人生100年時代を生き抜く経営の極意?“常若”という考え方

皇大神宮(Wikpediaより引用)

現在、日本の経営指南本は、アメリカから輸入したマネジメント論を縦書きにしたものが大半。しかし、文化も風土も社会情勢も異なるアメリカの理論が、いくら日本風にアレンジされていたとしても、日本でのビジネスにジャストフィットするとは限らない。

今回は、「常若マネジメント-日本人の日本人による日本人のための経営思想」(みらいパブリッシング)を紹介したい。著者は弁護士の北村真一さん。本書は、弁護士であり、経営者である著者が、企業の浮き沈みを目の当たりにしてきた経験から、組織論・マーケティング論・キャリア論を横断的に論じた日本人のための経営指南書である。

企業における戦略とはなにか

会社経営における戦略とは、自社が進むべき方向を策定する重要な指針として考えられている。戦略は極めて広範囲な理論でもあり経営戦略、事業戦略、機能戦略を定義し、それぞれの役割と機能を明確化すべきとされている。しかし、時代によって解釈が異なることから、戦略の意味を根本的に取り違えている専門家も少なくない。

簡単に戦略の系譜をまとめる。「戦略」を、一般的にしたのがクラウゼヴィッツの「戦争論」になる。その後、戦略論は深化し、1962年チャンドラーの「構造は戦略に従う」に影響された会社が「事業部制組織」に転換する。同時期に、アンドフが相反する「事業拡大マトリクス」を提唱し、この頃から戦略に注目が集まるようになる。

80年代、ポーターによって「競争の戦略」が提唱される。米国を中心に瞬く間にベストセラーとなり、MBAコースでは定番となる。一方、日本では、組織行動をベースにしたコア・コンピタンスや、経営資源を活用することに主眼が置かれていた、リソース・ベースト・ビュー(Resource-Based View)が主流であった。

戦略論を重視している経営者ほど、新しい理論に振り回される。理論で会社がよくなるわけがないのだが。担当者は多大な時間とコストをかけて最先端のミッション・ビジョンを策定する。しかし、社員の腹に落ちなければまったく意味が無いことを理解しない。

会社の目的とはなにか

会社における事業の最大の目的は?と聞かれれば、「利益の追求」と多くの経営者は答える。筆者は、「利益は会社の目的ではない」と考える。事業における効果や手順ではなく、有効であるかの適切性、つまりは妥当性であると考えている。妥当性があれば利益が上がり、妥当性がなければ利益が下がる。この妥当性とは社会からの評価である。

社員のなかで「会社の利益のために仕事をしている」と明確に答える人はどの程度いるのか。おそらく、「顧客のため」「社会のため」「家族のため」「自分のため」と答えるだろう。「利益を追求すること」が目的となれば批判は避けられなくなる。

「株主を幸せにする」という言葉がある。「会社は誰のものか」という議論では「株主のもの」という考えが支配的で、目的も「顧客満足」とか「株主価値の最大化」など当然のようにいわれている。しかし本当か?株主の幸せは目的ではなく結果ではないのか。

IT技術の急速な発達、AIの進化、遺伝子工学の発展など、変化のスピードが急速に速くなっている現代。大変革の時代を生き抜くためには、常に新しくあり続ける伊勢神宮の「常若」の精神が必要である。伊勢神宮の内宮は、20年ごとに建て替えをすることで1300年以上前からの生命を守り続けている。古くて新しい”常若”思想が日本的経営を救う?

[本書の評価]★★★★(80点)
評価のレべリング】※標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★  「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★   「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★    「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
星無し  「レベル0!読むに値しない本」50点未満
2019年に紹介した書籍一覧

尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※14冊目の著書『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)を出版しました。