天の力を借りられる人

北尾 吉孝

株式会社致知出版社の代表取締役社長・藤尾秀昭さん曰く、「一代で偉業を成した人は皆、天の力を借りられた人である。エジソン然り二宮尊徳然り、松下幸之助氏も稲盛和夫氏もそうである。では、どういう人が天から力を借りられるのか。その第一条件はその人が自らの職業にどれだけの情熱を注いでいるか--この一点にあるように思える」とのことです。

此の情熱に関しては、拙著『人物をつくる―真の経営者に求められるもの』でも松下幸之助さんの挙げられる指導者の資質条件につき、次の通り述べました。

松下さんの話では百二の資質が必要だということですけれども、指導者には非常にたくさんの資質条件が必要です。(中略)第一の資質条件は、熱意を持つということです。それも、誰にも劣らない最高の熱意を持つということです。知識や才能は、人に劣っても構いません。しかし、こと熱意に関する限り、指導者は誰にも勝る熱意を持たなければならないと僕は思います。

指導者になりたいと思う人は、情熱から全てが始まるということをよく理解しなければなりません。他方、情熱を持っていたら天の力が借りられるかと言えば、それはまた別の話です。それは、如何なる事柄に情熱を注いでいるか、が大事になると思います。

世のため人のためになるに何かに対して情熱を燃やし、強い意志を持って是が非でも成し遂げようと取り組んでいる場合は、ひょっとしたら天の力を借りられるのかもしれません。

世の中には運だけで偉業を遂げたという人もいるかもしれませんが、そうした人は極々稀でその殆どは多くの人間の支えを受け社会から重用されて成功に至るものです。そして彼らの足跡を訪ねてみれば、決して私利私欲のためには生きていません。

世のため人のため尽くす気持ちを常に失わずにいる人が、結局天より守られて後世に偉大な業績を残しているわけです。

「善因善果(ぜんいんぜんか)・悪因悪果(あくいんあっか)…良いことをやれば良い結果が生まれ悪いことをやれば悪い結果が生まれる」という禅語がありますが、その善い因とは一言で言えば正に此の「世のため人のため」であろうかと思います。

社会正義に照らし合わせて正しい事柄を常日頃からやっているかどうか、そして毎日を私利私欲でなく世のため人のために生きているかどうか--天が味方するか否か或いは良き運を得るか否かは、己の人生態度に尽きているのではないか、という気がします。

善因善果が良い出会・良い機会に結び付きますと、結果として成功するといったことにもなって行きます。誠実に一生懸命やっていれば御縁を得た人等々から色々な形でサポートを享受できる可能性も出てきて、そういう中で天の配剤が働いているが如き印象を得る部分はあるのかもしれません。

天が味方してくれているような気になるは大いに結構で、そうして継続して善行を施して行けば良いのです。

最後に本ブログの締めとして、松下幸之助さんの言葉を紹介しておきます。松下さんは松下電器産業を大正7年に創立されますが、昭和7年5月5日に真の使命を知ったとして、その日を「命知元年」と名付けられ、全従業員を集めて「所主告示」という次の一文を発表されました。

凡(およ)そ生産の目的は我等生活用品の必需品の充実を足らしめ、而(しこう)してその生活内容を改善拡充せしめることをもってその主眼とするものであり、私の念願もまたここに存するものであります。我等が松下電器産業はかかる使命の達成をもって究極の目的とし、今後一層これに対して渾身(こんしん)の力を揮(ふる)い、一路邁進(まいしん)せんことを期する次第であります。

ここには金儲けのことなど一言も書かれておらず、述べておられるのは正に世のため人のためという想いのみです。自ら私心・我欲を振り払い心の曇りを消しながら、世のため人のためを貫き通しその職責を果たして行く中で、はじめて天の御助けというのは起こってくるものではないか、と私は思っています。

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