イージスアショア改良?韓国紙で最新の日本の防衛事情を知る異常

高橋 克己

このところ北朝鮮が頻繁に発射を繰り返している短距離弾道ミサイルは、今の日本のミサイル防衛(MD)システムでは撃ち落とせない、つまりは着弾してしまうことを防げない可能性がある、と何人かの専門家が指摘している。もっとも世界中のMDシステムもこれと大同小異らしいが。

ハワイのイージス・アショア・サイトでの発射訓練(防衛省サイトより)

ミサイル攻撃を防ぐのには、①発射直後に撃ち落とす、②飛行中に撃ち落とす、③着弾直前に撃ち落とす、の3フェーズがある。日本のMDシステムはこのうちの②と③で、ミサイルの飛行状態から軌道を予測し待ち伏せして迎撃する。発射直後は加速中なので行方の予測が難しいらしい。

ところが北朝鮮の最近のミサイルは飛行中に高度が変化するというのだ。北がそれを真似たか或いはそのまま導入したとされるソ連の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の技術だそうだ。そうなるといかに日本の自衛隊やコンピューターが優秀でも飛行軌道の正確な予測ができず、迎撃が困難とのこと。

今試射しているミサイルの飛距離は600km程度で日本には届かない。が、いつ距離が伸びるかも知れず慰めにならない。米ソ間で廃棄されたINF条約で500kmを超える射程の弾道ミサイル開発が禁止されていたからこその話で、条約がなくなればすぐ射程が伸び、北にも技術が流れるだろう。

先ずはここ最近の北のミサイル発射について述べたが、本稿の主題は他にある。それは、一つは「敵基地攻撃能力」あるいは「発射前ミサイル撃破能力」といわれる防衛問題、他は防衛事案に関する日本の左派メディアや野党などの無責任ぶりだ。

筆者がこれらに関する日本の現状が深刻だと感じたのは、韓国中央日報の18日の記事を読んだからだ。それは「米国防次官、日本配備のイージスアショアに北朝鮮原点打撃能力」と題された、米国のジョン・ルード政策担当国防次官が17日(現地時間)に米議会で行った説明を紹介する内容だ。

ルード氏(国防総省サイトより)

筆者はルード次官の説明の内容もさることながら、日本のミサイル防衛の核心に関わる最新の状況を韓国紙の報道によって知ったことに衝撃を受けたのだ。本稿を書いている19日午前中の時点で日本のメディアはこの件を報じていない。

では中央日報の記事を追って見てみよう。

記事は先ずルード次官が北朝鮮の新型ミサイル開発に関連して、「ミサイル防衛と同時に発射原点を打撃できるよう攻撃・防御作戦の統合を進めている」ことを明らかにしたと書く。「発射原点でミサイルを打撃できるよう」にするとは、日本の議論でいう「敵基地攻撃」を可能にすることに他ならない。

ある元自衛隊将官は「敵基地攻撃」を「発射前ミサイル撃破能力」と称した。その通り、ものは言い様だ。攻撃対象は発射前のミサイルであって敵基地ではない。ミサイルを搭載したトラックや潜水艦は基地ではなかろう。そのこと一つをとっても「敵基地攻撃」なる語が如何におかしいか知れる。

野党や左派メディアは「敵基地攻撃」が専守防衛から逸脱するという。筆者はこの議論を聞いてひと昔前の空中給油機の論争を思い出した。自衛隊が導入しようとしていた空中給油機を、「航続距離」が伸びるので専守防衛から外れると野党や左派メディアは主張した。

なぜ「航続時間」でなく「航続距離」と考えるのか。空を長時間飛んでいられれば何度も離着陸を繰り返さなくて済むから有利となぜ解釈しないのか。

だが、そもそも長距離を飛べると考えたところで何の問題もない。事実、今では空中給油機を自衛隊は何機も保有し運用している。

長距離迎撃ミサイルの話も同様。北朝鮮に届くような射程のミサイルを持ってはならぬと野党や左派メディアは叫ぶ。しかし日本列島は長い。北海道の北端から沖縄まで島嶼部も含めて3,500kmもある。どこの基地にそれを配備するかで1,000kmや2,000kmは容易に動くではないか。

