ラグビーW杯秘話:私たちは東京開催のピンチをこう乗り切った

川松 真一朗

東京都議会議員の川松真一朗(墨田区選出・都議会自民党最年少)です。

新しい日本ラグビーの時代へ

いよいよラグビーワールドカップが開幕しました。

しかも日本代表が世界最高峰のアイルランドに勝つなんて夢にも思っていませんでした。

開会式を会場である東京スタジアムのスタンドが見つめて、ここまでの長い道のりを振り返り、さすがにウルっとしてしまいました。開幕カードとなった日本代表の試合はロシアに勝利。大会の成功に向けて素晴らしいスタートを切ったと思います。

日本代表もグループリーグ突破に向けて試練の日々が続いていきます。みんなで応援していきましょう!!

さて、これは約1年前に私がここで記していたエントリーです。

2019ラグビーワールドカップ開催への努力の軌跡

日本大会を文字通り死守してきた

実際に、招致を勝ち取っても、宗主国からの日本に対する目は厳しかったのです。

「会場が整備されてないじゃないか」
「アジアにラグビーが出来るのか」
「開催国なのに日本は弱いじゃないか」
「総理大臣が1年ごとに変わるから信用できない国」

…などなどのアンチ日本の風を森会長が全面に受けて守り切った大会であると言えますし、私は末端のラグビー人ながら、その森会長のご苦労を見てきました。

私自身は2013年に都議会議員になり、それまでのラグビー界に生息する一アナウンサーから立場を変えて役割が大きく変わりました。私自身はラグビーワールドカップの熱狂をよく知っていますから、この大会の重要性を行政や政治家に伝え歩く使命を感じ、努力をしてきたのです。

その中で、超党派のラグビー成功議員連盟を立ち上げることに成功しました。立ち上げ当時は、開幕・決勝など主要カードは全て「新国立競技場(ザハ案)」でやることになっていましたので、開催自治体の先頭に立つべく都議会での機運醸成を狙ったものでした。

最大の山を乗り越えて

ところが、この大会開催に向けて議員連盟が大きく貢献することが出来たヤマ場を4年前に迎えることになります。それは建設費の高騰から、新国立競技場計画がゼロになった為、2019年9月に完成出来ないことが判明したのです。

この大会の大きさを知っていますから、首都東京でカードが無いことはある意味で「日本大会」の恥になってしまう。と言っても、新国立規模のスタジアムがないわけです。これが2015年7月の話です。ただ、予定ではイングランド大会中に開かれるワールドラグビー(世界ラグビー協会)の理事会で、開幕日と会場が決定する流れになっており、2か月間の戦いが始まりました。

当時の舛添知事や副知事たちもラグビーワールドカップの盛り上がりには懐疑的でした。議連会長である内田茂さん、都議会議長(当時)の高島直樹議員らと東京都執行部との水面下の協議を繰り返します。実際に、東京が手を挙げる場合は東京スタジアムの1択しかありません。

会場周辺の整備も含めて、どれくらい費用がかかるかなどの計算を積み重ねました。夏休み期間には菅平高原や軽井沢にいて、東京都の担当者や組織員会のとの電話のやり取りが続いたのを鮮明に覚えています。高島議長と私と秋山副知事とで調整を続けていたのでした。

最終的に、東京都が東京スタジアムで再度立候補を決断。議連が視察滞在していたロンドンでIRB理事会が開かれて「2019年9月20日」に東京で開催されることが正式に決まったのでした。

(この舛添文書が出るまでには数々の苦労があったのです。)

それから、このムーブメントを広げるべく私は各開催都市にお願いをして議員連盟設立や機運醸成イベントの働きかけをしてきました。15年大会後に、東京スタジアムで開かれた「日本vsスコットランド」の天覧試合に合わせて、開催自治体が集結。みなで19年大会の成功を誓ったこともありました。

ただ私達の課題は山積していました。

例えば、東京スタジアムの照明問題です。この大会の運営側は明るさを求めます。20年大会でも使用するスタジアムですから国際映像に耐えられるのであれば、ある程度の照明で良いと私達は考えていましたが、ワールドラグビーが求める明るさ基準はオリンピックで想定したものを上回るレベルでした。

