日本の技術で、新興国の中央銀行デジタル通貨が実用化

2019年11月25日 06:01

先週、日本のソラミツという会社がプレスリリースで、カンボジア中央銀行と協力して、ブロックチェーン技術を使ったバコンというデジタル通貨の正式導入に向けたテスト運用を開始していることを明らかにした。

ソラミツ社HPより

世界では北アフリカのチュニジアの中央銀行や西アフリカのセネガルの中央銀行が、ブロックチェーン技術を用いた中央銀行通貨を導入しようとしているが、これらはまだ実験段階にある。

一方、カンボジア中央銀行のバコンは、既に今年7月18日から正式導入に向けたテスト運用を開始しており、すでに国内最大の商業銀行のACLEDA(アクレダ銀行)を含む9つの銀行や決済事業者と接続して、数千人のアクティブユーザーが日々の送金や実店舗での支払いに利用しているそうだ。

このバコンはブロックチェーン技術を使った暗号通貨という意味ではビットコインなどと同じだが、取引の成立まで長い時間を要し、また一定時間内に処理可能な取引量も限られているビットコインなどと違い、ソラミツ社が開発したプラットフォームを使ったバコンは2秒以内に数千件の処理ができる高速性と容量の大きさを備えている。

また、バコンは現地通貨のリエルと同等の価値を持つものとされており、この意味でもビットコインなどよりはフェイスブックのリブラに近いものと言えるが、リブラは中央銀行に当たるリブラ協会が個々人のウォレットを直接管理し、そのウォレットにリブラを発行するが、バコンはカンボジア中央銀行から民間銀行に対していわば卸売りの形で発行される点が大きく異なっている。

民間銀行はカンボジア中央銀行から受け取ったバコンを銀行間の高額の資金のやり取りに使うほか、預金者に対してバコンを小売りする形で、預金者から発行要求があるたびに預金と引き換えに提供する。そして預金者の銀行口座の管理や本人確認は、従来通り民間銀行が行うこととなっている。

これはちょうど日本の民間銀行が、毎日預金者からの紙幣の払出要求に備えて日銀から日銀券を運んでもらい、預金者の要求があると紙幣を窓口ないしATMから提供することと同じだ。つまり、バコンは中央銀行紙幣のデジタル版であって、銀行システムの中にある預金通貨がそのまま全てデジタル通貨のバコンに変わるわけではない。言い換えればバコンはリエルという価値を運ぶ容器だと思えばいい。

バコンがリブラより優れている点は、バコンは既存の中央銀行と民間銀行の関係を変えないのでリブラのように金融政策の効果が低下する心配が無いし、マネーロンダリングの危険性が高まるといった問題もない(もちろん、民間銀行がちゃんとマネロン対策をすればの話だが)。

さらにバコンの良い点は、従来の銀行振込だと振込の手続きをした後、相手方の銀行の口座に入金するまでに時間がかかったり、相手方も入金の確認が必要だったりするところを、バコンだと相手方のスマホなどにバコンを送信すると受信した相手方はすぐにそれを使えるようになるので、入金までのタイムラグや振込手数料などのコストがかからなくなるメリットが大きい。

プレスリリースより

また、カンボジアでは15歳以上の国民の8割近くが銀行口座を持たないが、スマホの保有率は高い。バコンは相手の携帯番号宛に送金できるし、相手のスマホのQRコードをスキャンしてお金の受け渡しができるので金融包摂のメリットは大きい。

ひるがえって我が国のことを考えると、日銀も中央銀行デジタル通貨の研究を行っているとのことだが、これが導入されると銀行は内国為替の手数料商売が上がったりになり、外国為替も外国の中央銀行等との調整次第だが、商売がなくなってしまう可能性がある。これは銀行に限らず資金移動業者も同じだ。

また、PayPay、LINE PayなどのQRコード決済やSuica、Edyなどの電子マネーなどでは、お店でモノやサービスを販売してから売上金の入金までかなり時間がかかるのに比べ、中央銀行デジタル通貨は即時入金なので、圧倒的に競争力がある。それに紙幣同等物としての中央銀行デジタル通貨なのでどこででも使える。

言い換えれば自分が支払いをしようとする店がどの決済手段の加盟店かということを考える必要がなく、手数料ゼロでどこでも使えるからQRコード決済や電子マネーの存在意義が薄れてしまう。

このため日本ではこうした既存の業界との利益調整が大変だろう。特に日本の社会風土では時間がかかるのではなかろうか。しかし、世界はカンボジアだけでなく先進国を含め、中央銀行デジタル通貨導入の検討を真剣に進めている国が数十か国もあるという。

カンボジアが開発途上国だと侮っていてはいけない。技術革新を早く取り入れたものが「かえる跳び」をして先を行く者を追い越す例は、特に最近多くみられることを、日銀をはじめ関係者は十分に認識しておく必要があろう。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト

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