拝啓 林横浜市長様 日本のギャンブル依存症対策はいまだ最低基準です

2019年08月23日 16:00

この度、横浜市の林市長がカジノ誘致へ正式に名乗りをあげました。
以前より、横浜カジノ誘致は本命視されており、今回の決定は想定内ではありますが、会見の中で「ギャンブル依存症対策も整ってきており」という文言が入ったのには驚きました。

IR誘致を表明した林市長(NHKニュースより:編集部)

一体、何を持って「整ってきた」と思っていらっしゃるのでしょうか?
我々の相談会には、横浜の方が多数いらっしゃっておりますが、皆さん、どこからも支援を受けられず、行政や医療に相談に行っても、例によって例のごとく「本人を連れて来なさい」の一点張りで、例え、暴力沙汰になっていても、本人に介入してくれることなど全くありません。

また、会見で「ギャンブル等依存症対策基本法」が成立し、「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」が示されたとありますが、これはご存知の通り完全に骨抜き基本法となり、たった4回の関係者会議で終了してしまったばかりか、全国を横断する民間団体の代表は会議に選ばれず、ギャンブル産業側とギャンブル産業から支援を受けている団体の代表者、あとはこれまで全くギャンブル依存症対策推進に関わって来なかった個人や研究者が選ばれるという体たらくでした。

こちらに基本計画の取りまとめがありますが、ご覧いただければお分かりの通り、

ギャンブル等依存症対策推進基本計画 (横浜市HPより)

産業側がアリバイ作りのために設置している「電話相談」のような、今やどこでもやっている誰でもできる対策がもっともらしく書かれている他は、「望ましい」などという表現にとどまり、具体的には何をどう推進するのか、何も決まっていません。

つまり暴力や家庭内窃盗で、家族がが貧困に直陥り、怪我をしたり、うつ病に罹患したり、当事者が自殺未遂を繰り返したり、犯罪を繰り返したり…といった重篤な案件に対する対策は、殆ど手つかずのまま放置されています。

また拠点病院は制定されていっていますが、ギャンブル依存症をこれまで診たことのない医師らが、家族の叫び、願いに耳を傾けず、我々の様な民間団体や自助グループとの連携がないまま(連携の仕方もわからず)、一定期間入院したら、またさっさと家庭に戻してしまい、元の黙阿弥…いえむしろ、入院生活への悪感情から否認を強め、事態が悪化していたり、何度も入退院を繰り返すのみで、家族が疲れきっているケースが殆どです。

そして、こうして事態が悪化し、にっちもさっちも行かなくなったご家族が、駆け込み寺のように我々の元に飛び込んでこられ、我々は、どこからも援助を受けられないまま、ある日は、病院にすっ飛んで行き、ある日は当事者の元に介入したりと、徒手空拳自分たちがお金を出し合い活動を維持している状況です。

ギャンブル等依存症対策基本法が成立した際に、民間団体への助成が謳われましたが、結局の所、それは事業費しか拠出されず、それもほんのわずかです。つまり相談会やセミナーを実施したり、啓発物を作成した場合の、会場費や講師への謝金、印刷費や送料などは助成されますが、事務所の家賃や光熱費、人件費などのランニングコストに関しては一切助成されません。

また国が行う依存症啓発事業も、入札制度となっているため、予算の半額程度で落札されてしまい、我々が望んでいる事業に対し、予算もあるのに事業が実施できないという、馬鹿げた事態がここ数年続いています。

また一昨年より各県に課せられた民間団体の助成金にいたっては、本年度の電話調査で、民間団体への助成金なしと答えた県が32県、事業費の半額しか助成しない(実質赤字なので実際には使えない助成金)と答えた県が5県あり、結局の所助成金をつけているのはわずか10県でした。しかもこの助成金も殆どが10万円程度、最高でも30万円という、自殺対策などとは考えられない少額助成に留まっています。

ちなみに神奈川県の回答は「助成なし」という、けんもほろろな一発回答、横浜市は半額補助という赤字事業でお金に余裕のある団体しか応募できません。

林市長はこの現状のどこをご覧になって「ギャンブル依存症対策の体制が整った」とご判断されたのでしょうか?
実際、我々は現在タダ働きで横浜市民を必死に助けていますが、全然助け切れていません。

IRで税収が増えても、その税収がどこに使われるかが問題です。
現在の国政のように、税収が訳のわからないまま、政権のお友達企業にばらまかれ、福祉が切り捨てられていたのでは、市民は幸せになれません。

そもそもこの国の財務省は、目的税を嫌い、ばらまきやすい体制を崩そうとしません。
他国ではギャンブル産業からの税収の何%を依存症対策費に回すと決まっていますが、日本はそんなことは決してしないのです。

内閣官房はカジノ管理委員会に20億超の予算をとっても、ギャンブル依存症対策費はゼロです。
国は、本気でギャンブル依存症対策を推進しようなどと思っていないのです。

林市長、我々はギャンブル依存症対策で綺麗事を並べても、実際に何が起きているか、現場で現実をしっかりと把握しております。

そして首長がこの問題にどの程度本気で取り組んでいるかもすぐに分かります。
表向きの綺麗事、張りぼてでなく、どれだけしっかりと依存症対策をやってくださるか、我々はしかと見届けて参ります。

どうか口先だけでない、依存症対策を推進なさってください。
それが行われない限り、カジノは建設すべきではないと考えます。
カジノは経済効果を生むかもしれませんが、多くの人が死んでもいる「もろ刃の剣」なのですから。


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト

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公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表

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