当然、その分の整備費用はかかってしまうわけですから費用を抑える方法を模索しながら照明設備の対策に取り組んできたのです。あくまで東京スタジアムは都立施設でありますから、都が主体的に動かなければなりません。

芝についてもドラマがあった

それと、苦労とした点は「芝」です。是非、ラグビーのテレビ中継を見ながら芝のコンディションも確認して頂きたく思います。そもそも、東京スタジアムはリーグのホームグラウンドの一つであり熟練した技術を持つグラウンドキーパーが常にベストコンディションを維持しています。天然芝のピッチで常にハイパフォーマンスが出来ているのはそういった皆さんのおかげであると常日頃から考えています。

ただ、この「天然芝」にも課題がありました。それは、東京スタジアムでは連日のゲームが組まれており、本当に全試合ベストコンディションで選手達に芝が提供できるのだろうかという課題にぶち当たったのです。

当然、スタジアム側はグラウンドキーパーが常にケアをすれば全試合乗り切れるという基本姿勢でしたが、「雨が降ったら」「もしスクラムが同じ場所で連続に行われたら」などの不安要素は残ります。その上で、東京スタジアム施設内の一部を使って耐久テストを繰り返したのですが、最終的には東京スタジアムの「天然芝」案を承認するには至りませんでした。

そこで、浮上したのがハイブリッド芝です。これは実際にヨーロッパでは普及していますが、日本では馴染みのないもので私達もイングランド大会の頃から研究を重ねてきました。

簡単に言えば、天然芝と人工芝を組み合わせたものですが、目的は天然芝の根を一緒にセットする樹脂に絡ませることによって、耐久性が強くなります。完全人工芝と異なり、実際に天然芝が生えていますから見栄えも美しくなっています。このグラウンド整備への予算措置にも苦労したものでした。

他にも、どう見ても8万人規模の新国立と、5万強の東京スタジアムでは観客人数に大きな差があります。当時、私達はスタンドの配置を変えて席を増やせないだろうか?もしくは増築して席を増やせないか。時には、ピッチレベルを掘り下げて客席を増やせないか?などを検討しました。高さ制限や費用対効果などの観点から増席プランは現実的ではないということになったのでした。

また映像設備や、電光掲示板の整備など、大会10年前の2009年に開催が決まってから4年前の15年に急遽会場として浮上した「東京スタジアム」が主要会場になるまでには色々な苦労があったのです。

一部報道ではWi-fi環境が悪いなどの指摘もありますが、これも整備はされており周知の不足だったのではないかと都側にも広報強化を連休明けに伝えています。このWi-fiも正に昨年末に私が花園ラグビー場をウロウロしている頃に、組織委員会の嶋津事務総長から「何とかして欲しい」と電話を頂き、元々からその必要性を感じて動いてはいたのですが、更に加速した動きにしました。

感極まる開幕セレモニー

そんな苦労の4年間を経ての開会式・開幕戦に感無量で。何とも言えぬ感動を覚えた9月20日のだったのです。

22日には札幌ドームでのゲームも観戦。こちらも都議会文教委員会として札幌市での視察を約1年前に行っていました。たまたま、帰りの23日に新千歳空港で森喜朗会長とご一緒になりました。思わず、私は「本当におめでとうございます。そして本当に有難うございました」と素直に述べました。

そして、「開幕して日本中が大盛り上がりですけど、ここまでの苦労の連続をほとんどの方は知らないですけどね」と会長に本音を漏らしてしまいました。森会長は「そうだよな。よく頑張ってくれた。有難う」と言われ、またウルっときてしまいました。

本稿は森会長は「黙して語らず」ですが、近くにいることが出来た1人として、やはり多くの方に大会開催への一片を知って頂きたいという勝手な思いから筆を走らせているものです。まだ40日近くある大会中に私の思いを細々とながら記していきたいと思います。

そして、ラグビーフットボールという競技を一人でも多くの方に広げ、新しい日本におけるラグビー文化を確立することに貢献出来れば幸いです。

川松 真一朗  東京都議会議員(墨田区選出、自由民主党)
1980年生まれ。墨田区立両国小中、都立両国高、日本大学を経てテレビ朝日にアナウンサーとして入社。スポーツ番組等を担当。2011年、テレビ朝日を退社し、2013年都議選で初当選(現在2期目)。オフィシャルサイトTwitter「@kawamatsushin16」