アルゼンチンにIMFの54億ドル融資遅れ 〜 トランプ政権圧力報道も

2019年10月21日 06:00

2018年にアルゼンチンに対しIMFから570億ドル(6兆2700億円)の融資枠が決められたが、その枠内の54億ドル(5940億円)の融資が現在遅れている。マクリ大統領はそれを9月15日までに受け取れるものと期待していた。(参照:elmundo.es

なぜその実行が遅れているのか?結論から先に言おう。8月の大統領予備選でマクリ大統領が直接の対立候補となると予測されているアルベルト・フェルナンデス候補の前に大敗を喫した。ということで、マクリの再選はほぼ不可能と米国トランプ政権が見做しているからである。

昨年G20で会談したマクリ氏とトランプ氏(White House/flikcr)

そこで、トランプ政権は次期大統領になるであろうフェルナンデス候補を牽制する意味で、この54億ドルの融資はフェルナンデスが新大統領になった時点で米国政府を政治的に納得させること。それで米国政府はその融資をIMFに実行させると決めたからである。

元々、経済的に問題を抱えているアルゼンチンに多額の融資を比較的容易にIMFが決定したこと事態が異例であった。そこには米国政権のIMFへの圧力がかかっていたからである。

アルゼンチンはマクリが登場するまでクリスチーナ・フェルナンデス前大統領は米国を無視してベネズエラのチャベス前大統領の反米主義に呼応してロシア、中国、イランといった国々と関係を強化していた。彼女は大統領就任中に一度も米国を訪問したことがなかった。その一方で中国やロシアには数度訪問。

マクリが登場して欧米を軸とする外交にシフトしたのを好機を見なした米国はオバマ前大統領がアルゼンチンを訪問した。それを踏襲したのがトランプ大統領である。トランプとマクリはお互い大統領になる以前は不動産業界で双方は関係を持ったこともあったという仲でもあった。

そこでIMFにマクリが支援を要請した時にトランプはIMFに圧力をかけてアルゼンチンの財務事情などは大目に見て特別優遇をするように要求したのであった。それをアルゼンチン代表紙『El Clarín』(9月26日付)の中でジャーナリストのマルセロ・ボネリが明らかにしている。

ところが、大統領予備選でマクリが大敗を喫したことから、トランプ政権は次期大統領はフェルナンデスだと見做して方向転換。54億ドルの融資を望むのであればフェルナンデスが大統領になった時点でトランプ政権を納得させることを条件にしたというわけだ。それがIMFに伝えられて、IMFはその融資の実行を現在遅られているということなのである。

特に、米国政府とIMFが懸念しているのは副大統領にクリスチーナ・フェルナンデス前大統領が就任するということにある。彼女は大統領だった時は米国とは疎遠な関係を保ち、IMFとも常に対立する姿勢を表明していたからである。

現在この融資の遅れを解消させるように見せかけてアルゼンチンのラクンサ財務相がIMFの専務理事にクリスタリナ・ゲオルギエワが就任してワシントンを訪れ早々に会見をした。就任したばかりの彼女には力はなく、具体的に融資の実行日を示すことは出来ず同財務相に待つようにと伝えることが精一杯の回答であった。

ラクンサ財務相のゲオルギエワ新専務理事との会見での成果はないというのは事前に判明していたことで、メディアの前に政府が融資の早急解決に努力していること見せる為のジェスチャーであった。

上述紙の中でマルセロ・ボネリはIMFとアルゼンチン大統領官邸の間では秘密の合意が交わされていると指摘している。それによると、大統領官邸では大統領選挙が実施された後までIMFからの融資の実行はないということを承知なのである。即ち、マクリ大統領はそれを内心知っているということなのだ。IMF側においてアルゼンチン政府への信頼は完全に失墜しているということ。9月の時点でもこの1年間のインフレは63%にも達している。インフレは更に上昇する可能性がある。このような事情を抱えたアルゼンチンが規定の条件を満たして融資の返済ができる状態にはないということなのだ。(参照:kontrainfo.com

この合意内容を敢えて表面化させたのがデビッド・リプトン副専務理事で素っ気なく「アルゼンチンは待たねばならない」とブルームバーグ・ラジオのインタビューの中で表明したのであった。そのような表現になったのも、IMFの中でアルゼンチン政府に対して強い不審を抱いてこの融資を廃止すべきだと主張している役員を鎮めるためであったようだ。(参照:elmundo.es

一方のラクンサ財務相は大統領選挙での影響を懸念してフェルナンデス候補の経済政策担当のギリェルモ・ニルセンにこの融資について合意するように説得に努めた。ニルセンはフェルナンデス候補と相談して唯一ラクンサと合意したのはフェルナンデス候補からこの件に対しての意見の披露を控えるということであった。フェルナンデス候補は内心IMFと合意している内容について同意しておらず、大統領になった時点で新たにIMFと交渉し直すという姿勢を見せている。

その背景には元々アルゼンチンの国民はフェルナンド・デ・ラ・ルア大統領(1999-2001)の政権時に経済危機に陥ってIMFからの支援を仰いだ時に最初は融資したが、そのあと規定の条件を満たしていないとして融資を中断をしたという経緯があった。国民は預金封鎖といった厳しい経験を背負わされたという事情からIMFに対して良い印象を持っていない。今回のマクリのIMFとの合意についても3分の2の国民はそれに当初から反対していた。(参照:lanacion.com.ar

それを承知しているフェルナンデス候補はIMFと再交渉することを表明しているのである。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家

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