がんの免疫療法にはCD4細胞も重要だ!

台風19号のため、メキシコシティで2日以上足止めを食らった後遺症が残っていて、体のだるさが取れない。ダメージが残っている中を、2週間で、草津(滋賀県)、福岡、松山、大阪と1泊2日の講演出張を4回もこなしたこともあり、体の芯に疲労が蓄積している。1時間の講演というのは結構体力の消耗をきたすものだと実感している。来週の木金曜は福岡に行き、これで死のロードはひと段落する。

そして、先週のNature誌にがんの免疫療法にはCD4細胞が重要だという論文が発表された。私は4年以上前から、シカゴ大学のHans Schreiber先生からその説やデータを耳にタコができるほど聞かされていたので驚きはしないが、論文を報告したのはシカゴ大学のSchreiber先生ではなくセントルイスのワシントン大学Bob Schreiber教授のグループだった。

論文はかなり生理的でない要素が多く、シカゴ大学のSchreiber先生のデータの方がより説得力があると思ったが、先を越されると内容が今一つでも、Natureに公表された事実が何よりも評価を受ける。このCD4細胞については、がん組織内の免疫環境を変化させてCD8の働きを強くする説やCD4細胞そのものが細胞傷害性を持っている可能性があるなど、謎は解けない。いずれにせよ、CD4細胞の重要性は伝わってきたが、がんが小さくなる機序が今一つ明らかでなかった印象だ。ここでは述べることができないのが残念だが、科学的にはHans先生のデータ方がしっかりしている。

しかし、福岡がん総合クリニックの森崎隆先生のデータを見る限り、CD8細胞を活性化するだけでも、ある程度の臨床効果が得られるように思う。もともと、がん組織、あるいは、体の中にあったCD4が補助的な役割を果たしているかどうかは、臨床効果があった時点でのCD4細胞の動きを追いかけていないので、われわれには評価は難しい。CD4細胞は抗体を作るB細胞を活性化するのに不可欠だが、CD8細胞を元気にする働きのある性質を持っているものも重要なので、今後の検討が必要だ。

シカゴ大学にいる時に、がん特異的抗原に反応するCD8細胞(リンパ球)を何種類も分離したが、がん細胞を非常によく殺すものと、そうでないものがあったので、その違いを探ろうとしたが、中途半端に終わってしまった。CD8細胞とCD4細胞の相互作用が関係するとは思う。今も、がん組織に存在する免疫細胞を調べる研究をしているが、複雑怪奇だ。

私が大学で学んだリンパ球はT細胞とB細胞だけで単純だったが、細胞表面の分子によって、どんどん細分化されてきた。CD8細胞はキラー細胞で、CD4細胞はペルパー細胞だといったようなシンプルな説明では通用しない。

ラグビーを見ていて、攻撃側と守備側の統率性が重要だと考えつつ、がん細胞をめぐる免疫系細胞の攻撃側・防御側の闘いを思い浮かべていた。がん細胞は攻撃側の免疫細胞を弱体化する手立てを次々に作り出してくる。がんをやっつけるには、攻撃側が体制整備をしなければならない。国の施策を見ていても、先見性のないセンターを中心に「がんを叩く研究計画」と称する研究者を甘やかす施策が続いている。「延命」でいいと思っているような甘い気持ちの人たちががんに勝てるはずがない。

「がんで死なさない」高い目標を掲げて、強いリーダーシップのもとに、南アフリカのような突進力で、がんを倒して欲しいとがん患者や家族は願っている。われわれもOne Teamで頑張ってがんを倒すしかない。東京オリンピックのOne Teamのように言葉だけでなく、真のOne Teamが必要だ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年11月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。