台風19号:全壊判定のはずが半壊と判定され考えたこと

フライングの全壊判定

「これはもう、確実に全壊と判定されると思います」

罹災証明書の発行手続きをした際、この職員からの言葉に安堵しました。被災状況の写真から床上1.8m以上の浸水が確認できるため、全壊判定でまず間違いないだろうというお墨付きを頂いたわけです。

全壊と半壊とでは後に受ける支援にも大きな差が出ますから、どんな判定が出るかは大変に重要でした。たとえば、被災者生活支援制度では全壊・大規模半壊が対象となる一方、半壊ではごく限られた場合を除いて対象外となってしまいます。(参照:内閣府HP「公的支援制度について」

さて、このレベルの浸水になると、ほぼ全ての家財・衣類等は廃棄処分になりますが、私にとって何よりも痛手だったのが、大事な本や資料たちがほぼ全滅してしまったことでした。

もうしばらく目を通していない事務所や実家に眠っている本たちならまだしも、たくさんの書き込みがなされた大切な本や資料たちを失ったという事実の大きさは、筆舌に尽くしがたいものがありました。本の損害額だけで数百万円になりますが、その金額以上の「知の蓄積」という財産を失ってしまったわけです。

こうした状況でしたので、全壊判定のお墨付きは、まさに不幸中の幸いでした。申請してからほどなくして、先述した被災者生活支援制度をはじめとした各種制度を調べ始めたことは言うまでもありません。

届いたのは不可解な判定

ところが、私が受け取ったのは「半壊 ただし、1階フロア部での判定。浸水高1.8M以上」という不可解な判定でした。職員によれば、浸水高1.8m以上で全壊となるのは木造家屋の場合であり、私が住んでいる賃貸マンションは別の基準によって査定されるのだそうです。鉄筋コンクリート構造物と木造構造物では耐久力が異なるため、基準も違ってくるという理屈でしょう。

しかしながら、どうにもこうにも腑に落ちないことがあります。写真のとおり、部屋全体が激しく損傷し、内壁に至っては完全に壊れてしまった結果、私が住んでいた102号室と隣室の103号室がつながってしまったのですから、ここで生活をするのは困難でしょう。

構造物が全壊に至っていないのは分かりますが、住居が鉄筋コンクリートであろうとなかろうと引っ越しせざるを得ないのは確実ですし、ほぼ全ての家財・衣類等々を失ったという事実も変わりありません。

要するに、もし私が木造の借家・アパートで生活をしていれば、被害額が同じであるにもかかわらず全壊判定となり、得られる支援に大きな差が生じるわけです。

私は恵まれているケース

それでも、私は他の被災者の方々と比べれば恵まれています。持ち家が居住不能になったにもかかわらず半壊判定となってしまったご家庭もありますし、2011年に起きた原発事故の損害賠償金に至っては、道路を挟んで左側と右側で、得られる金額が数千万円違ってくるというケースさえありました。

大規模災害の場合、支援対象者があまりに多いため「木造構造物は1.8m以上の浸水で全壊」や「(原発事故により生じた)帰還困難区域は全損」といった簡易的な判定法をせざるを得ない事情は理解できます。しかし、その簡易的な方法により、にわかには納得できない判定を受けてしまう人々もいます。

そうしたケースに対するフォローのあり方は、残された課題の一つだと思います。私も、もう少し生活が一段落したら、その課題について考えてみるつもりです。

申請時にもらったフライング全壊判定はさておき、役所の職員の皆様には大変に誠実な対応をしていただきました。「半壊 1.8M以上」という表記は例外的な措置だったようですが、これがあったおかげで、市からは全壊判定と同レベルの生活必需品を頂戴しました。この場を借りて御礼申し上げます。また、友人たちからいただいた心温まる支援についても、感謝の念を抱かずにはおれません。

物江 潤  学習塾代表・著述家
1985年福島県喜多方市生まれ。早大理工学部、東北電力株式会社、松下政経塾を経て明志学習塾を開業。著書に「ネトウヨとパヨク(新潮新書)」、「だから、2020年大学入試改革は失敗する(共栄書房)」など。