建国70周年:中国の超軍事大国化を、50年前に喝破していた大宅壮一

加藤 成一

中国側「九段線」の主張を否定したハーグ常設仲裁裁判所

中国が主張している“九段線”(緑色、Wikipediaより)

きょう10月1日、中華人民共和国が建国70周年を迎えるが、今も決して忘れてはならないのが、3年前の2016年7月オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の判決だ。

フィリピンと中国との南シナ海における領土主権や海洋権益をめぐる紛争に関し、中国側の主張や行動は国際海洋法条約違反であるとして、フィリピンが求めた仲裁手続きについて、南シナ海のほぼ全域につき中国側が独自に設定した「九段線」の主張を全面的に否定する裁定を下した。

その理由の骨子は、中国側主張の「九段線」内の海域や資源を中国が歴史上排他的に支配してきた事実を認める証拠はない、というものである。

裁定を「紙切れ」同然に完全無視し人工島・軍事基地建設強行

この裁定に対し、中国側は南シナ海のほぼ全域について2000年以上前から「歴史的権利」として「九段線」が存在してきたとあくまでも主張し、裁定は「紙切れ」に過ぎず、すべて無効で拘束力はないと完全に無視して、南シナ海での一方的な人工島・軍事基地建設を強行した。これに対し、フィリピン側は強く反発し、現在も両国間で紛争が続いている。

中国には国連安保理常任理事国の資格はない

しかし、軍事力を背景として、自国に有利な裁定は尊重し、自国に不利な裁定は一切拒否する中国の目に余る傍若無人な行動は、国際社会における「法の支配」の破壊であり、国際法秩序に対する重大な挑戦以外の何物でもない。

このような国際法無視の傍若無人な振る舞いをする中国は、「法の支配」「国際法の順守」を基調とする国連の安保理常任理事国として相応しくなく、その資格もないことは明らかである。

人民解放軍公式サイトより

「力の支配」は毛沢東以来の中国の本質

このように、「法の支配」を認めず、南シナ海や東シナ海で力による現状変更を企てる中国の「力の支配」は、何も今に始まったことではなく、1949年の中華人民共和国建国以来のこの国の「本質」である。

すなわち、1949年の中国人民解放軍による新疆ウイグル侵略、1950年のチベット侵略、1958年の台湾・金門島に対する47万発砲撃、1959年の中印国境紛争、1979年の中越戦争など、中国の軍事力による「力の支配」の事例は枚挙に暇がない。

その根底には、中華人民共和国の「建国の父」とされる毛沢東による、「共産党員の一人一人が鉄砲から政権が生まれるという真理を理解すべきだ。鉄砲からすべてのものが生まれる。世界全体を改造するには鉄砲による他はない。」(注1)との軍事力万能主義の「毛沢東思想」がある。これは、国際紛争の平和的解決を加盟国に求め宣言した国連憲章1条・2条に明らかに違反する極めて危険な思想である。

中国の「超軍事大国化」を50年前に喝破した「大宅壮一」

大宅壮一(大宅壮一文庫サイトより)

評論家大宅壮一氏(1900年~1970年)は、1966年に中国視察団(「大宅考察組」)の団長として、大森実、三鬼陽之助、藤原弘達、梶山季之氏らと26日間中国各地を視察し指導者らとも会談した。

その結果、同氏は、「中国から学ぶべきものは沢山あるけれども、やはり、日本人としては、国の性格や目的が違うんだということを腹に据えて、この国を見なくちゃいかん。特に、一番危険なこの国の基本的な性格というものは、頼るべきは力のみ、武力のみという考え方であり、それが隅々まで浸透しているということだね。やたらにこの国に感心して帰ることは非常に危険だな。」(注2)と警告した。同氏は軍事力万能主義の「毛沢東思想」の危険性を認識していたと考えられる。

さらに、同氏は、「文化大革命は中国製空想マルクス主義でありジャリ(紅衛兵)革命であるが、将来、中国は超軍事大国になる可能性がある」(注3)と警告した。50年後の現在その通りの現実になった。大宅壮一氏は今から50年も前に、すでに、中国の「力の支配」の本質と将来の「超軍事大国化」を見抜いていたのであり、その観察力、洞察力には驚嘆するほかない。

台頭する中国に対する日本の対応

今や、台頭する中国と貿易戦争にまで発展し、中国による軍事的経済的覇権を恐れる米国や、尖閣諸島の奪取を恐れる日本としては、中国の「力の支配」の本質と「超軍事大国化」を、今から50年も前に喝破した大宅壮一氏のように、もっと早く見抜き、中国に対しては、外交・安全保障・軍事・先端技術窃取・技術移転強要・国有企業への多額の補助金給付による不公正貿易の問題、等の様々な面において、WTO(世界貿易機関)への断固とした法的措置を含め、厳正に対応しておくべきであったと今更ながら悔やまれよう。

しかし、科学技術の進歩発展は日進月歩であるから、これからでも決して遅くはない。日本は上記の多くの面において同盟国米国と利益を共有しているから、中国に対しては米国と協調して対応すべきである。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。

(注1) 毛沢東著「戦争と戦略の問題」毛沢東選集2巻274頁~275頁1966年新日本出版社刊。
(注2) 猪木正道著「歴史・人物・決断」猪木正道著作集4巻506頁~507頁1985年力富書房刊。
(注3) 1966年9月26日付け読売新聞夕刊。