祝 ノーベル化学賞受賞:世の中の便利に日本人あり

中田 宏

新聞各社も一面に掲載し、テレビでは連日報道されていました、旭化成名誉フェローの吉野彰氏のノーベル科学賞受賞が決まりました。
おめでとうございます。

近年はこの時期になると毎年のように日本人のノーベル賞受賞の話題が出ますけれども、というのも2000年代に入ってから明らかに日本人の受賞が続いています。吉野さんの受賞まで、2000年以降では合計18人ということでほぼ毎年1人受賞していることになります。そして、吉野さんの受賞で日本人のノーベル賞受賞者は27人目となります。
※2017年のカズオ・イシグロ氏(英国籍)は除く

さて、吉野さんのインタビューの中で、「非常に名誉ある賞をいただいた。特に感じているのは、私はインダストリー(産業)の人間で、産業人として賞をいただいたことを、ぜひ強調したい。」という言葉がありました。今回のノーベル科学賞やノーベル物理学賞に繋がるような、いわゆる基礎研究は大学などの教育機関、公・民間などの研究機関そして企業すなわち産業分野における研究機関で行われています。吉野さんの受賞は、企業人としては2002年の島津製作所の田中耕一さん以来ということです。

かつては、電気メーカーや繊維メーカーなどが研究開発をして製品化、そしてそれを販売するという循環が日本の発展を支えてきたわけですけれども、今や家電メーカーの規模もどんどんどんどん小さくなってきましたし、会社も少なくなってきました。また吉野さんの所属する旭化成は大手総合化学メーカーで、かつては繊維主流だったのが、今は素材主流のメーカーとしての色を濃くしています。
バブル崩壊後の不況においては、コスト削減という観点から研究開発費が削減されてきました。また株主への配当重視など、いわゆる目先の利益を確保するということが重視されたことも、基礎研究費が削られてきた背景にあります。

「すぐに儲けに繋がりませんが、将来の大発明のために研究する」ということが年々減ってきたことに対して、吉野さんはこう言っています。

「基礎研究は10個に1個当たればいい。無駄なことをいっぱいしないと新しいことは生まれてこない。自分の好奇心に基づき、何に使えるかは別にして、新しい現象を一生懸命見つけることが必要です。もう1つは逆で、本当に役に立つ研究。これを実現するためにこういう研究をやらないといけないという。企業でも大学でも同じだ。この2つがきれいに両輪として動いていくのが理想的な姿だ」

要するに単なるコスト論ではなく、「知的好奇心を探求していく場が必要」としつつ、一方「何かを実現するということのための研究」、この両方が必要だと言っているんですね

昨日のインタビューでは、「地球環境問題などでチャンスはいっぱいある」というふうに若い人たちにエールを送っていましたけれども、ぜひ若い人たちに、人類社会の課題解決のための知的好奇心を高める研究に進んでもらいたいものです。


編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2019年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。