校長の再雇用問題でつまらなくなった学校の教員の仕事

2019年11月28日 06:00

教員、とくに小学校の教員の採用倍率が低下していることは、巷間に知られている。産休代替などの臨時教諭もなり手がまったくいない。でも、なんでこんなことになったんだろう。

教職とは、クリエイティブで楽しい仕事のはずだったのに。

教員にまでおよぶ管理社会化

現在の学校が、以前よりも子供たちへの管理を強めているということ、そしてそれによって日本の競争力すらも大きく毀損しているという指摘は、以前から繰り返し述べてきた。

では、そうなって、教員は幸せになったのか。仕事のやりがいは大きくなったのか。

答えはもちろん「否」だ。

教員たちは、かつてなく管理されている。煩瑣な事務手続きだけでなく、授業のスタイルや、子供たちとの接し方といったことまで、こと細かに指示されている。

たとえば、プログラミングの授業。来年度からやりたくもないし、やれもしない授業を教員たちはやらされるわけだが、ある教員がやる気を出して今年のうちからプログラミングの授業をやろうとする。もちろん、子供たちを思ってのことだ。すると、校長は「「いま」の指導要領のどこに載っているんだ」といって警告をしてくるのだ。

まっきぃぃ/写真AC

これからやることが決まっていることでも、自分の想像力の範囲を超えることをしようとすると、「なにかあったらどうしよう」と禁止にするのが学校管理職である。

とくに今の校長は、再雇用されなくてはならないので、60歳近くになっても、なにかトラブルがあって再任用されないのではと、戦々恐々としている。自分たちの若いころは好き勝手やっていたにもかかわらず、だ。

これは10数年前の校長たちからは、考えられなかった変化である。そのころの校長たちは、再任用ということもなかったせいか、教委とぶつかってでも、現場のことを優先してくれる人間が何人もいたのだ。

幸福を決めるのは年収でも終身雇用でもなく

いい家に住み、いい車に乗って、いい暮らしをする。こういった物理的な幸せは、人間をさして幸福にしないということが、近年明らかになっている。アメリカの研究者イースタリンによると、年収が幸福に関与するのは7万5000ドル程度で頭打ちになる(この所得と幸福の相関の研究は疑問視する人も多いけれど)。

じゃあ何が幸福を決めるかというと、自分で仕事を決められる裁量権だという神戸大学の近年の大規模な調査もある。

人生の幸福を決めるのは、自分で自分の行動を決められるという決定権だということだ。

この10年で教員の決定権は劇的に減った

そして、この10年くらいで、教員の決定権は減っている。これは不祥事やクレームを恐れる管理職と教育委員会によって、かなりガチガチの管理体制に移行してしまったからだろう。

授業をするにも学校で統一しろ、児童生徒指導もしっかりとすり合わせをして、といったふうに、個人の裁量の余地はほぼなくなったといっていい。自治体スタンダード、学校スタンダードと呼ばれる分厚い冊子が教員に配られているのは、この極致だ。たしかに、伝え方や言い回しといった些末な部分での選択肢は残っている。

けれども、大きな部分で教員ができることはかつてとくらべてほとんどなくなってしまった。

選択肢のなさが職場のブラック化に拍車をかける

学校現場のブラック化もこれに通じる。学校の教員は、圧倒的に「生きる力」が弱い。転職という最大の選択肢がないからだ。つまり、教員は自分の人生を自分で切り開けないということだ。

それで「キャリア教育を充実させる」と言っているのだから、笑ってしまう。教員も転職エージェントに査定してもらえば、もうちょっと謙虚になると思うのに。

これで定年まで耐えられるのか

たしかに、学校の正規教員は保証された人生だ。ただ、人生の大きな部分を占める仕事を徹底的に管理されて、教員たちは幸せなのだろうか。幸せでない人間が、子供たちに幸せな人生をおくる手ほどきができるのだろうか。教員はめったなことでは解雇されない。一見よい制度のように見えるが、それはまともな教員からみると、ふつうの組織なら首になっているような同僚と人生を共にし続けなくてはならないということだ。

教育はほんらいクリエイティブな仕事のはずだった。けれども、創造性は徹底的に削がれて、管理だけが残った。

この傾向は、保育園の教諭から大学の教授に至るまで、現在のベクトルは同じではないだろうか。年ばかりとった小さな組織・社会は管理に向かう。

教員採用試験は低倍率が常識になりつつあり、ふつうの人は聞いたことがない大学の卒業生ばかりになってしまった。中堅私大の出身者でもかなりエリートである。つまり、民間企業から内定がもらえない人ばかりになってしまったということだ。

このような職場で人生の大半を過ごしたいという若者は、そう多くはないだろう。ただ、すべてを決めてほしいという若い教員が、さいきん増えている気がするのは、気のせいだろうか。

中沢 良平
大手元請系企業に勤務後、私立小学校に勤務。公立小学校に転身後、早期退職。年金支給開始まで技術系個人事業主として糊口をしのぐ日々。

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