、16年61・3%より高まった。インターネット連絡先「NS Wiederbetaetigung」には3176件の情報や関連事項が届いた。そのうち、1440件は重要な情報だった。

極右過激派は難民政策を自身のプロパガンダに利用し、移民・難民、外国人排斥を扇動し、国民に憎悪を植え付けている。彼らの攻撃対象はユダヤ人、イスラム教徒、難民、それらの関連する施設などだ。

イデンティテーレ運動(IBO)はオーストリアで反イスラム、難民、外国人排斥の主要な扇動グループで、その活動キャッチフレーズは「欧州のイスラム化の阻止」だ。

<イデンティテーレ運動>
ニュージランド(NZ)のクライストチャーチで3月15日、白人主義者で民族主義者、反イスラム教のブレントン・タラント容疑者が2カ所のイスラム寺院で銃乱射し、50人が殺害され、同数の負傷者が出た。犯人は昨年、オーストリアの極右グループ「イデンティテーレ運動」(本部グラーツ、会員数約300人)に寄付金を送っていた。自由党のシュトラーヒェ前党首やキックル前内相が同運動の指導者マーチン・セルナー氏と過去、会合していたことが判明している。

③イスラム過激派テロ

昨年末現在でオーストリアから中東紛争地シリアやイラクに出かけ、イスラム過激派と合流したり、加わろうとしたイスラム過激派総数は320人。そのうち、62人は出国を止められ、93人は戦闘地からオーストリアに帰国、58人は戦闘で死去、残りの107人は依然、紛争地にいると予想されている。

オーストリア側は紛争地でイスラム過激派と合流して戦闘した後、戻ってきた人間を警戒、監視している。彼らは戦闘経験があり、武器を使用でき、人間を無慈悲に殺傷すると同時に、欧州各地のイスラム過激派と接触できるからだ。

外国人テロ戦闘員のイメージ(国連薬物犯罪事務所=UNODCサイトより:編集部)

ちなみに、オーストリアでは過去、3度、大きなイスラム過激派テロ事件が起きた。1975年12月、テロリスト、カルロスが率いるパレスチナ解放人民戦線(PFLP)がウィーンで開催中の石油輸出国機構(OPEC)会合を襲撃した事件、81年8月にはウィーンのシナゴーク襲撃事件、そして85年にはウィーン空港で無差別銃乱射事件が起きている。幸い、それ以降は大きなテロ事件は生じていない。

オーストリアは地理的に東西両欧州の中間に位置し、国連、OPEC、欧州安全保障協力機構(ODEC)など30を超える国際機関の事務局や本部がある。オーストリアはイスラム過激派のテロ対象となる国というより、工作の補給拠点、情報の収集地とみなされている。世界からスパイや情報工作員が集まるところだ(「スパイたちが愛するウィーン」2010年7月14日参考)。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年8月17日の記事に一部加筆。