年齢の成熟、商品の成熟

モノの販売動向を探る方法で個人的に考えている尺度は「年齢の成熟と商品の成熟を掛け合わせる」であります。

FineGraphics/写真AC(編集部)

年齢とは消費者の年齢でありますが、基本的には20-40代までは消費意欲は旺盛ですが、50代から落ちてきて、60代ぐらいからは自分というより人にあげるものを考え始めます。子供や孫、近所、友人といった身近な人との接点にモノを活用するのです。また、「お返し文化」がまだ残っている日本では旅行のお土産を貰ったら、次回自分が行くときにはちょっとしたものを土産に買って帰る、という人もいます。つまり、自分への消費ではなく、他人への消費であります。

これらは珍しいものばかりではなく、デパートの贈答品のようなありふれたものがむしろ主体で、決して失敗せず、相手に喜んでもらえる「ブランド系」の食材、食品が多いかと思います。

一方、若い人には新たに取り組む「ギア(装備)」を揃えるといった消費が強く出るかと思います。ちょっと山にハイキングに行くといっても日本の方は特にギアであるウェア、シューズ、リュックなど装備品から入る人も多いようです。これがもう少しお金のかかる趣味になると大変だろうと思います。ゴルフ、テニス、自転車から釣りまでびっくりするぐらい高いものもあり、またおしゃれなものもたくさん出ています。

よって若い人の消費を引き上げるには会社人間をやめて異業種交流会や趣味の団体に入り、全く違う世界に興味を持てるような社会環境を作り出すことが大切ではないでしょうか?一方、熟年層は人との交流を深めることで消費はより増大するとみています。

では商品、製品はどうでしょうか?秋になるといつも思うことが、今年のiPhoneはどうなるのだろうか、という点です。今年も9月の上旬に新製品が発表されるのですが、その中身は話題にもならなくなってきました。理由はスマホがコモディティ化してしまったから、であります。今から5-6年前はどんな携帯やスマホを買うか、悩んだ方も多かったでしょうし、メディアが煽った部分も大きかったと思います。最近はあまり話題にならなくなったのは「何年かに一度は買い替えが必要だけどその時にある最もリーズナブルなものでいい」という消費者の成熟感が出てしまったからです。

この例は消費動向を考えるうえでとても大事なのですが、携帯からスマホと成長していく中で我々は2-3年に一度、競うように新しいものに乗り換えていき、そのために多大なる出費を惜しまずにしてきた、とも言えます。

今から50代より上の方は若い頃、クルマの買い替えで全く同じような経験をされているはずです。つまり、消費の動向というのは商品開発が消費意欲をそそるほどの革新的なものである限り、大きく伸び、かつ、回転も効きますが、ある程度までくると耐用年数という買い替えサイクル以上にはならない、と言えるのです。

ではアップルはどうやってこの難局を乗り越えるつもりか、といえば同社はハードよりもソフトの販売に重点を置き、その売り上げも四半期でみてもハードは前年同月比マイナスのトレンドに対してソフトは2桁のプラスとなっています。

今年発売されたサムスンのGalaxy S10(Kārlis Dambrāns/flickr:編集部)

この時点でアップルはスマホビジネスがどうあるべきか、戦略が出来上がっているともいえるでしょう。サムスンのように製品に強くシフトしていると厳しい状況になりやすい、とも言えます。

とすれば日本の企業も同じで最終消費財を販売している企業は売っても次がないビジネスからの脱皮をしなくてはいけないとも言えます。プリンターはとても安い金額ですが、買い替えるインクはプリンター本体の3-4分の1ぐらいします。髭剃りだって本体は1500円ぐらいですが、替え刃は8つで2500円ぐらいします。つまり、本体はタダでも持って行ってもらえればそれに装着するインクや替え刃の消費は定期的にある、とも言えます。

私は高齢者向けビジネスはこの定期的消費を促すタイプが確実だと思います。一方、若い人はこの売り方は絶対ダメ。飽きてしまうし、新しいものを見つけ出します。

ビジネスって本当に面白いです。ワクワクするんですね、特に新しい事業を立ち上げる時は何年先を見るビジネスにするかといつも考えています。そうすると案外、割り切ったビジネスになるので負担にならないです。私が今、注力している教科書のビジネスなんて5年の賞味期限と割り切っているからこそ、楽しいのです。すでに次の手を模索し始めています。それぐらいアンテナを張り巡らせ、感性を磨かないとビジネスなんてできないです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年9月1日の記事より転載させていただきました。