海外での事業を成功させる方法はあるのか?

いわゆるハウツー本のような安っぽいタイトルなのですが、そんな方法はあるのか、といえば成功している人がいるのだからどこかにヒントはあるはずです。私も海外で28年。食べるぐらいのお金は稼いだのですが、そのあたりの経験談も踏まえてヒントを考えてみましょう。

はむぱん/写真AC(編集部)

日本的サンドウィッチがダメだったわけ

カフェの事業は8年経営したのですが、労力に対する見返りが目標に十分に達せず、他の案件が増えてきて手放しました。あらゆる改善をする試行錯誤の毎日でした。その中で今でも覚えているのがサンドウィッチの具材の扱い方。オープンキッチンに座ったある常連さん。スタッフが具材のミートを一つ分ずつはかりで測って取り分けていた作業がよほど気になったようです。

「君たち、そんなことで時間を費やすのは馬鹿々々しいよ。もっとおおざっぱでもいいから他のところに力を入れた方がいいんじゃないか」と。

私が学生時代バイト先のレストランの厨房で習ったのは計測です。あらゆるレシピの分量や提供品の重さの計測をスーパーバイザーが抜き打ちで行います。「君、このライス5グラム多いよ。規定は130グラムだ」としばしば教えられたことがカフェ経営の背景にあったことは否めません。

昔、アメリカの田舎町のさびれたストアで出来合いのサンドウィッチを買って食べた時、これほどうまいサンドイッチには出会ったことがないと思いました。具材がパンの3倍ぐらいあり、シンプルな味の中に肉の上手さがあふれ出たからでしょうか?

サンドウィッチの国でサンドウィッチが上手いのは文化の背景があるんです。けっして計算されつくされたものではないのでしょう。たかがサンドウィッチ、されどサンドウィッチなのです。勉強させられました。

カルビー元会長の松本晃氏ですら失敗する中国事業

松本氏が日経スタイルに寄稿している海外事業の失敗談にカルビー時代の中国でのお菓子の話があります。中国で新発売した「じゃがピー」は価格が高く量が少なく全然売れなかったとあります。中国人に満腹感がなかったのが敗因だそうです。

お菓子に満腹感という発想は確かにあまりありません。また、想像するに日本で売れているなら海外でも売れるだろう的なノリも背景にあったのかもしれません。

お金を使ってなにか購入する場合に何を最も重視するのか、その感性が日本と海外では違うと思うのです。例えばきれいな包装紙や傷やへこみがない商品の外装の箱に日本人は奇妙な満足感を持ちます。

一方、カナダの電気器具雑貨屋に行けば箱なんて基本的にガムテープベタベタで明らかに返品されたのをそのまま置いたような商品も結構並んでいます。でもカナダ人は気にしません。「中身はちゃんとしているんだろ!」ってな具合です。

松本氏がその寄稿の最後に面白いことを書いています。相撲で全勝するのは白鵬でも大変。普通なら11勝4敗ぐらいでも優秀だと。そうですね、新製品や新たなチャレンジもそれぐらい、肩の力を抜いたほうがいいのでしょう。

海外で仕事をするなら海外メンタルをもった人を集めよ

私が28年間カナダで仕事をしてきた中で日本人向け売り上げは1%もないと思います。理由はカナダ人向けの商売の方がはるかに楽なんです。落としどころが分っているからでしょう。日本の顧客は基本的に面倒くさいし、要求が高いのに金額や支払い面は一番厳しいんです。だから結果としてカナダ人とビジネスして勝ち抜く戦略を取ったとも言えます。

私もお手伝いする介護ビジネスの社長さん。この方も海外が長いせいか、典型的な日本人のメンタリティではありません。日本人規格ならぶっ飛んでいるんだろうと思います。だからこそビジネスが上手くいくのだろうと思います。

弊社では今月から日本人らしくないユニークな日本人スタッフが増えます。日本語喋って、日本ともビジネスが今後展開されるのですが、多分考え方やアプローチは完全に「ガイコク人」。少なくともカナダでは典型的日本人になる必要はないのです。

こちらでひそかなブームの母子留学。私のクライアントにもそのような方が過去も含め、何人かいらっしゃいますが、必ず助言することがあります。「お子さん、日本に帰さないでここで大学に入れましょうよ。UBCならば東大より全然価値ありますよ」って。子女を海外志向にするなら海外大学はマストだと思います。そしてもっと磨きをかけるならマスターです。これを取る価値は後々気がつくと思います。

海外の人だって新しいものに反応する!

「新しもの好き」は日本人だけではありません。特にインスタ映えが世を席巻する中、見た目と同時に欲しくなる機能性や価値感は海外の人を覚醒させた感があります。その中で面白いなと思わせるものは北米ではやはり北米から出てきているケースが多いのは文化的背景とどこが北米人に受けるのかツボを押さえているのでしょう。

「ルル レモン」というカナダのスポーツウェアの会社があります。日本では全く不発だったこのブランドは今でも息の長い成長を続けています。その一つはウエストコーストならではの街着とかウォーキングなど、場合によっては通勤着で着られるという職住接近とワークライフバランスの融合を商品に落とし込んだことにあるのでしょう。

つまり何でも斬新であればいいというわけではなく、その地域のライフスタイルにどれだけ溶け込めるかがヒットの秘訣になるのでしょう。

海外で事業を成功させるにはいくつかポイントはあります。ここでは書ききれません。が、一つ言うならば日本を持ってきてはダメ。日本をベースに何か現地の人にヒットするアイディアが加わればかなり行けると思います。このひと工夫が一番難しく、机に向かって座っているだけでは絶対にそのヒントは浮かばないと思います。

そのために全方位の思考と馬鹿々々しいと思うことも真剣に覗いてみる、そして最後に、その判断を日本に仰がないことでしょう。日本の本社が理解できるわけないんですから。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年9月8日の記事より転載させていただきました。