時計の針が逆に動き出した欧州、ここにもある世界不和の火種

岡本 裕明

G7が8月24日からフランスで開催されます。その時、初登場の英国、ボリス ジョンソン氏の発言に注目が集まるでしょう。彼は合意なき離脱もやむを得ず、という立場を貫き通す姿勢を見せており、欧州の首脳とは全く異質、異次元の立場を取ろうとしています。欧州首脳は「今更何を…」と内心思っていますが、ジョンソン首相がそれを意に介さないところにこれから始まる欧州の混沌を見て取っています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

離脱期限は10月31日ですからあと2カ月強しかありません。メイ首相時代に作り上げたであろうシナリオのちゃぶ台返しに「ふざけるな」と思う大陸首脳陣も盤石な体制だとは言えません。その上ジョンソン首相のスタイルはトランプ大統領のそれとそっくりであり、大げさでストレートトークであり、相手に衝撃を与えることを何ら慮ることはないでしょう。

大陸首脳陣がさえないもう一つの理由はドイツの不振であります。4-6月のGDPはマイナス0.1%に沈みましたが、このところ囁かれているのは7-9月GDPもマイナスになるのではないか、という点であります。そのため、財政均衡に対して厳格な同国もこのままでは国内景気が維持できない可能性をシナリオに取り込み始めており、緊急的な財政出動ができる体制を準備しているようだと報じられています。

ドイツが不振なのは生産面、輸出の両面の不振が挙げられていますが、とりもなおさず、中国向け及び英国離脱に揺れるEU内での景気不透明感が響いているものと見られます。ドイツ中央銀行であるドイツ連銀は景気を「停滞」と表現していますが、その中に偶発的ではないとする表記から構造的低迷に陥ったと見られれば、しばし経済成長率は低迷するかもしれません。

次いでイタリアです。非常に分かりにくい連立与党を指揮するコンテ首相が20日、辞意を表明しました。イタリアは急進右派の同盟と左派の五つ星が水と油の状態で連立を組んで18年6月に政権が発足したものの形の上では同盟のサルヴィーニ書記長の強気姿勢に押される形で分裂が顕在化しました。現時点で同盟への支持率は高まっており、首相選になった場合の動向が注目されます。

こう見ると今週末に開催されるG7に於いて日本、アメリカはともかく司法介入疑惑で倫理委員会からクロを付けられ、今秋の総選挙で敗退の可能性が高まるカナダ トルドー首相及び欧州陣営では新加盟のジョンソン、半ばレイムダック化しているメルケル、辞任発表したばかりのコンテ、それを支える議長国のフランス、マクロン各氏では何かを期待する方が間違っているでしょう。

個人的にはフランス、マクロン首相の手腕についてもあまり高く評価していません。支持率は12月の23%からじわじわ切り返し、7月の世論調査で32%まで盛り返していますが、そろそろ戻り一杯だろうと思っています。その手腕を試すのが英国との問題であり、またEU全般の経済問題において機能不全となりつつあるドイツに代わり、どこまでサポートできるかであります。以前もご紹介したようにフランスとイタリアは大戦以降最悪の関係となっていることも念頭に置く必要があります。

ところで、欧州中央銀行は金融緩和を推し進めるバイアスにあり、マイナス金利が当たり前になりつつあります。

マイナス金利は何を意味するか、様々な見方がありますが、一つの尺度に「時間」があります。金利とは「時間を買う」という意味です。とすればマイナス金利は時間が逆行しているともいえるわけでマイナス金利になること自体が時計の針が逆さに動き始めている極めて危険な状態だといえないでしょうか?

英国の離脱とはEU発足後、英国が参加したあの時まで時計を戻す、とまでは言いたくないですが、それほど混とんとしつつあるのです。その底辺には日本では実感しにくい中東などからの難民が押し寄せることに対する欧州各国の国内世論の分裂、爆発とも言えます。イタリアの首相辞任表明はその端的な例だともいえるでしょう。

世の中の目は米中問題に行きがちですが、欧州でもジワリと秋風が吹きこんでいるようです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年8月21日の記事より転載させていただきました。