北朝鮮がSLBM発射に踏み切った理由

2019年10月03日 06:01

韓国合同参謀本部の発表によると、2日朝7時10分ごろに北朝鮮東部から日本海へ向けて発射された飛翔体は、北朝鮮が開発中の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM) であったとのことである。これが事実だとすれば、北朝鮮は最近の一連の短距離弾道ミサイル発射に続いて。準中距離弾道ミサイルのSLBMを(試験)発射することによって、一段階エスカレーション・ラダー(軍事的緊張状態)を上げたことになる。

9月の「超大型放射砲」射撃訓練を指導する金正恩氏(朝鮮中央通信より引用)

これが、第1回目の米朝首脳会談でトランプ大統領に伝えた「米国との協議が続いているうちは、核実験や弾道ミサイルの発射は行わない」という約束を破ったことになるのかどうか。それは、トランプ大統領の胸三寸である。それにしても、なぜこのタイミングで金正恩はSLBMの発射に踏み切ったのであろうか。

今回の発射に影響を及ぼした要素として、考えられる最近の事象には次のようなものがある。

  1. トランプ大統領が北朝鮮の度重なる短距離弾道ミサイルの発射を容認していること
  2. 韓国の文在寅大統領が日韓情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を表明したこと
  3. 9月10日に強硬派のボルトン米大統領補佐官が解任されたこと
  4. 9月14日にサウジアラビアの石油施設が攻撃されたことに対して、米国はイランが関与したと断定しながらも、イランなどに対して軍事的報復を実施しなかったこと
  5. 10月1日に中国が建国70周年の記念行事に合わせて、過去最大規模の軍事パレードを挙行し、米国に対して軍事的圧力を加えたこと
  6. 10月5日にしばらく途絶えていた米朝の実務協議を開催することで、米朝が合意したと北朝鮮側が発表したこと

金正恩委員長は、米国が(ボルトン大統領補佐官在任中の)強硬路線から一歩引いた外交路線を進めている今の時機ならば、米国への直接的な脅威となる核実験や長距離弾道ミサイル(BCMB)の発射を行わない限り、トランプ大統領が北朝鮮との協議を打ち切ることはないだろうと判断してこのSLBMの発射試験を強行したのであろう。

そして、この目的としては、協議が中断する間に着々と推進してきたSLBMの開発成果を(協議再開前の段階で)実地に検証することのほか、(米朝協議の再開にあたり)非核化協議が進展しなければ(北朝鮮による)戦略兵器の保有が着実に前進するということを内外に示すことにあったものと考えられる。

今回の韓国合同参謀本部の発表によると、発射されたミサイルの最高高度は約910km、飛翔距離は450kmとされているが、これは、極端なロフト軌道で発射されたものと思われ、最適角度で発射されれば2000km程度にまで到達すると見られる。これは、この北極星1号(米国などはKN-11と呼称)と見られるミサイルの最大射程距離と考えられることから、今回の発射は予定通りの軌道を飛翔したものと推測される。

ミサイルの飛行ルート(KBSニュースより引用)

今回のミサイルが、実際に潜水艦から発射されたものだとすれば、①潜水艦の発射管から水上へミサイルを射出し、②射出後にロケット・エンジンを点火させ、③そのまま姿勢を制御させてミサイルを軌道に乗せる。という一連のコールドローンチ・システムの高度な技術を北朝鮮が習得したことになる。

さらに、今回この飛翔体が2つに分離したというわが国政府の見解から、ミサイル弾頭部の切り離しまで成功させた可能性が高い。これは、今までの北朝鮮のSLBMに関する開発試験の期間や発射試験の回数などから考えると、驚異的な技術の進捗状況だと言わねばならない。

但し、実際にこのSLBMを配備するにあたっては、北朝鮮が経験したことのない大型潜水艦の運用や外洋での活動など、まだまだ技術的な面や運用面で乗り越えなければならないハードルが多々あり、これにはそれなりの知識や技術の習得や訓練に要する期間が必要であると考えられる。米国はこれらも考慮したうえで、今後の対応を見極めることになろう。

おそらく、3日にも北朝鮮は「金正恩委員長の見守る中、SLBMの発射試験が偉大な成功を収めた」とビデオ映像などを取り混ぜて喧伝するであろう。まずは、この北朝鮮の報道と、これに対するトランプ大統領を始めとする米国の対応に注目したい。

鈴木 衛士(すずき えいじ)
1960年京都府京都市生まれ。83年に大学を卒業後、陸上自衛隊に2等陸士として入隊する。2年後に離隊するも85年に幹部候補生として航空自衛隊に再入隊。3等空尉に任官後は約30年にわたり情報幹部として航空自衛隊の各部隊や防衛省航空幕僚監部、防衛省情報本部などで勤務。防衛のみならず大規模災害や国際平和協力活動等に関わる情報の収集や分析にあたる。北朝鮮の弾道ミサイル発射事案や東日本大震災、自衛隊のイラク派遣など数々の重大事案において第一線で活躍。2015年に空将補で退官。著書に『北朝鮮は「悪」じゃない』(幻冬舎ルネッサンス)。

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