いい加減にこういう馬鹿げた議論はやめてもらいたい。で、話を元に戻す。

中央日報もここぞとばかり「防御用という従来の説明とは異なる発言であり、北朝鮮のほか中国などの反発が予想される」と書き、「先月、米国の新型中距離クルーズミサイル試験発射当時、イージスアショアと同じ発射台を使用し、攻撃用互換の可能性が提起された」と続ける。ポイントとなる話が出てきた。

記事はルード次官が、「(米国は)攻撃と防御を統合する作業を推進して」おり、「攻撃防御性能の統合は、敵がミサイルを発射する前に原点を把握して脅威を解消する選択肢も提供する」とし、「イージスアショアの弾道およびクルーズミサイル防衛と攻撃作戦の統合のために性能のアップグレードを」することが、「次の段階に対処するうえで効率的である」と説明したと書く。

そして記事には、ルード次官が「日本が2023年に導入する陸上配備型迎撃ミサイルシステム“イージスアショア”を、攻撃性能を加えるために改良しているとも公開した」とある。この一説は冒頭部分にあるのだが、話の都合上ここに持ってきた。これを読んで筆者は思わず、イイネ!とつぶやいてしまった。

記事は最後にルード次官の重要な発言をいくつも挙げている。要約すれば以下のようだ。

  • 北朝鮮の固体燃料ミサイルは事前探知が難しいが、固体燃料推進ミサイルも探知能力範囲内にある
  • 米国のイージス艦38隻はミサイル防衛と同時に搭載された攻撃武器を再設定なく使えるよう統合されている
  • イージス艦の探知能力はミサイルが発射された原点を知らせ、ミサイルを迎撃すると同時に原点を打撃する能力も提供する
  • 航空および地上探知レーダーと情報を共有できるネットワークは攻撃防御統合状況で理想的

繰り返すがこれは日本の新聞記事ではなく、韓国中央日報の記事だ。日本のメディアはなぜ報じない?代わりに日本の防衛政策を腐す話には事欠かないから始末が悪い。最近もNHKが石垣島の陸上自衛隊の配備が島の水源地を汚染するかのような編集をして放送したことが市議会で問題になった。

結局、NHKが謝罪釈明したようだが、そもそも「自衛隊配備反対」という考えの者が番組を作るからこうなる。テレビ所有者からあまねく視聴料を取る半公共放送が、国土防衛を等閑視するような偏った番組編集姿勢で良い訳がない。即刻のスクランブル化を望む。

イージス・アショアを秋田と山口に配備する件も揉めている。防衛省の不手際は拙い。が、何か失念したがこういう記事を読んだ。即ち、防衛省は秋田市と萩市が選ばれた理由を「わが国全域を防護する観点から北と西に2基をバランス良く日本海側に設置する必要から候補地とした」としている。

そのことをその記事は、「しかし実は、北朝鮮の弾道ミサイル基地舞水端里と秋田市を結んだ延長線上には米軍のアジア・太平洋方面軍司令部のあるハワイがあり、同じく萩市の先には米軍のアンダーセン空軍基地、アプラ海軍基地を抱えるグアムがある」と曰くありげだ。

が、ゴルフのショットでも打ち出し角が数度ずれれば、200m先では10mは容易にずれる。ましてや日本海側の舞水端里基地でなく黄海側から発射すれば、そこから秋田を結んだ先はカナダかアラスカ、山口を結んだ先は小笠原諸島といった具合になるだろう。ためにする馬鹿げた論だ。

事は国家の存亡と国民の命に係わる問題だ。この石垣島やイージスアショアの配備予定地のようにすぐにおかしいことが露見することを報じるのではなく、受け取る側が物事を正しく判断できるような、もう少しきっちりした中身の報道を望みたい。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。