【特集】“安倍桜”散り際は見えたか?歴代最長2887日

2019年11月20日 06:01

安倍晋三首相が20日、通算での在任期間が2887日となり、戦前の桂太郎元首相を抜いて単独で憲政史上最長となった。2012年12月に再登板してから約7年。今年で創刊10周年を迎えた「アゴラ」にとっても、安倍首相は報道や論評の対象として相当に長期間、見つめてきたことになる。(アゴラ編集長  新田哲史)

官邸サイトより

心外なのは左派の人たちを中心に近年、アゴラを「安倍政権擁護メディア」と位置付ける人たちがいることだ。実際、主宰の池田信夫も、編集長の私も野党や朝日新聞に厳しい論考を書き、サイトに保守系の論客の寄稿もそれなりに掲載していることから「保守論壇」との区別がつかないのであろう。

アベノミクスの「偽薬」効果は?

ここで私の中で印象に残る論考を紹介したい。かつて池田は目玉政策のアベノミクスを次のように評したことがある。

アベノミクスという偽薬(2013年3月6日)

私が編集長になる2年半前、池田と面識も得る前の論考だが、「偽薬」というたとえが実に鮮烈だった。当時、民主党政権時代のデフレ不況からの脱却策としてリフレ政策への期待が、安倍シンパの人たちを中心にネット論壇で過熱していた。

写真AC、官邸サイト

しかし、空気を読まないのが池田信夫だ。アベノミクスについて「インフレを起こすことのできない偽薬だが、偽薬にも効果がある」とドライに評した上で日本経済の宿題を指摘した。

偽薬がきくのは、首相に求心力がある今のうちだ。安倍内閣の支持率は75%で上昇中という近来まれに見るいい条件なので、偽薬のききめがなくなる前にTPPや雇用規制の緩和などの「苦い薬」を飲ませる改革をしてほしい。

「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」…。いわゆるアベノミクス3本の矢。リフレ政策に異論がある人でも、3本目の成長戦略に期待する向きはあったが、上記論考から6年8か月。雇用規制緩和、ライドシェアは全面的な実現の目処がたたず、電波改革は一部進んだが、本丸の帯域整理は棚上げされたままだ。

政府の国家戦略特区ワーキンググループの原英史座長代理が、ここ最近の森ゆうこ騒動で孤軍奮闘するのに、政権与党がなにも手をさしのべないこと一つとっても、規制緩和の小手先感はぬぐえず、本気度を疑わざるを得ない。

経済への評価は低め、外交・安保は高め

他方、株価や雇用で成果を出したものの、肝心のインフレ目標を達成できなかった点はアゴラでは長年批判する論考が目立った。ただ近年、主流派経済学者のブランシャールが「長期金利が名目成長率より低いかぎり、財政赤字によって財政コストは発生しない」との説を新たに打ち出したことで、池田信夫の安倍政権の経済政策への評価は条件付きでやや柔軟になった。

安倍政権のバラマキ財政は成功した(2019年4月6日)

かつてはイメージのなかった経済政策を看板に掲げた二次政権だが、NHKの世論調査(11月8〜10日)で最も評価する実績に「経済政策」を挙げた人は4番手の11%に沈むなど、国民からは戦後最長だった景気の実感を得られず、厳しい評価を下されている。

NHKニュースより

ただし、外交・安全保障政策に一定の評価があるのも安倍首相の特徴だ。同じ調査で一番評価された実績は「外交・安全保障」(23%)だった。

サミットでは首脳たちの激論の調整役も(官邸Facebook)

規制緩和や原発では、摩擦を回避気味だった割に、2015年秋の安保法制成立による集団的自衛権容認は、戦後の防衛政策の一大転換。サミットでも古株の存在となって、各国首脳とそれなりに渡り合っているように見えているのだろう。

アゴラでも、池田信夫、八幡和郎氏らは一定の評価を与えてきたが、渡瀬裕哉氏は北朝鮮外交で存在感が欠けることに厳しい意見を示している。

ライバル不在で影を落とす数々の不祥事

12年前、参院選敗北まもない退陣もいまや昔日の光景。2012年衆院選で政権奪還後、国政選挙は6連勝中だ。ただし、野党が戦後最弱とも言われ、自民党内でも目立ったライバルは石破茂氏くらい。長期政権の理由のいちばんの理由は、時事通信の最新世論調査(11月8〜11日)でも最多で挙げられたように、「他に適当な人がいない」点は否めない。

