千葉大停電を機に考えたい電力自由化のリスク

2019年09月25日 14:00

台風15号の直撃から半月が経ちました。被災された皆さまに、あらためてお見舞い申し上げます。

写真ACより:編集部

特に千葉県では大規模停電となり、被害の大きかった中部、南部を中心に停電が長期化しました。まだまだ暑い日が続きます。台風が通過した9日以降、これらの地域では熱中症の搬送者が全国最多にのぼり、停電でエアコンが使えなかったことが原因とみられています。

先ごろ、千葉県の森田健作知事からの要請を受け、安倍総理が激甚災害に指定する方針を表明されました。首都圏では近年にない台風被害となり、行政の対応の遅れも指摘され批判も起きていますが、まずは目の前の被災に対し、関係機関が全力で復旧作業を行い、支援の輪を広げることが肝要です。

さて、今回の大停電が長期化した原因として、房総半島の丘陵地を中心に倒木が多く、現場に復旧作業に向かうことが大変難しくなったと地元や専門家からの指摘が相次いでいます。

(参照記事)
千葉大停電の遠因か。倒木処理の難しさと山武杉の悲劇を振り返る(田中淳夫) – Y!ニュース

昨年9月、台風21号の直撃で発生した大阪・関西の停電は、最大で168万件と今回の千葉の最大時の倍の規模でしたが、5日後には99%が復旧しました。

一方、直後に北海道胆振東部地震に端を発し、道内全域を襲った大停電は、道内最大の火力発電所が震源近くにあり、運転を停止。もともと本州からの送電も含めて微妙な需給調整をしていたところを直撃された形となり、連鎖的に他の火力発電所も止まったことが原因でした。

それでも、経産省と北海道電力の昼夜を徹した努力により、2日と経たずに地震前の最大供給量の9割の電力を回復。その後も道民の皆さまにも節電へのご協力をいただいて早期に復旧への目処が立ちました(完全復旧は10月4日)。

今回の千葉の停電は、たしかに北海道や関西のケースとは異なる点も多くあるかもしれません(参照:関西電力『台風 21号対応検証委員会報告』)、森林地帯が多いという地勢の問題もあったことでしょう。

しかし、電力業界全般の経営環境に目を向けてみると、インフラへの投資が縮小傾向にあることは事実として直視したいところです。

経済産業省の調べでは、一般送配電事業者に指定されている日本国内10の電力会社の投資額は、1993年をピーク(2.5兆円程度)に減少に転じ、最近はピーク時の3分の1程度に激減してしまいました。

送配電設備の老朽化が著しいことを考慮すると、本来、投資額は少なくとも2010年以降増加していなければならないと考えられます。それでも減少傾向が続く要因として、電力自由化があると、私は考えます。

経産省資料より

電力自由化は2000年3月に開始。大規模工場や大型の商業施設、オフィスなどの大口の買い手が電力会社を選ぶことができるようになり、2004年4月と05年4月には中小ビルや中小規模の工場にも拡大しました。そして、2016年4月の全面自由化で、一般家庭や商店といった小口ユーザーも任意で電力会社を選べるようになりました。

そもそも自由化の議論が起きたのは、バブル経済の崩壊後に、各地域で独占的な地位にあった電力会社10社について、高コスト構造や海外との価格差が指摘されたことに始まります。「競争原理の導入による経営効率化を促すべき」との世論も巻き起こり、1995年の電気事業制度改革で、まず発電市場に競争入札制度が導入されることになりました。

(参照:国立国会図書館『電力自由化の成果と課題 ―欧米と日本の比較―』)。

自由化により、ユーザーの選択肢が増え、新規参入(新電力)も加わって電力会社同士の競争が起きて市場全体が活性化するという論理はうなずけるものですが、送電部門のみは既存の電力会社に100%まかせるという考え方は、既存10社の立場になってみれば、(使用料をもらっているとはいえ)わざわざライバル業者の「商品」を届けるために、送電設備に投資しようという意欲がわかないのも、市場原理から考えて、また当然といえるのではないでしょうか。

写真ACより:編集部

2020年には、いよいよ電力会社の発電部門と送電部門の経営を分ける「発送電分離」がスタートします。昨年の北海道の大停電の直後、自由化に長年前向きだった日経新聞ですら、社説で「分離後の供給責任を負うのは送配電会社だ。発電会社は新規参入する事業者を含め、自らの利益最大化のために動く。そうなると、(送配電部門の)投資が進まなかったり、特定の地域や発電方式に偏ったりする可能性がある」と懸念しています。

自由化の先頭を切っていたアメリカでは2000年、カリフォルニアで歴史的な大停電が発生しました。そうした先例を踏まえて、日本では、電力広域的運営推進機関を設立し、電力の安定供給に支障が生じたときの「もしも」に備えてはいるものの、電力は、経済、生活、そして命に関わる大インフラです。効率性や市場原理だけで自由化が進んでしまうと、利便性や低価格化というメリットの中に、思わぬリスクが潜んでいることを忘れてはなりません。

10月4日には、内閣改造後初となる臨時国会が召集されます。長期的視点から今回の大停電の根本原因を究明し、再発防止につなげることが政治の役割です。経産省も、千葉県の停電が復旧を果たした後には、こうした議論を始めるとのこと。大いに期待したいと思います。


太田 房江(おおた ふさえ)参議院議員(自由民主党、大阪府選挙区)
1975年通産省(現・経済産業省)入省。2000年大阪府知事選で初当選し、日本初の女性知事に。2008年に知事退任後、民間企業勤務を経て、2013年参院選で初当選(現在2期目)。厚生労働政務官などを歴任。公式サイトツイッター「@fusaeoota」LINE@

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太田 房江
参議院議員(自民党)、元大阪府知事

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