新しい「子どもの貧困対策大綱」発表について(がっかり感も)

子供の貧困対策大綱が発表されました。

今日はこの件について解説したいと思います。

新指標と「支援の届かなさ」の認識

5年前の大綱と比べ、今回前進したことは、子どもの貧困に関する指標を新しくしたこと。

前回は子どもの貧困率やひとり親家庭の親の就業率等でした。

しかしこれだと子どもの貧困の実態になかなか迫りづらかったわけですが、今回は前回の貧困率等に加えて、新たに、食料や衣服に困った経験のある世帯の割合や、電気やガスなどの公共料金を滞納した経験がある世帯の割合など、生活に即した指標を設定されました。

また、基本方針の中で、

②支援が届かない又は届きにくい子供・家庭への配慮(声を上げられない子供や家庭の早期発見と支援の多様化)

という文言が書き込まれたことです。これはかなり画期的なことです。

というのも、困っている家庭ほど、声をあげられず、支援が届きにくいからです。

「こども宅食」から見えてきた「届いていない」データ

私たちフローレンスは仲間のNPO・企業と共に、文京区において「こども宅食」という事業をしています。

経済的に支援を要する子育て家庭に対し、食品を届けながら、様々な課題を予防的に発見し、支援に繋げていく取り組みです。先週もまさにNHKで取り上げていただきました。

この「こども宅食」支援対象者にアンケートを取ったところ、行政からの支援情報の多くがシンプルに「知られていない」ということが浮かび上がってきました。

また、課題が重複している、つまり、より困っている度合いが高い家庭ほど、「周囲から知られたくない」というニーズが高いことも分かりました。

つまり、「支援が必要だったら、役所の窓口に来てね」というお店モデルの福祉ではダメで、こっちから情報や支援を「出張って届けに行く」という姿勢が無いと、どれだけ支援制度作ってもダメなんですよ、ということです。

そこに内閣府もようやく気づいてくれ、大綱に「支援が届かない又は届きにくい子供・家庭への配慮」が入ったことは、大きな一歩だったと思います。

具体策が無い

では、そうした「届ける福祉」「出張っていく福祉」(=アウトリーチ)への転換のための具体的な施策が大綱に書かれているか、というと…。

無い。

無いんですね、これが。

従来の学校におけるスクールソーシャルワーカーを増やしたり、居場所を増やしたり、無料塾を増やしたり、というようなことには言及されているのですが、「支援が届かない又は届きにくい子供・家庭」にどう届かせていくのか、という具体策は全然無いわけです。

キムタクじゃ無いですが、「ちょ待てよ」です。

寄付に頼らざるを得ない民間事業

実際、例えば「こども宅食」は一生懸命寄付を集めて活動しています。(文京区にふるさと納税すると、モデル事業に寄付が。佐賀県にふるさと納税すると、モデル事業を全国に広げることに寄付がいく仕組みです)

しかし、本来ならば、支援が届きにくい家庭に出張っていくための政策メニューがあって、そのメニューの実行は税(補助金)でなされるようにならなければ、持続可能とは言えません。

政府は「子どもの未来応援基金」というものを作って、企業寄付などを集めているのですが、いやいや、こここそ予算(税金)をしっかり使うところでしょ、とツッコミたくなるわけです。

保育園も児童養護施設も3歳児検診も、子どもと子育て家庭を守るセーフティネットは税による再配分施策のもと運営されているわけで、安倍総理も「子どもの貧困対策は未来を担う子どもたちへの投資だ」と仰っているわけなので、しっかりとここにこそ「予算を」投資をして頂きたい、と思う次第です。

まとめ

大綱で方針を掲げただけでは、絵に描いたパンケーキになってしまうわけで、具体策と予算による裏付けが望まれます。

民間NPOとしては、政府が具体策をあれやこれや考えているうちに、現場でモデル事業を生み出し、実証性を検証し、各地に広げていきつつ、制度化を後押ししていきたいと思います。

そんなわけで子どもを愛する国民の皆さん、大綱がしっかり効果をあげられるよう、共に声をあげ、手を動かしていきましょう。

追記

文中にもありましたが、民間による「支援が届きにくい家庭」への「届ける福祉」への実践事例「こども宅食」で絶賛応援募集中です。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年12月3日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。