参院選勝利で笑顔の安倍総裁(自民党Facebook)

もちろん、内閣人事局創設で霞が関の幹部人事を握ったことで、かつてない官邸への集権を実現するなど「仕組み化」の成功も大きかったが、強すぎる官邸の意向に役所側が忖度するようにもなり、森友・加計問題(モリカケ)の温床となった。特に森友学園問題では、昭恵夫人の不用意な言動がクローズアップ。国有地売却の決裁文書「書き換え」疑惑を巡って、財務省職員が自殺する事態に発展した。

振り返れば二次政権発足後、2年間は不祥事による閣僚交代はなかった。当初は3年3か月の野党時代の記憶が生々しく政権運営にも緊張感があった。しかし、政権基盤が盤石になるにつれ、おごりや油断が出てきたことは否定できまい。モリカケも政権中盤以後の出来事だった。

「桜を見る会」騒動を乗り切れるか…解散で反撃?

それでも2017年の衆院選は乗り切り、むかえた2019年。平成から令和への代替わり、参院選勝利と大仕事を乗り越え、このまま憲法改正論議の布石を打てるか注目された秋の臨時国会は突然の政局続きだ。改造した内閣は不祥事で2閣僚が連続して辞任。出鼻を挫かれた。

2019年4月の桜を見る会(官邸サイトより編集部引用)

そして今年4月の桜を見る会で招待客の参加者に首相の地元・山口県から多数の後援会関係者らが入っていることが共産党の調査で発覚。さらには桜を見る会の前夜祭をめぐって、会場のホテルニューオータニにしては「会費の5000円が安すぎる」であるとか、「前夜祭の収支を政治収支報告書に記載していないのでは」などと野党側が騒ぎ始めた。

これに対し、安倍首相は来年度の桜を見る会の中止を決定。記者たちのぶらさがり会見に3度も応じる異例の対応をし、「旅費、宿泊費等の全ての費用は参加者の自己負担」「参加者一人5,000円という会費については、大多数が当該ホテルの宿泊者という事情等を踏まえ、ホテル側が設定した価格」などと釈明した(参照:首相官邸サイト)。

桜を見る会の中止を発表(官邸サイトより)

共産党に乗っかった立憲民主党は、複数の議員が有名な高級寿司店が前夜祭の夕食会に食事を提供していたように発言したが、産経新聞の取材に寿司店側は否定。さらにはホテル側に見積書をわざわざ出させるなどして「実際に宴会をするわけではないのに営業妨害ではないか」との批判も噴出するなど、毎度のようなずさんな追及で、から騒ぎに終わるやに見えた。

しかし、検察官時代に政治資金規正法違反事件などを手掛けた郷原信郎弁護士がアゴラなどで追及してから、再び風向きが一変。郷原氏は「ニューオータニほどのホテルが、実際に金銭を受領していないのに「ホテル名義の領収書」を渡すことはあり得ない」などと主張(11月16日エントリー)。公選法(公職の候補者等の寄附の禁止)違反や、政治資金収支報告書への不記載ないし虚偽記入の疑いを指摘した。

記事は反響を呼び、参考にした野党やマスコミは再び攻勢に転換。日頃は慎重なNHKも19日夜にはニューオータニ以外の都内の有名ホテル5か所に取材した結果を報道。それによると、

「5つのホテルはいずれも原則として代金は主催者からまとめて支払いを受けます」と回答。

「領収書を出すのは経理の原則としてありえません」(ホテルオークラ)

などと説明があったといい、安倍首相の主張に疑義が生じはじめている。

今回の臨時国会は、きのう衆議院を通過した日米貿易協定の国会承認を求める議案のほか、成立を目指している憲法改正をめぐる国民投票法改正案など、重要な議題が目白押しだ。報道も一連のスキャンダルのほうに焦点が集まり、野党側も倒閣運動ばかりで政策論議の熱が盛り上がっていない。

安倍首相の憲政史上最長の在任記録達成を祝うムードは微塵もなく、どこまで“桜”を咲き続けられるか試練に直面している。野党側の選挙体制の遅れを見越し、安倍首相が年明けにも究極の反撃策として解散総選挙に打って出るという説も浮上しているが、はたしてこのあとの展開はどうなるか。アゴラでも引き続きウォッチし、さまざまな論考を掲載していく。

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