因縁の河井氏初入閣、岸田“宏池会”には試練の人事か

2019年09月11日 06:01

安倍内閣の改造人事の顔ぶれが固まり、きょう11日、正式に発足する。小泉進次郎氏初入閣、安倍首相の側近議員を主体とした「改憲シフト」、あるいは人数ゼロになった石破派の冷遇が極まったことなどに世間の関心がまず集まるのだろうが、個人的には「ポスト安倍」を占う人事という意味では、参院選で岸田氏が求心力を落としたとされる中で、岸田派(宏池会)がどのような処遇をされるか注目していた。

岸田氏Facebookより

8月中の一部報道で、岸田氏本人は憲法改正担当の役職に回るとの観測も出ていたが、結局は政調会長続投に落ち着いた。そして昨日の組閣内定では、宏池会からの閣僚は3人から2人に減った。

新たに大臣となる2人の顔ぶれも、共に初入閣。といっても科学技術相に内定したのが当選8回の78歳、竹本直一氏(元財務副大臣、大阪15区)で、地方創生相に内定したのが当選7回の72歳、北村誠吾氏(元防衛副大臣、長崎4区)。現内閣に宏池会から入った根本厚労相や平井IT・科学技術相に比べると、お世辞にも将来性があるとはいえず、失礼ながら「最初で最後の入閣」「在庫」感がどうしても漂ってしまう。

もちろん、竹本氏も北村氏も派閥からの推薦リストに記載されていた中から、安倍首相が選んだと考えればまずは及第点というみる向きも少しはあろう。この後の副大臣・政務官、および党人事全体を見た上で、宏池会の求心力がどうなのかを推し量るのがフェアかもしれない。

河井氏(Wikipedia)

それでも、岸田氏や氏のお膝元の広島県の自民党関係者にとって「極めて複雑」な意味合いがあると(少なくとも筆者に)感じさせたのは、河井克行氏(衆院広島3区、無派閥)が初入閣し、法相に内定したことだ。

参院選の岸田氏は、秋田、山形、滋賀で自派議員の再選に失敗。さらにはお膝元の広島で、6期目を目指した自派の重鎮、溝手顕正氏(参院議員会長、元防災相)を総力をあげて支援しながら、党本部(官邸)主導で擁立した河井氏の妻、案里氏に押し出される形で落選する憂き目にあった。

選挙区事情をおさらいすると、広島県は宏池会の祖、池田勇人の地元であり(池田は現在の竹原市出身)、秘書官など池田の側近として使え、のちに首相になった宮澤喜一も本籍は福山市で選挙区もここだった。まさに宏池会の金城湯池とも言える広島の自民党は、その伝統を体現するように、夏の参院選前までは、自民党の県選出国会議員9人(衆7、参2)のうち、岸田氏を含めて宏池会所属は5人を占める圧倒的な存在だった。

これに対し、河井氏は無派閥。安倍首相に近く、対米外交・安全保障に強いことを自負する印象から、タカ派色の強い清和会所属だと錯覚する人もいるくらいだが、やはりハト派の宏池会とは水が合わないのか一線を画してきた。

広島の自民党内での夫婦の評判は「良くいえば独自路線、悪くいえば浮いている」(県連関係者)というもので、実際、参院選に際しても、広島県連では、案里氏を党本部が公認するまでは最後まで反対する声が多数派を占めていた。選挙中も地元で支援する地方議員は少数派だった。

溝手氏の応援が実らなかった岸田氏(Facebookより:編集部)

当然のことながら参院選スタート時点では、溝手氏と野党現職の再選が安泰で、河井案里氏は厳しいと見られていたが、組織票を固めていたはずの溝手陣営から、次々と河井陣営に引き剥がされるよもやの展開になった。

その壮絶な“仁義なき戦い”の舞台裏は、NHKの記者がネットで詳しくレポートしていることは以前書いたが、地元で絶対に落とせない候補を勝たせられなかった岸田氏が、ポスト安倍の絶対要件である「選挙の顔」として疑問符がつきまとうようになり、参院選後、求心力が落ちているとされるのは、凡百の政治報道の伝える通りだ。

そして今回の組閣人事。河井氏は当選回数は7回と確かに入閣してもおかしくはない。外交面でもトランプ氏の大統領当選直後に外務省にルートがなかった中で、いち早く関係を構築して安倍首相との会談を実現するなどしてきた、これまでの貢献度からすれば「妥当」かもしれないが、夏の決戦で煮え湯を呑まされた格好の岸田氏の内心は穏やかではないだろう。

もちろん岸田氏自身は立場があるから表向きは大人の対応に終始するだろうが、溝手陣営に入っていた自民党関係者からすれば、河井氏の出世は、参院選に引き続いて宏池会の庭に大きな楔が打ち込まれたようにも感じられ、人によっては「複雑」どころか「屈辱」に感じる者もいるはず。

逆に、安倍首相サイドからみれば、政治的な力を岸田氏らに見せつけるようだ。岸田氏はここから巻き返しができるのだろうか。

ドライに見る人は「コップの中の嵐」とたやすく切って捨てられるかもしれない。しかし、党内力学の変化や暗闘の存在を随所に感じさせる人事の裏読みをするほど、そこには政権交代のあった10年前のような野党の存在感は影も形もなく、「総体」としての自民一強の揺るぎない現実があるだけで、有権者の選択肢が少なくなっていることをどう評価するかだろう。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」

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