台湾、香港を併合するなら中国自身の完全民主化を

2019年08月18日 16:00

香港での騒動は、私はもうひとつ燃えないところがある。イギリスの植民地支配を易々と受け入れていた香港住民に民主主義を語る資格があるか疑問がないわけでないからだ。しばしば植民地と言うが、フランスの海外領土は代議士も国会に送っているし、大統領選挙でも投票できる。

doctorho/flickr(編集部)

アメリカのプエルトリコなどは、参政権は認められていないが、もし、州に昇格したいとか独立したいとかいえば、かなりの確率で認められる。

それに対して、イギリスは植民地の内地化は断固拒否だ。

しかし、香港の騒動は、中国国家のあり方と中国の民主化の将来についてのさまざまな矛盾を白日のもとにさらした。民主主義が行われている地域を、民主主義のない後進国に吸収させるということの理不尽さである。

世界は、経済発展のために国をまとめていくためには、少し自由とか民主主義を犠牲にしたとしても、いずれ民主国家になるのなら大目に見ようという雰囲気もあった。

私自身も1989年の天安門事件の前後には、趙紫陽によるあまり急激な経済の自由化はかえって危険だと思ったし、急進的な学生を趙紫陽が権力闘争に利用するのもいかがなものかと思っていたほどである。

しかし、いまや経済発展をここまでしたら、すぐにでも民主主義に移行できるだけの状態だ。実際、習近平主席も、2014年にオーストラリア連邦議会での演説で、「中国は2050年までに完全に民主化する」と述べたことがある。それでも、そのとき、2050年という目標はいかにも遠すぎると思った。

ところが現在は、清朝で君主制を、中華民国で自由主義を、毛沢東が社会主義を試してうまくいかなかった反省で、「特色ある中国の社会主義」こそが正しいと、一党独裁をいつまでもやめるつもりはないと明言している。

自由で人権が守られ民主的な国になるのが目標でない国が世界のリーダーになるのは世界の悪夢だ。習近平のいう中国の夢の実現とは、後進文明国が先進国も含めた世界を支配することになり、ちょうど、アテネからスパルタに盟主が移ったのに似ている。

日本は、すでに1889年に大日本国憲法を発布し、その翌年に国会を開設し、自由選挙を実現しているのである。その段階にすら中国は、130年もたって到達できないでいる。それは恥ずかしいことではないか。

なかには、「中国は大国だから、民主主義などすると混乱してしまう」という人もいる。しかし、それは現在の中華人民共和国が規模が大きすぎ、違う利益をもった民族や地域を中に囲い込みすぎているというに等しい。

本当にそうなら、国を適正な規模に分割すべきだ。「ひとつの中国を守る」「ヨーロッパは一つであるべき」など、絶対的なルールではありえない。それで旨くやっていけなければやめたほうがよい。

写真AC:編集部

私は中国はもはや、民主化や地方分権のロードマップを世界に示すべき時だと思う。また、分離を希望する民族や地域があった場合には、どのように対処するか、方向性を確立すべきだ。

多数決だけで独立を認める国はむしろ少ないが、少なくとも、独立・分離運動は認められるべきだ。沖縄が独立するのに絶対に反対だが、そういう運動は自由であるべきなのである。

民主化・自由化と統一の維持は、中国国家の矛盾を集約している。台湾独立運動などあまり力を持っていなかった1990年前後に、中国政府の幹部と懇談したことがある。

その時、私は台湾について、「中国が台湾と一緒になるというなら、中国全土での自由選挙が絶対条件だ。民主主義が既に行われている台湾雅一党独裁の国に併合されるなんて世界は許さないだろう。しかし、台湾込みで中国全土で総選挙をするなら、(当時は台湾で与党だった)国民党が全土で候補を立てることになって共産党とどっちが勝つか分からないのではないか。中国はわざわざ、共産党に取って代わる可能性がある組織を内部に取り込む勇気はあるのか?共産党支配をなお長く続けたいなら、台湾は別の道を歩かせた方が賢明かもしれません」といったことがあるが、正面からの反論はなかった。

香港も2047年には一国二制度が終わり中国に呑み込まれることが既定路線であるが、この取り決めのときには、その年までには中国も民主化されていると思っていたのである。

現実にいま民主主義が行われている香港が、2047年に一党独裁の国に併合されるなど世界が許すはずがないではないか。

私は台湾や香港で立派な民主主義が実践されているのは、「多元的な民主主義が中国人には向かない」などという迷信を打ち砕く実験だと思う。

中国が台湾を併合したいとか、2047年には香港の一国二制度をやめさせたいというなら、まず、中国自身が台湾や香港にならって民主化を約束し、また、併合を実行するかどうかは、台湾や香港の市民の意向を尊重することを明らかにするのが前提となるべきだ。

それが嫌なら、別々に歩むのも選択肢として棄てない方が、中国の安定のためにも好ましいのではないか。頭の体操としてかしたらどうかと思う。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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