自民最強の組織票に迫る山田太郎議員のネット票

2019年10月01日 06:00

9月21日、選挙ドットコム主催の「ネットで54万票獲得した山田太郎氏のネット選挙責任者が語る、人には言えない政治と選挙の裏の裏~新しい民主主義のカタチはネットが作りだす」は、国会議員・地方議会議員やその秘書達も参加し、満員の盛況だった。

54万票の重み

山田氏は全国比例区で自民党第2位の得票だったが、トップは全国郵便局長会推薦の柘植芳文氏。全国郵便局長会の候補は前回2016年の参院選でも全国比例区トップの52万票を集めた。山田氏はこれを上回る53万票を目標にしたが、今回、柘植氏が60万票獲得したため、自民党トップ当選は果たせなかった。しかし、目標を上回る54万票を獲得、ネット票が自民最強の組織票に並ぶ票田となった。

この数字は自民党第3位の和田政宗氏の29万票を大幅に上回り、組織票に限れば、下表のとおり、全国郵便局長会につぐ日本建設業連合会候補の23万票や全国農政連候補の22万票の倍以上。知名度の高い議員と比較しても、選挙後入閣した橋本聖子オリンピック・パラリンピック担当大臣の22万6千票、参議院議長に就任した山東昭子氏の13万票を圧倒する得票数だった。

団体 候補者 得票数 自民党内での順位
全国郵便局長会 柘植芳文 600,189 1位
日本建設業連合会 佐藤信秋 232,548 5位
全国農政連 山田俊男 217,619 7位
日本看護連盟 石田昌宏 189,898 10位
日本薬剤師連盟 本田顕子 159,596 12位
日本医師連盟 羽生田 俊 152,807 14位


山田氏のSNS活用術

講師をつとめた山田氏秘書の坂井崇俊氏は、本人が「山田太郎をよろしくお願いします」というより、周りの人が「山田太郎をよろしくお願いします」とお願いした方が効果的なので、周りの人の発信力がネット選挙の秘訣であると指摘した。

山田氏も「『私の戦闘力(得票)は53万です』ネット選挙で当選を果たした山田太郎参議院議員の選挙戦略に迫る(山田太郎氏インタビュー前編)」で、「事務所の実働スタッフは5人ぐらい、特にネット担当は2人だけだが、その先にいる会ったこともない280人のボランティアの方々がネットで組織的に動いてくれた」と指摘。

われわれも商品やサービスを購入する際、広告よりもユーザーの評価を重視するので、当然といえば当然だが、筆者はそれを実感した。山田氏は2016年の前回参院選で落選したとはいえ29万票集めた。その選挙活動を「フェアユースは経済を救う~デジタル覇権戦争に負けない著作権法」(以下、「拙著」)で紹介した。

このため、今回は秋葉原の選挙事務所を2度訪問した。写真は事務所開設直後のもので、バックの53は目標とした53万票。選挙日2日前に期日前投票の報告に訪れた時は壁一面に応援メッセージが貼られていた。

その写真をツイートしたところ、いつもは1桁の「いいね」や「リツイート」が一挙に3桁に跳ね上がった。280人のボランティアが筆者のツイートに「いいね」や「リツイート」をしてくれたのである。

日本におけるロビーイング2.0のさきがけ

拙著では山田氏を日本におけるロビーイング2.0のさきがけと紹介した。ロビーイング1.0の時代には組織化された利益集団がロビー活動を通じて政治家を動かしていたが、組織化されていない一般市民がネットを通じて政治家を動かすのがロビーイング2.0。ネットをフル活用してオタク層を巻き込み選挙活動を変えたという意味で、日本におけるパイオニアであるとした。

アメリカでロビーイング2.0という言葉が生まれたのは、2012年の著作権強化法案がきっかけだった。ロビーイング1.0の主役でもあったハリウッドは、巨額のロビー活動費を使って著作権強化法案を成立寸前まで漕ぎ着けたが、ネット市民から多くの反対の声を受けた議員たちが一転して反対に回ったため、法案は葬り去られた。この現象をニューヨークタイムズがロビーイング2.0とよんだ。

静止画ダウンロード違法化法案見送りにみるロビーイング2.0

ネットユーザーの声が政治家を動かす事例は最近、日本でも起きた。米国同様、著作権強化法案に対してだった。今年2月、文化庁は「漫画村」に代表される海賊版サイト対策として、違法であると知りながらダウンロード(以下、“DL”)する行為も禁止する著作権法改正案を策定した。すでに違法化されている音楽・動画のDLを静止画にも拡大しようとする内容だった(城所「『違法DL範囲拡大反対』の声を国会議員に届けよう」参照)。

漫画だけでなく写真や文書などネット上の著作物を広く対象にする内容だった。スマホやパソコンの画像をメモ代わりに保存するスクリーンショットなど、われわれが日常行っている行為も、侵害コンテンツが含まれていると違法にしかねない改正案に対して、ネット上でも反発が起きた。

著作権法の権威である中山信弘東大名誉教授ら法学者も「DL違法化の対象範囲の見直し」に関係する緊急声明を発表(筆者も賛同者に加わった)、その後、文化庁が自民党に改正案を説明した時の配布資料の検証レポートも発表した。3月5日付、朝日新聞が「文化庁の説明『不正確』 賛成意見は水増し、慎重意見は省略?」という見出しで報じたレポートだった(城所「違法DLの範囲拡大:自民党が文化庁案を見直し」参照)。

海賊版の被害者でもある日本漫画家協会も「DL違法化の対象範囲見直し」に関する声明を発表。その他の諸団体からも対象範囲の見直しを求める意見が相次いだ。超党派の国会議員で構成するMANGA議員連盟会長の古屋圭司衆議院議員(自民党)は、「『このままではインターネット上で大変なことになるぞ』と周囲につぶやいた。予言は的中した。…党内の議論が報じ始めると、…ネットやSNSでも『やり過ぎだ』と反対意見が拡散した」(3月20日付読売新聞)。

文化庁がミスリーディングな配布資料で説明したとはいえ、改正案を了承した自民党知的財産調査会長の甘利昭衆議院議員らは、「漫画家協会関係者を呼んで意見を聞くなどして事態の収拾を図ったが、野火のごとく広がったネット世論の消火は手遅れだった」(同上)。

古屋議員は安倍総理に電話で直談判。その模様を3月8日付産経新聞は以下のように報じた。

古屋氏「DL規制拡大は投網で小魚も一網打尽にする危険性があります」
首相「漫画家を保護するための法律のはずなのに、別の意図を持った法律になっているじゃないか」
首相は即座にDL規制拡大の項目削除を指示した。

こうして、DL規制拡大法案の2019年通常国会での提案は見送られた。米国の7年遅れとはいえ、日本にもようやくネット市民の声が直接、政治家を動かすロビーイング2.0の時代が到来した。

城所 岩生 国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)客員教授。米国弁護士。

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国際大学GLOCOM客員教授、米国弁護士(ニューヨーク州・首都ワシントン)

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